お引っ越し!(あすさとSS)「ふ~、なんとか片付いたかな?」
入間は額に浮かんだ汗を首にかけたタオルで丁寧に拭いながら、ほっと息を吐いた。一人暮らしには広すぎるくらいの広さのこの部屋なのに、あちこちにまだまだ段ボール箱は山積みになっている。必要最低限の物だけ持って来たはずだったが、あの狭いアパートの一室にこんなに物があるとは思わなかった。
「もうひと頑張りしなきゃ!」
腕まくりをしながら気合いを入れたそのとき、玄関のチャイムが鳴った。引っ越して来たばかりのマンションに当然知り合いはおらず、配送業者も帰ったばかりだし、電気ガスなどの業者が来るにはまだ早いよねと腕時計を見やった入間は「しまった!」と顔を青くする。慣れない片付けに手間取って、自分が考えていたよりもかなり時間は経過していた。鳴らした主に十分な心当たりがあるので持っていた荷物を文字通り放り出して、長くはない廊下を全速力で走って玄関へ向かった。
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