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    ぴろきさや

    そのとき書きたいものを書いています。よろしくお願いします。

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    ぴろきさや

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    魔フィアIFアズイルです。
    アズくんが功を焦り単独で敵のアジトに突入し捕まってしまいイルマくんとオペラさんが助ける小話です。

    ほろ酔い「ほろ酔い」


    (しくった……)
     アリスは胸の奥でそう呟きつつ、小さく舌打ちをした。この手詰まりの状況をなんとか打開できないかと、素早く周囲に視線を走らせるも、視界に入るのは、にやけた面をした小汚いチンピラ数人と、ここ廃工場にありがちな鉄屑ぐらいしかない。味方であるバビルの人間はいなかった。それもそのはず、アリスは単身で敵地へ乗り込んだのだったから。

     アスモデウス・アリスが正式にバビルの一員になって、三ヶ月が経った。イルマの元で彼の為だけに粛々と働いていたアリスだったが、もう縁は切ったとはいえど元公僕であり、さらに潜入捜査官だったという過去は他の組員とかなりの隔たりを生んだ。
    「最近入った新入り、やけに態度デカくねえか?」「ああ、アイツは首領のお気に入りだから仕方ねえんだよ」「お気に入り? ははっ、首領も大人しそうな顔してやるねえ」
     アリスとしては、イルマ以外の他者による自分への評価や批判など心底どうでもよかったが、イルマと言葉も交わしたこともないような下っ端風情が己のせいでイルマを軽んじる発言をするのを耳にして、一瞬にして頭に血が上った。これではイルマに迷惑がかかると信頼回復に努めることを決め、早速動き始めた。簡単なことだとタカをくくっていたアリスだったが、そう易々と悪い噂がひっくり返るはずもない。しかも間の悪いことにアリスが活躍を見せられそうな仕事も一向に入らなかった。
    (ならば……!)
     業を煮やしたアリスはそう考え、昔の伝手を頼り、極秘情報を掴んだのだった。
     情報は、とある組織がこの廃工場で麻薬の裏取引が行われるというものだった。黒幕はバビルと友好関係を結んでいた組織だった。表向きは友好関係を保っていたが以前からバビルの縄張りで好き勝手に荒事をしでかしており、なんとか対処したいと考えてはいたものの、フットワークだけは軽く瞬く間に自分たちの痕跡を消していつも逃げ切っていた。首領の頭上をブンブンと飛び回る蠅はこの上なくやかましく不快だ。アリスはこれを退治すべく意気揚々と廃工場へ乗り込んだ。雑魚数人を片付けることなど造作も無いはずだったが、忍び込んだ途端、一斉に囲まれて体を押さえつけられどうすることも出来ず、アリスは縛られて地面に転がされてしまった。


    「しっかし、まさかあのバビルの「掃除屋」が一人でのこのこやってくるとはなぁ」
     金の鎖で出来たブレスレットをジャラジャラと無駄に鳴らして、この集団の頭らしき男が近づいて来た。
    「ヤクの取引は今日の深夜だ。テメエはガセネタをつかまされたんだよ! ざまねえなあ」
     口端を下品に捻じ上げて笑う男の声など、とうにアリスの耳には届いていない。
     手首にギリギリと食い込む結束バンドの痛みなんて、この羞恥心に比べればなんてことはない。頬を殴打されたときに切れてしまった口端から流れ込む血液の苦みなど、瑣末なことだった。
     しかし、この粗暴で頭の悪いチンピラたちはアリスが自分たちを恐れ戦いているからこその振る舞いだと盛大に勘違いをし、優越感に酔いしれている。
     ガハハ、と下品な声で笑い、安酒をくらっていた。「これが欲しかったんだろ?」とヤクが詰まっている黒い鞄でアリスの頭を小突いた。
    (イルマ様、申し訳ございません)
     悔恨に悶えて奥歯を噛みしめる。己れに対する怒りで目の前が赤く染まった。
    この作戦を持ちかけたときのイルマの顔が脳裏へ浮かぶ。


     アズくん、それは駄目。

     彼は顔を曇らせてぴしゃりとこう言った。

    「どうか許可を」
    「駄目だよ。そんなあやふやな情報、危険すぎる」
    「しかし」
    「アズくん、それは駄目」
     いつも柔らかに輝き、澄んだ青い瞳の奥が、その時ばかりは濃く蒼く燃えていた。呼吸するのも忘れるくらい畏れたのを思い出す。
    しかしアリスはイルマの目を盗み、こっそりと屋敷を抜け出したのだった。

