この身に隠して あの人は僕に触れようとしない。
粗野で、いつまで経っても僕を子ども扱いして、それなのにどこまでも優しいあの人。
僕の中に特別な想いがあると僕自身が気が付いた瞬間、それを知られてしまったかのように肩や背にさえ触れなくなった。
理由はわかっている。僕の身体は、命は、僕のものであっても決して僕だけのものではない。
死に瀕していた僕が、ウィリアム兄さんとアルバート兄様に命を救われた証である胸元に残された手術痕。そして、二人へこの身を捧げると誓った頬に刻んだ火傷の痕。
僕があの人に恋慕を抱くことは二人の兄を裏切ることになり、あの人が僕に触れることは忠誠を誓ったウィリアム兄さんを裏切ることになる。
恋など知らなくていい。知る必要は無い。
ただ兄さんの計画のために生き、そして死ぬことが出来ればそれでいい。
ずっとそう思っていた。
「モラン、さん……。」
なのに、あの人の名前を呼ぶ度に恋しさが募って、苦しくなる。
こんなに苦しいのなら恋なんて知らなければよかった。恋を知らないままならあの人は僕に触れて、笑っていてくれたかもしれないのに。
「許されない恋」
あの人が口にした言葉が胸へと突き刺さったまま、ほんの少し動く度に傷が広がって鮮血が溢れ出る。
恋なんて叶わなくてもいい。好きだと思ってくれたらなんてそんな想いはずっと昔に封じ込めた。それでもこの恋という厄介な代物は消えてくれはしない。
だとしたら、僕がしなくてはならないことは一つしか無いのだろう。
いくら心から鮮血が溢れ出ても、苦しくても、この恋を隠していくこと。
僕がただ計画のために生き、死んでいくために。
そして、あの人の誓いを穢さないために。
僕の願いは、それだけで十分であるはずなのだから。