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    椎那わたる

    @shiina_RunWey

    魔道祖師と中華沼
    SSとからくがきとか!

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    椎那わたる

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    女体化魏無羨アイドルWebアンソロ企画
    「WWXアイドル宣言!」にて寄稿した小説です。公開は3月!
    魏嬰がアイドルになる瞬間を書きたくて、書いてみました。全年齢です。
    プロデューサー藍忘機が見つけた、たったひとつの原石。
    先輩アイドルとして男性アイドルユニットの小双璧が出ます。

    煌めき、ひとつだけ。 その日彼女を見つけた彼の目には、眩い街灯も霞んで見えた。

     ひときわ光り輝く原石を見つけること。それがアイドル事務所「姑蘇プロダクション」アイドル部門に所属する総合プロデューサー、含光君こと藍忘機の仕事である。
     彼はアイドルの発掘、スカウト、プロデュースからプロモーション業務まで、一手に引き受けトップアイドルを育てている。そしてアイドルを卒業したメンバーは俳優、劇団員、声優など、ありとあらゆるマスメディア関連のプロとして育って行った。
     今日は彼が長年プロデュースしていた男性アイドルユニット、『Show-Sow-Heki』のラストライブの為に雲夢アリーナまで足を運んでいた。雑誌、バラエティ、ドラマ出演と人気を博したSSHのメンバーである藍景儀と藍思追は、そのライブを期にソロ歌手と映画俳優へそれぞれステップアップする。今後はそれぞれの人生を歩むため、別々の道を行くことになるが、彼らなら大丈夫だと彼は自信を持って送り出した。転属先で新たなパートナーと組み、姑蘇プロダクションの未来を担うプロとなるだろう。

    「……」

     舞台袖で最後の曲を歌うふたりを見つめる藍忘機の目には、迷いが一切ない。
     ラストナンバーを歌い切り、観客席からは嗚咽と歓声、名前を呼ぶ大勢のファンの声が聴こえた。会場が割れるくらいに溢れる拍手と、水色と臙脂のサインライトの海がモニターに映る。涙を流す藍景儀は、藍思追と抱き合って同時にステージを降りた。贔屓目に見ても、ふたりのパフォーマンスは閃光のように輝いて見える。
     舞台袖に戻ってきたSSHの2人は、涙で目の周りを赤くして、担当プロデューサーの元に向かった。藍忘機は2人を駆け寄って出迎え、大きく手を広げて肩を抱いた。

    「含光君、…俺たちのステージ、どうでした?」
    「…景儀はステップが一拍遅れたが、思追がカバーして違和感がなくなった。後半パートで思追の声が出ていなくても、景儀の声で持ち直している」
    「はい…」
    「お互いの良さがひときわ出て、最高のステージになっていた。…ここまで仕上ったのは、君たちだからだ」
    「っ……含光君……!」
    「私は…厳しいばかりで、君たちに辛い思いをさせたかも知れない…。それでも、私が育てた最高のアイドルだと胸を張って言える。ここまで連れてきてくれて、ありがとう」
    「うっ……ひぐっ…」
    「景儀、鼻水…」

     泣きじゃくる藍景儀をなだめ、ティッシュを差し出す藍思追。長い間共に戦ってきた2人を見つめる藍忘機の口元に、微笑みが広がる。

    「2人とも、今日の公演が終わった後はゆっくり休みなさい。打ち上げはまた後日行おう。…ほら、ファンの声が呼んでいる」
    「「…はい!」」

     藍忘機が2人の背中を後押しすると、アンコールの手拍子と歓声が大きくなるステージへと再び舞い戻った。ありがとう、とファンたちの声に応える2人の声を聞いて、目頭を押さえる。

    「…含光君、お疲れ様でした」
    「ありがとうございます。しかし、まだ、ライブは終わっていない。引き続き、サポートを」
    「はい!」
    「私は少し、この場を外します。2人が戻ってきたら、大いに労ってもらえませんか」

     藍忘機の表情を見たスタッフは、驚きつつも頷き彼を送り出した。会場の噎せ返る様な熱気を離れ、舞台袖からスタッフ用通路を通る。通用口のドアを開けてアリーナの外気を吸うと、夜の冷たい新鮮な風が涙を乾かし、肺の中を満たしてくれた。
     天塩にかけて育てたアイドルたちが、自分の手元から巣立つこの感覚に未だ慣れない。それでもやりがいのある仕事であり、原石を輝かせることで新たな煌めきを生み出すことに生きがいを感じた。自分は主役ではなく、主役の隣に並ぶ相棒でありたい。
     大きく深呼吸してふと耳を澄ませると、アリーナの近くにある公園から途切れ途切れの歌声が聞こえた。その声は女声歌手のように思えたが、時折音程が崩れることからプロではなさそうだと感じる。その声の主を見つけるため、藍忘機はスタッフと書かれたネームホルダーを首から提げたままその場を走り出した。声が近づくに連れ、歌声が途切れて今度は笛の音が鳴り響く。魂ごと惹かれてしまうようなその旋律に、藍忘機は全神経を集中させた。