    (イルマ様……あんなに止めてくださったのに……何て私は愚かなことを!)
    「おい! 聞いてんのか?!」
     耳障りな声で否応なく現実に引き戻される。
    「うるさい」
     苛立ちを隠せずに睨みつけた。
    「なんだとこの野郎」
     男の配下であろうチンピラの一人が鉄パイプを手に持ち、その先でアリスの肩を強く突いた。赤銅色の錆がアリスの着ているスーツを汚す。
    「まあまあ、お前も飲めよ」
     例の鎖男が近づいて来た。手には小ぶりの酒瓶を持っている。中身は当然酒だろうが、色味がどす黒く濁っていて泥水にしかみえない。
    「ほらよ」
    「ぐっ、カハッ……!!」
     瓶口を口に押しつけられたが、激しく顔を背けると、今度は顎を掴まれながら腹を強く蹴られ、一瞬喘いだそのときに酒瓶をあおられた。容赦なく液体がアリスの口内へ流れ込む。
    「うっ」
     アリスの視界が見る間にぼやけ、ぐらぐらと揺れだした
    「な……?」
    「密造酒だ。よくキくだろう?」
     チンピラたちは下卑た笑みを浮かべ、アリスを指差して口笛を吹く。
     たかがこれぐらいの酒量で酔うはずがない。だが、体は火照り発汗しだし、見る間に顔から汗が滴り落ちる。
    「遠い東の国が作ったヤクを少しだけ混ぜたんだが、どうかな? って、見れば分かるけどなあ」
    男はアリスを上から下までねっとりとした目つきで舐めるように視線を走らせると手を伸ばして、汗が滲んだ鎖骨を撫でる。
    「触るなっ!」
     声を荒げたそのとき、
    「坊ちゃん、帰りませんか」
    「オペラさん駄目だよ! アズくんを連れて帰らなきゃ!」
     聞き慣れた声が遠くから聞こえた。
    「イルマ様!」
    「アズくん?!」
     アリスへ駆け寄ろうとしたイルマを、オペラが抱き抱えるようにして足止めする。
    「お、オペラさん!」
    「ここは臭すぎる。やっぱり帰りましょう」
    「おい!」
    男が凄んでくるも、オペラはまるきり無視で「帰りましょう」とイルマをせっつく。
    「テメエ、調子のってんじゃねえぞ! そのちんちくりんと一緒にぶちのめしてやる!」
     チンピラたちがにらみをきかせながらオペラへ詰め寄った。オペラはこれみよがしに大きくため息を吐くと、イルマから手を離して、男の鼻先まで顔を近づけた。
    「あぁ?」
     

    「コイツ……ば、化け物だ……」
    「手に負えねえよ! 逃げるぞ!」
     右腕左足を叩き折られて地面に転がった男がオペラを指差しながら気絶した。その襟首を掴まえて工場の外へ逃げだそうとしているチンピラ二人もそれぞれ鼻や口から鮮血が滴り落ちていた。ひぃぃと呻き声とも悲鳴とも聞こえない声が場内へ響き渡る。
    「はいはい、さっさと出て行け」
     これは貰っておくと、オペラは両手にちゃっかりとあの黒鞄を提げている。
    「アズくん! 血が!」
    「傷は浅いです。心配することはありません」
     オペラはしげしげとアリスを見やる。オペラはアリスの足元へ無造作にかがみ込むと、その瞳を覗き込む。
    「何か飲まされたようですが、まあ大丈夫でしょう」
    「ええ?! 大丈夫じゃないよ! 急いでバラム先生のところへ行かなきゃ!」
    「足手まとい野郎」
     イルマに聞こえないくらいの声量にもかかわらず、アリスの耳にはしっかりと届いた。怒りで一瞬目の前が赤く染まるも、その通りなのだから何も言い返せない。
    「大体、あんな素人でも怪しいと分かる情報を鵜呑みにするとは……失望したぞ」
    オペラはアリスのバンドを外すと、「行きましょう」とイルマに言って、さっさと踵を返した。さっさと工場を出て行く。
    「アズくんも」
    入間が差し出した手を、アリスは握ることが出来なかった。
    「イルマ様、手が汚れてしまいます。私のことはご心配なく」
     アリスは微笑んで一人で立ち上がろうとするも、足に力が入らない。
    「さあイルマ様も車へお戻りくだ――」
    「心配するよ! そんなの、心配するに決まっているじゃないか!」
     入間はアリスの手をしっかりと握り、肩へ手を回して体を支える。
    「アズくん」
    「イルマ様?」
     入間が不意にアリスへ顔を寄せた。
    「こんなに血が出て……痛かったよね……」
     入間はそう言うと、いきなり舌先でアリスの口端を、顎に滲んだ血を舐めた。そして、チュッと軽くリップ音を立てて、口付けを落とす。
    「い、イルマ様?!」
    「う、お酒の味がする!」
     イルマが口を押さえて、目を白黒させている。どうやら顔に口から零れた酒が残っていたようだった。
    「大丈夫ですか!」
    「大丈夫、大丈夫! さあアズくん、帰ろう!」



