臆病なキミと意気地なしのボク/サンプル(冒頭部分)
───────★ GPF2016 〜バルセロナ〜
「ヴィクトル、ちゃんと歩いてよ! ほら!」
自分より大きな体を健気に負ぶって部屋の前までたどり着いた勇利は、部屋のカードキーを探すのに、とうとうヴィクトルを支えるのを諦め転がした。絵に描いたような秀麗なスーツ姿でホテルの廊下に転がる酔っ払いのポケットを全て裏地ごとひっくり返して、最終的には自分のポケットからカードを見つけると、そのままドアを開けてズルズルと死体でも引きずるようにヴィクトルの体を部屋の中に運び込んだ。
「も〜、そんな酔ってないでしょ、横着しないでよ」
「このスーツ、フジソバのカツドンが千個は食べれるよ……ゆうり、ひどい」
「そんな高いスーツ着る人は富士そばでカツ丼食べないでよ、他のお客さんびっくりするから」
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