    「……」
    「~~♪」

     公園の眩いばかりの街灯に照らされて、一人の少女が横笛を吹いている。
     長い髪を風に遊ばせるまま、彼女は演奏に集中していた。月明りも霞んでしまうような彼女自身の眩さは、藍忘機にとって運命の出逢いだと直感させた。

    「……君…」
    「…ん?」

     閉じていた瞼を開け、じっと藍忘機を見つめる瞳。
     まだあどけなさが残るものの、その眼差しはとても強い輝きを放っていた。
     少女は眩そうに目を細め、藍忘機を見つめる。余程見られて緊張しているのか、笛を持つ手が固まっている。

    「……な、なんだ、あんた」
    「申し訳ない、こう言うものです」

     藍忘機はワイシャツのポケットから名刺入れを取り出し、一枚手にすると両手に持ち替え少女に差し出した。それを胡散臭そうに受け取った少女は、文面を見つめ肩を跳ねさせる。

    「姑蘇プロダクション……藍……あっ!?まさか含光君…⁉」
    「…私の事を知っているのですか?」
    「当たり前だっ…ですよ…育てられたらまずデビューとヒットが間違いない凄腕のプロデューサー…こないだ『灼熱岐山』で見た…」

     ぜひ出演して欲しい、と事務所から打診されたドキュメンタリー番組の名前を出され、番組に出てよかったのか悪かったのかと藍忘機は少し思案する。内容は何の変哲もない仕事中の密着取材だったが、私生活は一切明かしていない。

    「…あぁ、なるほど。対して面白みもなかったと思いますが……」
    「そんなことはないっ!俺はあんたの事、尊敬してるんだ…七弦琴奏者としても、業界の人間としても…」
    「……ありがとうございます。ならば話は早いですね。ぜひ、当事務所でアイドルになって欲しいのですが」
     
     予想外な言葉なのか、少女は両目を瞬かせて藍忘機を見つめた。

    「…俺が?」
    「はい」
    「素性も知らないのにか?」
    「いいえ。あなたの歌声と笛の音を聴きました」
    「……」
    「それだけで充分過ぎる判断材料になります」

     ぽかんと口を開けたまま、少女は手にしていた横笛を取り落としそうになった。慌てて持ち直し、じっと考え込むように足元の一点を見つめている。

    「……俺、まともにレッスン出ないかもよ?」
    「スケジュールはお互い話し合い、決めていきます」
    「プロポーションも良くないし」
    「レッスンと食事、体力トレーニングで調整します」
    「……そもそも…俺でいいの?」
    「君しか居ない」

     藍忘機にじっと見つめられ、目が合った少女は慌てて視線を外してしまう。グレーのスーツに短く切った黒髪、琥珀色の瞳はモデルだと言われてもおかしくないだろうが、彼はれっきとした裏方の人間だ。少女はそんなふうに言われたことがない、よく見たら超絶美形だな等と好き勝手言って大きく深呼吸した。

    「……わかった」
    「…?」
    「やるよ、アイドル」

     決意するまで、ものの数分しか経過していない。今度は藍忘機が呆気に取られる番だった。

    「…その…御家族などに相談は…?」
    「俺、両親いないんだ。親戚に義理の姉弟はいるけど」
    「……そうですか」
    「俺は含光君を知ってるけど、あんたは俺を知らないだろ?俺は魏無羨、魏嬰って呼んで!」
    「魏嬰、魏嬰か……うん、ありがとう。私は藍忘機。君が言うように含光君とも呼ばれているが…」

     魏無羨、と名乗った少女は弾けるような笑顔を見せると、右手を前に差し出した。それに応えるように藍忘機も右手を差し出す。軽く握手するつもりが、魏無羨の華奢な手が藍忘機の大きな手をぎゅっと握って離さなかった。

    「じゃ、今日から頼むよ、含光君!あっ、藍プロデューサーがいい?それとも藍にいちゃん?」
    「……君が好きなように呼んでくれれば」
    「そうだなぁ……それじゃ、藍湛…は?」

     藍忘機の耳がぴくんと動き、一瞬目を伏せる。いいだろう、と頷き言葉を返した。

    「……どうして私の名を知っている…?」
    「だって顔に書いてあるだろ」
    「……?」
     
     不思議そうに首を傾げて魏無羨を見やると、彼女はようやく握った手を離して身支度を始めた。

    「それじゃ、俺は帰るから…明日からどうすればいい?」
    「必要な書類を書いて、簡単な面接を行う。明日の朝10時、場所は姑蘇プロダクション3階だ。分からなければ名刺に書いた私の電話番号に……」

