好意と悪意「あ、リコーダー教室に忘れてきた」
下校時の下駄箱で、履き終えたスニーカーを見ながら俊介が呟いた。
「一人ォ、お前まだ上履きだし取ってきてくれよ」
しゃがんだまま俺を見上げて言う俊介はほんの少しだけ甘えた声を出す。俊介には姉がいる。弟気質が出るのだろう。
「良いよ」
そう言うと俊介は満足そうに笑って、教室に向かう俺に手を振った。
廊下を曲がったすぐそこにあるのが俺たちの教室だ。もう誰もいないと思っていたその教室のドアを開けると、そこにはひとりの女子が残っていた。
「何してるの」「まだ帰ってなかったの」そう声をかけようとしたが、目の前の光景に言葉を失った。
女子がいたのは俊介の机のそば。手には何か細長いものを手にしていた。その子は俺を見ると、慌ててその細長い何かを机に置いて、俺がいた逆のドアから走って出ていった。
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