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    iku_lxh

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    iku_lxh

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    何十年と長い時間をかけてもだもだキスばかりする黒限。またバーモントキッスをボーイズラブにしてしまった……(大好きなフレーズなので…)

    とろけるキッスは誰のため「……、誕生日おめでとう。小黒」
    「ありがとう无限。今年もお祝いしてくれて嬉しいよ。あなたが好きです、情人(こいびと)になってください」
     ひと息で放たれた言葉に、无限は今年もふうとため息を吐いて目を伏せた。
    「……その申し出は受け入れられない」
    「わかりました。じゃあ代わりにキスして」
     この問答ももう優に何十回めのことだ。今年もまた、一年で无限にとって最も喜ばしく、最も悩ましい日が訪れたのだった。



     小黒の誕生日は十一月一日と定められている。无限が小黒を弟子として受け入れてから、小黒にどの日を誕生日にしたいかと尋ねて二人で選んだ吉日がこの日だった。
     妖精の生まれであり、誰かと共に暦を読んで暮らす生活をしてこなかった小黒には、无限のいう誕生日というものの存在意義がわからなかった。
    「師父、どうして誕生日を決めるの? あってもなくてもぼくはぼくなのに」
    「たしかに誕生日があってもなくても小黒が小黒であることに変わりはない。だが、誕生日があれば小黒が健康に一年を過ごして成長したことの節目になる。……そうだな、これは小黒のためじゃない。私がお前に、一年元気でいてくれてありがとう、これからの一年も元気で過ごして欲しいとお祝いするための日なんだ」
    「ふーん……? わかんないけど、師父がぼくのことお祝いしたいんなら、してもいいけど」
     もじもじと指先をいじりながら目を逸らして、それでも小黒の尻尾は飼い主に頭をかかれる猫のように嬉しげにゆらゆら揺れていた。
     无限はふ、と笑みを漏らして、小黒のふわふわの頭をかき混ぜて視線を合わせた。
    「うん。お祝いさせて欲しい。これから毎年、二人でお祝いしよう」
     それから二人は、无限の言葉通り十一月一日になると小黒の誕生日を祝ってきた。若水たちのように妖精の顔見知りが小黒のお祝いの席を開いてくれたこともあったし、小白たち人間の友人が小黒の誕生日を祝ってくれたこともある。それでもその後は二人きりで誕生日を迎えられたことを祝うのだ。
     二人がその日をどれだけ大切にしているかを知っていたから、館の方でもその日ばかりは无限の任務が重ならないよう配慮されてきて、无限はそうして小黒が色んな居場所で歓迎されて受け入れられていることを一番側で見て、良き日を迎える喜びを分かち合ってきた。

