・氷田センセ
⇒博士号取得からの大学教員の流れなので少なくとも10年前はまだ学生?博士課程になる。
その辺の時間軸。
灼熱の太陽の下、元気よく鳴く蝉の声をBGMにアイスを頬張る。
やはり、夏といえばコレである。
「夏休み、サイコー!!!!!親もいないし、寝転んでアイス食べても怒られない!」
まさに至福のひとときである。
――ピンポーン
友人達は、夏休みの前半戦は夏期講習らしい。遊びに誘ったが全滅だった。全くご苦労なことだ。
――ピンポーン
と、まぁ……かくいう自分は家庭教師の先生が付いてるのだが。
「……げぇ!?もうこんな時間じゃん!」
鳴り続けるインターホンに意識が戻される。慌てて外を見れば、片手に人形を持った人影が再びインターホンを押そうとしているところだった。
「先生、ごめん!!今開ける!!」
――――
「おはよう。夏休みだからって、遅くまで寝てるは関心しないなぁ」
……普通に起きてたし、アイスを食べてゴロゴロしてました。
「お部屋は涼しいし、二度寝したい気持ちはよく分かるけどね」
先生の優しさが痛い。あまりのいたたまれなさに、チラリと先生を見る。
去年の冬からお世話になってる家庭教師の氷田先生。
なんか手作りらしい人形を抱いてる変な人だけど、実際、成績は上がったし教えるのは凄く上手な人。
教え子の自分に、あまり痣を見せないようになのか……絶対に左側に立たない。いつも教えてくれる時は、自分の右側から来てくれる。
「待たせてごめんね、汗も引いたし授業始めようか」
「ね、先生。首んとこ赤くなってるよ」
「……首?」
何を言われてるか分からない……とでも言いたげに、先生は首を傾げる。
「それより、授業の用意何もしてなくないかな?どうして?」
そりゃ、さっきまでアイス食べてたからね。でも無視する。だって気になるから。
「ほら、ここんとこ」
「無視はよくないと思うよ?……えっと、ここ?」
見えるか見えないか、絶妙な位置。
普段は、ポロシャツやワイシャツといった襟付きの服を着てる先生だが、さすがに今日の暑さに耐えられなかったらしい。珍しくTシャツを着たラフな姿だ。だから余計に目立った。
今だって、見えたのは偶然だと思う。そこをトントンと指し示す。
次第に、不思議そうな顔をしてた先生の顔が、何かに思い至ったのか赤くなっていく。
「ムヒあるから、貸したげるー」
あーー、これ漫画で読んだことあるヤツだ。まぁ、指摘するのも可哀想だし、知らないフリしとこ。
恨みで宿題増やされたら堪らないし!
――先生が事故に遭ったと聞いたのは、それから数週間後のことだった。