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    botabota_mocchi

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    蒼天〜漆黒のシグリの成長のような何か

    ##14

    祈り誰かの祈りを受け止めるのが、きっとずっと、怖かった。



    雪の家に迎え入れられた頃の私は、お世辞にも愛想の良い状態ではなかったように思う。オルシュファンくんはいつだって寛容に、肯定的に私を捉えてくれていたけれど。オルシュファンくんの暖かさに触れて、心から人のために尽くすというのがどういうことか知った。アルフィノくんの成長に触れて、人の進歩を見守るということを知った。タタルくんの奮闘に触れて、人を支える難しさを知った。エスティニアンさんの、イゼルさんの、アイメリクさんの、ヒルダさんの、フォルタン家の人々の――挙げ始めればキリのない話だ。身一つで飛び込んだあのイシュガルドで、私が得たものはきっと人間らしさというものだ。喜び、怒り、……喪失の悲しみでさえ。
    常に陽光照らすエオルゼア三国のどこよりずっと、雪に包まれたクルザスの地は過ごしやすかったはずだった。英雄の驕りなんてものを持った覚えはなかった。だって私は、人の前に立つのも、人に担ぎ上げられるのもずっとごめんで、何かに縛られたくもなくて――言い訳をつけたところで、国のため、私のために散った命は戻らない。私はずっと、その献身に対する答えを見つけられずに、いたのだ。
    覆い被さる逞しい体は己の在り方をよく理解していた。宙に投げ出された華奢な体躯から迸るのは、どうしようもなく強い志だった。彼は私に笑えと祈り、彼女は私に夢を祈った。そうして弔われた美しい命に報いる方法が、私にはずっと――わからないのだ。



    戦争に巻き込まれるのはちっとも構わない。英雄という肩書きの有効活用だと思った。例えこの解放活動がうまくいかなくても、指針を失って迷い惑うリセさんが泥を着る必要がない。期待と憎悪は表裏一体、私の首で親しい人が救われるなら、まあ、きっと、それも悪くない命の使い方だろう。アラミゴ解放軍に接触した頃の私はたぶん、少し――少しだけ、自分の命を生きるということを諦めかけていたのだと、思う。
    郷愁が彼らの強い心の源だというのなら、私には一生理解のできないことだと思った。リセさんをはじめアラミゴの人々も、ヒエンさんをはじめドマの人々も、彼らの根付く場所があって、それが力になっている。少しだけ地面がぐらり、揺れる。根を張れば動けなくなる。動けなくなったら、どこにも逃げ出せなくなる。そこに私の自由はない。――そんなことは、どうでもいいのだ。私は私の仕事をする。願望器で、兵器で、旗頭。すべてひとのために。望み、願い、希う、つよくてよわい人々のために。
    ――あれ?
    おかしい、何かがおかしいと、頭の片隅でずっとひっかかってはいるのだけれど。今の私は英雄で、そう、そう望まれたから、戦っていて、人への情が、親しみがそうさせるのであって、だから私、私は、……私は神さまじゃなくて人間でいられているはずなのだ!
    「貴様には理解できるはずだ……俺の同類だからな……」
    金色の髪の毛が風に靡くのを嫌に無感動に眺めていた。優美な花畑も、荒れた空も、全てがちぐはぐで嫌になる。
    同じなのだろうか。化け物とまで言わしめた獣性を隠さぬこの人と。同じなのかもしれない。でも私、本当はずっと――。
    「わたしとあなたは違います。似ているのは、呼吸の仕方が人と違うところだけ」
    きっと、戦いたいなんて思ったことがない。



    そうだ。私にとっての地獄とは、こんな色をしている。尽きることない光で霞んだ世界を見渡す。旅をして、美しい景色を目に焼き付けて、風が肌をなぞるのを喜んできたのに。それすらままならないなんて。空に太陽はない。私の唯一嫌うもの。だけれど、私の目はこの世界を正確に映しはしなかった。私の目には余る光が全てを阻んで、思考までもやがかっていく。
    でも、それでも私は、暁の人々を無事に連れ帰らなくては。私に助けを求めてきた水晶公とこの世界を、救い上げなければ。このどうしようもなく私を拒む世界が、私にしか救えないと――だって、そう、言うのでしょう。
    軋む体も暈ける視界も、日に日に異変を訴える自分自身に全部、全部蓋をして、駆ける、駆ける、……駆けた先にあるのは、私の死の運命をひっくり返すことらしい。
    (……死んじゃいけないのかな)
    私にはもうその自由もないのだろうか。ふとよぎった思考を世界の危機と挿げ替える。ああそうだ。彼は、彼らは、世界を救ってくれと頼んだのだ。それは必要なことだ。そう己を納得させて、自分の手指さえも光り輝く恐怖に膝をつかないようにずっと、走ってきたのだ。なのに、それなのに。

    ただ私に生きて欲しかっただけだなんて、言うのだ。

    なんて純粋でまっすぐな祈り。私さえ諦めかけていたものを無理矢理握らせて、私という英雄に微笑む人。馬鹿みたいだ――まったく、すべてが、ばかみたいじゃあないか!
    人の祈りを受け取るのが苦手だ。私に何も望まないから。人の祈りを受け取るのが苦手だ。私は何も返せないから。
    当たり前だ。だって私、ずっと、ずーっと……伸ばした手を取ってもらう、そんな普通のことを知らなかったのだ。そばに温かい手のひらがあることを、知らなかったのだ!
    拳を重ねてくれる人がいた。背中を押してくれる人がいた。私を見守る人がいた。分かり合える人がいた。道の重ならない人がいた。私一人の存在で世界は変わらないけれど、私一人の存在を肯定してくれる人がいると……どうしようもなく知ってしまった。
    人が好きだから助けたい、世界が美しいから守りたい、――私を、慈しむ人たちがいるから、私は、私を生きたい。踏み躙った全てを拾い集めて、振り返った過去に影が落ちても、今ここから人らしく生きていけそうな気がする。

    「おはようございます、――」

    ああなんだ、朝日が登るのも、案外悪くない。
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