     風向きが変わったのは、小黒が十五になった年のことだ。
    「小黒、誕生日おめでとう」
    「ありがとう師父。……あのね、お願い言ってもいい?」
    「もちろんだよ。今日はお前の誕生日なんだ、なんでも言ってごらん」
     出会った頃に比べてすっかり成長して、无限の鼻先ほどまでに背を伸ばした小黒は、すらりと伸びた手足もみずみずしい美しい少年に育った。
     いつもしゃんと伸びてまだまだこれから随分立派になるだろうと思わせるに相応しい彼の背中は、年に一度の誕生日だというのに今日はなぜだか猫背になって、どこか自信が無さそうな様子だった。
     か細くさえ見える繊細な指先を幼い頃のようにもじもじとかき回して、意を決したようにきっとまなざしを上げて无限と視線を合わせた。
    「ぼく! ……ぼく、師父のこと、无限のことが好き。世界中の誰より大好きなんだ。どうかぼくの情人になってください」
     无限から視線を逸らさないようにしっかりと合わせながら、それでも不安げに揺れるあざやかな翠の瞳を見つめながら、无限はぽかんと口を開けていた。
    「……小黒。それはだめだ。お前のどんなお願いだって聞いてやるつもりがあるが、その申し出だけは受けられない」
    「どうして!? ぼくが子どもだから!? 執行人にもなれないほど弱っちいから!? それともぼく以外に好きなやつがいるから!?」
     わっと堰を切ったように小黒は捲し立てた。怒りのためか悲しみのためか、わなわなと肩を震わせて、小黒は无限の腕に縋りついた。
    「そうじゃない。確かにお前はまだ子どもだが、そういうことじゃない」
    「じゃあどうして!? やっぱりあいつがいいの? あいつのことが好きなの? ぼくよりあいつと一緒に居た方が嬉しい!?」
    「落ち着いて。そもそもあいつとは一体なんの話しなんだ?」
     わあわあと喚き立てる小黒を宥めてよく話を聞いてみれば、小黒の言う『あいつ』とは无限がこのところ任務で行動を共にしていた妖精のことだった。无限が人間であってもそれを垣根にしない旧知の間柄で、彼もまた弟子を持っており弟子を可愛がっている立場の者だった。
     任務を共にしながら互いの弟子の話しで盛り上がり、日頃无限の胸のうちに溜め込んできたかわいい弟子の自慢話を聞いてもらい、任務が無事終える頃には久々に会った相手だがすっかり打ち解けていた。誰にも聞いてもらえない愛弟子の話を聞いてもらって、いつもより浮かれていたこともある。
     報告のために寄った妖精館で並んで顔を合わせた小黒にも彼のことを紹介をして、そのときに小黒はなにか大きな誤解をしたようだった。
    「だって師父、あいつと話してるときすごく楽しそうだった。あんな顔いつもはしないのに。……あいつのことが好きだから? あいつと師父がこいびとになったら、ぼくはもう師父と一緒にいたらだめ?」
     ぽろぽろぽろと涙を落として、小黒はぎゅっと目を瞑ってしまった。まだ成長途中の細い体をまっすぐに固くして悲しみに耐えるその様に、无限は胸を痛めた。
     小黒が无限との別離を想像してかたくなになったことは、これまでも何度かあった。執行人になると言って聞かずにゲームの中で任務に当たらせ、それが失敗に終わったとき、小黒はこれからどうなりたいかと問われて友だちと学びたいという素晴らしい答えを失敗の中から自力で見つけだした。だというのに、それを叶えるには无限と離れなくてはいけないと思ったのか、やっぱり要らないと言って今と同じように无限に縋りついたのだ。
     その時から小黒はまた目を見張るほどに成長したが、やはり心はあの頃と同じく、无限と共に居たいということが最優先になってしまっている様子だった。
     初めて出会ったときからすっかり大きくなって、実力をつけて、たくさんの友だちも作った小黒が、未だにこんなにも无限を求めて心を震わせているという事実に、无限は嬉しい気持ちとこのままではいけないという気持ちが同じほどに膨れ上がった。
    「良く聞いて。あれは久々で話しが盛り上がっただけの同僚だし、私に好きな相手なんて居ない。小黒が執行人にならなくても私はお前が望むだけ側に居てやるし、だから情人になんてなろうとしなくていいんだ」
     ただの勘違いではあったが、小黒は无限にもし情人が出来たら小黒のもとを去ってしまうかもしれない、ならば小黒が无限の情人になればいいと考えたことはすぐにわかった。
     執行人になりたいと言い出したときも、无限が任務に就く間に離れていることが耐えられなかったのだろう、无限のパートナーになって无限と一緒に戦うと言ったのだ。小黒が情人という関係を執行人のパートナーの延長程度に考えているのだろうと无限は理解した。
     あんなに小さくいとけなかった子どもがこんなにも成長して、まだまだ考えていることは子どもで、それでもただ一途に无限と共にあることを望まれて、嬉しくないはずがない。
     いつかは小黒も、『師父と一緒に居たい』という理由で求愛したことを笑い話にして、本当に愛する誰かと微笑みあうのだろう。その時にはこんなに瞳がとろけそうなほど泣いてこんな年嵩の男に縋ったことを懐かしい思い出として話すに違いない。そんな未来を思い描いて、无限は甘美で切ない痛みを味わった。
    「情人になりたいなんて軽々しく口にしてはいけないよ。そういう大事な言葉は大切にとっておかなくては」
    「軽々しくなんてしてない! ぼくは本当に、」
     なお言い募ろうとする小黒の口に指先を当てて、しいと无限は息を吐いた。
    「お前の気持ちはわかったよ。だが、次にそれを口にするまでその意味をもっと良く考えておきなさい。今日はもうおしまい」
     无限の指先に触れる小黒のくちびるはわなないて熱かった。溢れた涙に濡れてしっとりと柔らかいそれが、ぐと噛み締められて悔しそうにへの字に歪んだ。
    「……わかりました。じゃあ、代わりにキスして」
    「え?」
    「情人になるのは聞けないけど、なんでもお願い聞いてくれるんでしょ。……今日はぼくの誕生日なんだから」
     そう言ってまたぽろぽろ落ちる涙が、光を弾いて綺麗だった。涙の膜を張って、それでも无限から視線をそらさないまなこが愛しくて、可哀想に思われて、无限はそっとそのまぶたにくちびるを落とした。
    「……ほんとにずるいなぁ。でもいいよ、今年は許したげる。師父、困らせちゃってごめんなさい。いまからでもお誕生日祝いしてくれますか?」
     ぺこんと頭を下げた小黒は、顔を上げたときにはいつもの小黒の表情に戻っていた。
     頬にはまだ新しい涙の筋がついていたが、それでも懸命にいつも通りに振る舞おうとする姿がいじらしかった。
    「勿論」



