七色の幽霊 ドアをノックする音が聞こえる。ゆっくりと扉を押すと、そこに立っていたのはコンだった。
「準備はできた?」
今日はハロウィン。学園では特別なパーティーが開かれていた。去年、ガトレイエはコンを誘ってハロウィンに参加した。そのため、先日彼がガトを誘ってくれたのだった。が、
「本当によかったのか?」
「仮装が間に合わなかったなら仕方ないじゃん。別にパーティーじゃなくてもいいよ、俺。」
「すまないな…」
ガトは夏に、自分の持ち物をあらかた譲ったり処分したりしてしまっていた。そのため去年まで持っていたような狼の仮装や、その他様々な服も手元に残していなかった。
コンの誘いを受けたはいいものの、うまい具合に衣装を調達することができなかったのだ。
「それにしても、お前さんは仮装をするんじゃなかったのか?」
「ん?ガトはしないならいいかなって」
ガトの小さな問いかけに、彼は事もなさげに返答する。コンにとってそれが些細な事なのか、何でもない風を装ってるのか、ガトには読み取れなかった。
「しかし…いや、俺が言うことでもないが味気ないな。ちょっと待て…」
ガトはコンをリビングに待たせると、奥の部屋へ入っていった。そして部屋のものの多さが窺えるほど大きく物音を立て、ガトは目当てのものを持ってコンの元へと戻った。
「ほら、」
ばさっと投げられたのは白い布…ではなく、カラフルな絵の具が所々染み付いた布だった。
「わっ、なに、油の匂いがするんだけど!」
布をもたもたと広げるコンに、ガトは小さく笑いながら近づくと布をひょいと取り上げ頭に被せる。
「俺のカンバスにかかってた布だ。ゴーストに見えなくもないんじゃないか?」
ガトの言葉に、コンは右手で顔の前にかかった布を捲りぶちぶちと文句を言っていた。しかし、取り払わないところを見るに妥協はしてくれたらしい。
視線がぶつかると、コンは不思議そうになぁに?と聞いた。
「いや、少し惜しいなと」
「何が」
「何でもないさ。さ、出かけよう。」
生徒たちはみんなこぞってパーティーに参加しているため、生活寮はがらんとしていた。布をはためかせながら歩くコンを横目に、ガトも雰囲気の違う後者に少し気分が上がっていた。
「ねえ、静かだね!」
「そうだな、今日は門限が少し伸びるから夜もこの調子なんじゃないか?」
不思議な気分、と廊下を駆けるコン。誰もいない。景色が流れて行く。規則的な柱を何回通り過ぎても、人気のない廊下はどこまでも続くようだった。