とろけるキッスは誰のため「……、誕生日おめでとう。小黒」
「ありがとう无限。今年もお祝いしてくれて嬉しいよ。あなたが好きです、情人(こいびと)になってください」
ひと息で放たれた言葉に、无限は今年もふうとため息を吐いて目を伏せた。
「……その申し出は受け入れられない」
「わかりました。じゃあ代わりにキスして」
この問答ももう優に何十回めのことだ。今年もまた、一年で无限にとって最も喜ばしく、最も悩ましい日が訪れたのだった。
小黒の誕生日は十一月一日と定められている。无限が小黒を弟子として受け入れてから、小黒にどの日を誕生日にしたいかと尋ねて二人で選んだ吉日がこの日だった。
妖精の生まれであり、誰かと共に暦を読んで暮らす生活をしてこなかった小黒には、无限のいう誕生日というものの存在意義がわからなかった。
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