     それがちょうど一年前のこと。その一年後、无限は再び小黒から同じ言葉を聞くとは夢にも思わなかった。
    「誕生日のお祝いしてくれてありがとう。ぼく、あれから沢山考えたけど、やっぱりあなたが好き。ぼくの情人になって欲しい」
     あまりのことに言葉を失う无限に、小黒は言葉を続けた。
    「でもね、ぼくだってもうわかってる。ぼくはまだまだ知らなきゃいけないことが沢山あるし、全然あなたに釣り合わないし、そんなこと考えるより前にあなたと並んで同じものを見られるぐらいにならなくちゃいけないんだ。だけど言わないで後悔なんてしたくないから。ぼくがあなたに相応しい男になったら、そのときはぼくをあなたの情人にして」
     昨年とは異なり不安げな色のないまっさらな瞳で无限を見つめて、小黒はそう宣言した。无限と離れる不安に怯えるのではない、それは无限と共にありたいという小黒の願いそのものだった。
     昨年の告白はそれでおしまいと考えていた无限は、まさか一年経って同じことを言われるとは全く予想だにしなかった。无限が言ったとおり軽々しくなど思わずに真剣に考えて、それは一年の時を経て大切に育てた告白だった。
    「……しゃお、」
     无限が声を上げようとしたとき、小黒は人差し指を无限のくちびるにそっと押し当てた。しいと息を鳴らして、ちょうど昨年とは反対の様子で小黒は眉を下げた。
    「今すぐ答えをもらおうなんて思ってないよ。師父も前に言ってたじゃない、またそのときが来たら本当にそうなりたいか考えたらいいって。……だからお願い、いまは答えの代わりにキスして」
     そう言った小黒の表情は、一年前よりずっと大人びていた。いつも側で見てきたはずなのに、今は无限も見たことのない顔をしている。
    ――こうして彼は、大人になっていくのだ。
     无限は口元に当てられた小黒の手をとり、今度はしっかりと己のくちびるを押し当てた。ちゅと小さな音を立ててくちびるが離れる。
    「……うん」
    「……ありがと。さ! お祝いしてもらおっかな!」
     无限のくちびるが触れた指先をぎゅっと抱きこんで、不自然なほどに明るい声をあげた小黒は、もういつもの小黒だった。
     ごちそういっぱい食べちゃおうかな、師父のおごりだもんねとから元気で楽し気に振る舞うその姿に、无限はただただ見入っていた。

