シナリオ前の話。突然だが、あたしこと 練切 杏(ネリキリ アン)は一般人である。
だいたい平均くらいの身長に、黒髪黒目。
少し変わっているところ……強いて言うなら、母子家庭で家が和菓子屋なことくらいだろう。
それを言うと、数少ない友人は何とも言えない顔をするのだが。
今日も、ごく普通の日常のはずだった。
なんとなく通りががった公園の草むらから、目の前の男が出てくるまでは。
「……絵瑠、あんた何してるの?」
「やぁ、杏じゃないか!奇遇だね。僕は猫探しの最中さ」
頭に葉っぱが付いてもなお、損なわれない美貌。
肩までのサラサラとした金髪は痛み知らず。嬉しそうに細める瞳は、キラキラとした藍色。男性にしては小柄な身長も、その美を引き立たせる1つでしかない。
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