     言った端から魏無羨はスマートフォンを取り出して、名刺を片手にしたまま片手で電話番号を入力した。間もなくして藍忘機のジャケットの内側から着信音が聞こえ、スマートフォンを取り出して画面を見る。

    「それ、俺のスマホ番号だから」
    「……分かった」
    「それじゃ、また明日な!藍湛!」

     ひらひらと手を振り、去る間際の魏無羨の手を握って静止する。

    「……夜道は危ないから、君の自宅まで送ろう」
    「へぇ?まるでボディーガードだな」
    「それも私の仕事だから。今ライブが終わったので、現場に一言伝えなければ…もし良かったら、ステージの舞台裏を見に来る…?」
     
     思ってもみなかった提案に、魏無羨は小躍りしたくなる思いで頷いた。

    「いいの?!ライブって…もしかして…SSHのラストライブ…」
    「来ればわかる」

     嬉しさを噛み殺して務めて冷静であろうとした藍忘機は、魏無羨の手を取り歩き出した。2人は雲夢アリーナの関係者通用口に向かう。魏無羨は初めて見るものばかりだからなのか、キョロキョロ見回す視線は忙しない。藍忘機が入口スタッフに二言程伝えると、すぐに『イベント関係者』のネームプレートを持ってきて魏無羨に渡した。

    「これを首から提げて」
    「ん…なんか、緊張するな~」

     すれ違うスタッフから業界関係者まで、誰もが魏無羨の顔を見て2度見したり振り返る。自分の顔に何か着いているのかと藍忘機に問いかけたが、彼は終始無言だった。
     
    「……なぁ、含光君…俺、ここに来ていいの?」
    「君は既に関係者だ。本当にアイドルになるのだと心に決めるのは、現場を見てからでも遅くはない。見学するのが嫌なら、無理にとは言わないが」
    「断る理由があるかよ…!」

     軽口を叩きながら魏無羨が言う。突然現れたプロデューサーから突然スカウトを受け、偶然舞い込んだ人気アイドルのライブ会場見学と目まぐるしく事態が動く。藍忘機に招かれた先、ステージ脇ではスタッフが舞台を降りたSSHのふたりを励ましていた。

    「…そっかぁ…あの2人、ほんとに引退しちゃうんだな。アイドル」
    「それぞれの道をそれぞれが決める。当事務所の基本方針だ」
    「へぇ…。俺よりも年下なのに、すごいキラキラしてて…憧れてたんだ」

     2人でSSHを離れた場所で見守りつつ、藍忘機が魏無羨に言葉を向ける。彼女は何か思案したように一点を見つめ、すぐに藍忘機を見上げた。

    「……じゃぁ、さ」
    「嗯」
    「俺に、もしも、好きな人ができたとしたら。事務所は後押ししてくれるのか?」

     魏無羨の言葉に、藍忘機は表情を崩さず頷く。いずれ訪れるであろうその未来に、きっと自分は彼女の横に居ないだろう。そうと分かっているのに、心がささくれ立つのを誤魔化すように頷くしかなかった。

    「…時と、相手による」
    「自分のプロデューサーが好きだって言っても?」

     魏無羨の言葉の意味を理解するのに、藍忘機は少し時間が掛かってしまった。口を開こうとした瞬間、魏無羨が慌てて取り繕うように両手を顔の前で左右に振った。

    「あっ!い、今のはその…ごめん、例えばだから!初対面なのに、何言ってんだろな…」
    「…構わない…」
    「え?」
    「君が好いてくれるようなプロデューサーに、なることを誓おう」
    「…あ!そ、そうか…!それじゃ、俺もがんばらないとな!」

     ステージ中央に立ち、魏無羨はゆっくりと眼を閉じて深呼吸した。
     アリーナ席、1階席、2階席、そして舞台袖からの拍手と歓声を一心に受け、『アイドル』魏無羨が歌って踊る。サインライトの明かりがまるで故郷に咲く蓮のように、揺らめいて幻想的な光景を作り出す様子が脳裏に浮かんだ。いつかこんな舞台に上がってみたいと描いていた夢を現実にできる日が、どれだけ未来になろうとも。それを叶える自分自身と、ここまで連れてきてくれた藍忘機の二人三脚で歩んでいくと決めたのだから。

    「……魏嬰」
    「ん?」
    「そろそろ、行こう」
    「うん!」

     名を呼ぶ相棒に、満面の笑みで言葉を返す。
     広いアリーナ、狭いステージ。舞台に煌めき、ひとつだけ。
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