エピローグの後に社会の掃き溜めのような極道の世界にあっても、大切な人をどれだけ失い心が折れそうになっても、真っ直ぐ前を見詰める瞳は濁らない。
そうしてそれを持つ彼自身も嘘を吐けず曲がったことが許せぬ性格をしていた。
彼を慕う者はそこに惹かれたし、振り返れば自分もそうだった。
生き辛そうやな、とは思う。
自分のように、いやそこまでいかなくても、上手く自分の心に折り合いを付けて流されながら世の中を渡れば、そして総て背負おうとしなければ、もっとふつうのしあわせというものが手に入れられただろうに。
隣に眠る男を眺めながら思う。
睫毛が震えゆっくり瞼が開かれる。
黒眼は潤んでいて甘そうだ。思わず舐め取りたくなるが、頬に触れるだけに留めた。
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