痛みと慈しみ① 1
そこに眠る死者の頭を優しく撫でるように、風が吹く。冷たい風だった。その息遣いに合わせてさわと囁くように揺れるのはついこの間まで極彩色の葉を纏っていた枝々で、むき出しになった木の表皮が、秋の終わり特有の寒々しさをいっそう際立たせている。
雨緒紀が北流魂街七十五区の山中に足を踏み入れたのは、あの一件からはじめてのことだった。渦楽作兵衛の手によって引き起こされた、瀞霊廷を揺るがす数々の騒動。憎悪という、それまで生きるよすがとなっていた感情に衝き動かされた作兵衛は元柳斎の暗殺を企て、そしてこの地で長次郎の手によって粛清され、葬られた。
あれからまだひと月も経たないというのに、作兵衛の墓――墓と言っても墓標どころか目印すらもない、土が盛り上がっただけの場所――の上には水分が抜け、色彩を失った枯れ葉がいくつも重なっており、雨緒紀には、それがまるで葬られている人間の存在自体を覆い隠しているように見えた。雨緒紀自身も同情をするつもりは微塵もない。全てがあるべき結果へと帰結した、ただそれだけのこと。
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