    「はあ……」
    アリスは自室のベッドの上で大きくため息を吐いた。
     とにかく自分の不甲斐なさからくる言いようのない絶望感に胸を苛まれ、色々な人たちから次々と降ってくる小言も耳に入らなかった。とにかく今日は寝て明日の朝一番に、改めてイルマへ謝罪しようと考えながら、でも少しも眠くならないアリスがまた大きくため息を吐いた時、ドアがノックされた。
    「誰だ?」
    「アズくん、起きてる?」
     ドアからひょっこりとイルマが顔を出した。こんな時間にまさかイルマが訪ねてくるとは思ってもおらず、訝しげな視線を向けていたアリスは慌てて笑顔を浮かべる。
    「どうされましたか?」
    アリスは横になっていたベッドから慌てて体を起こすも、「寝てて」とイルマから半ば強引に再びベッドへ寝かせられた。とはいっても、イルマの前で寝ることは出来ず、ベッドのヘッドボードへ背を預ける形で上半身を起こした。
    「具合、どう?」
    「ええ、もうすっかり」
     アリスは微笑みながら頷いた。やせ我慢でもなんでもなく、バラムから貰った薬が良く効いていた。アリスには大抵の薬物は効かないのだが、なぜかバラムが調合した薬は抜群の効果をもたらす。
    「良かったあ」
     イルマは胸を押さえて大きく息を吐き出し、安堵の表情を浮かべた。
    「イルマ様、どうかされましたか?」
    「なんかね、体が熱いんだ」
    「先ほどの酒がまだ」
     薬物がほぼ効かないので、すっかり失念していた自分が恨めしい。しかし、イルマが口にしたであろう酒の量はごくごく少量だったし、念のためにバラムに解毒薬を処方してもらい服用したはずだった。
    「うーん」
     イルマはアリスの横へ腰掛け、いきなり肩へもたれかかってきた。
    「アズくん、キスして」
    「キス?」
     自分が聞き間違えたのかと、アリスは言葉を繰り返す。
    「ウソウソ、冗談だよ。やっぱり僕、ちょっと変だよね」
     もう帰るね、と立ち上がったイルマの手首をアリスは掴んだ。
    「アズくん?」
    「イルマ様、お待ちください」
     そして引っ張り、再びベッドへ座らせた。横目でさりげなく様子を観察すれば、イルマは頬を真っ赤にして俯き、両手を膝の上で固く握りしめている。
    愛らしい――。
    アリスの喉が無意識に鳴る。
    「まだ酒が残っているようです」
     貴方も私も、と、アリスはイルマへ囁く。
    「目を閉じてください」
    「……うん」
     アリスはそっとイルマの柔らかそうな唇へ己のそれを近づけた。


    【終わり】



    悪い男たちにいたぶられているアズくんが見たかったのです。すみません。
    まだお付き合いする前の二人っていいですよね~うちの魔フィアイルマくんは欲にすこぶる忠実ですが魔フィアのアズくん、どうしたらいいのか…と欲と理性の間を揺れ動くといいです。
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    ぴろきさや

    DONEバビデビif人間界オンリー開催おめでとうございます!
    あすさとSSです(折ロビ要素あり)マンションに引っ越した入間君。お隣からエッチな声が聞こえてきて…のお話です。全年齢ですがエッチな声の描写があります~!
    宜しくお願いします。
    お引っ越し!(あすさとSS)「ふ~、なんとか片付いたかな?」
     入間は額に浮かんだ汗を首にかけたタオルで丁寧に拭いながら、ほっと息を吐いた。一人暮らしには広すぎるくらいの広さのこの部屋なのに、あちこちにまだまだ段ボール箱は山積みになっている。必要最低限の物だけ持って来たはずだったが、あの狭いアパートの一室にこんなに物があるとは思わなかった。
    「もうひと頑張りしなきゃ!」
     腕まくりをしながら気合いを入れたそのとき、玄関のチャイムが鳴った。引っ越して来たばかりのマンションに当然知り合いはおらず、配送業者も帰ったばかりだし、電気ガスなどの業者が来るにはまだ早いよねと腕時計を見やった入間は「しまった!」と顔を青くする。慣れない片付けに手間取って、自分が考えていたよりもかなり時間は経過していた。鳴らした主に十分な心当たりがあるので持っていた荷物を文字通り放り出して、長くはない廊下を全速力で走って玄関へ向かった。
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