     それから小黒の誕生日には、毎年无限への告白が与えられるようになった。
    「随分背が伸びたでしょ、そろそろあなたのこと見下ろせるかも」
    「ぼく、館の妖精に告白されたんだ。その子のことはいい友だちだと思ってたからうまく断るのにすっごく悩んだ。……師父も毎年、こんな気持ちなのかなって思ったよ。でも、諦めるつもりはないから」
    「ぼくの告白のこと、子どもの駄々みたいに思ってることも分かってるよ。でも言わずにいられないんだ。ぼくが居ないうちにあなたが誰かと付き合うことになったらって考えるだけでおかしくなりそう。もし誰かとそんな風になりそうだとしても、あなたは僕の告白があったら受けられないでしょ? 絶対にぼくのこと思い出してよね」
     毎年毎年、小黒は无限への想いを无限の心の中に降り積もらせていった。背が伸び无限の身長を追い越して、美しく逞しい青年に育った彼は、瞳だけは最初に告白してきたときと変わらないひたむきな色を乗せて、无限に情人になって欲しいと請いるのだ。
     毎年无限はそれを受け入れられないとつっぱねた。強く言っても、躊躇うように言っても、伺いを立てるように言っても小黒の返事は変わらなかった。
    「そっか。じゃあ、代わりにキスして」
     そうして无限は小黒に求められるがままに、小黒の額に、頬に、まなじりに、鼻の先にと口付けてきた。
     やがて小黒は、无限が口付けたところにお返しといって同じように口付けるようになった。ふわりと触れる柔らかいぬくもりに、いつしか无限は胸の奥がとろけるようなじんと熱いゆらめきを感じるようになった。
     无限と離れることを恐れながら手を伸ばしてきた小さな子どもはもうどこにも居ない。目の前にいるのは、无限という人よりも長く生きてきたばかりの不器用な男をまっすぐに見つめて愛を乞う、ひとりのうつくしい青年だった。

    「とうとう執行人になれたよ。もう子どもじゃないし、執行人として認められるほど強くなったし。結構カッコよくなったと思うんだけど、そろそろぼくの情人になってみませんか?」
     ふざけてみせるようにそう言って、小黒は无限に微笑みかける。その笑顔はもうすっかり一人前の男の色気を備えていた。
     結構、と小黒は謙遜したが、もうとっくに小黒はいい男になった。しっかり張ったみずみずしい肌、骨格も筋肉も伸びやかで、やはり眼差しには无限への想いがありありと彩られている。
    「……私には受け入れられない」
    「そっか」
     きゅっと細められたまなじりの皺まで繊細な造りをしている。そんな美しいかたちをした男にそっと壊れもののように頬に手を添えられて、親指の腹で輪郭をなぞられる。
    「じゃあ、キスして」
     いとしくて堪らないと訴えかけるてのひらの熱に、急に真面目な顔をして見つめる小黒のまなざしの深さに、その光を隠す降りた睫毛の美しさに、无限の胸はぎゅっと締め付けられた。
     そうして気づけば、无限もまぶたを降ろして、小黒のくちびるに口付けていた。
     はっと我に帰った无限が顔を離そうとすると、小黒は昨年までと同じように、无限のくちびるに同じように口付けを返してきた。ちゅうっと音を立てて吸い上げられて、无限の腰にじんと震えが走る。
    「……ありがと。じゃあ、また来年ね」
    「……、あ、ああ」



     それからの誕生日は、告白と口付けがセットになった。
     その翌年はごまかすように顎の先に口付けたが、それを咎めるようにしっかりとくちびるにお返しを寄越された。そうしてくちびるへの口付けを許し、それ以上を求めるように吸い上げられて、年を経るごとに口付けの時間は長く、濃密になっていった。
     今年もそうだ。舌先でくちびるのあわいをなぞられ、歯列をノックされ、舌と舌が触れたときは无限にも制御できないほどに腰が跳ねた。ちゅくちゅくと水っぽい音を立てて咥内をかき回されて、もはやどちらのものともわからない唾液が口の端を伝う。それを親指でねっとりと拭われて、ぐらつく体をがっしりと抱き止められて、第三者がみればそれは本物の情人同士の営みにしか見えなかっただろう。
    ん、ん、とお互いに息継ぎの合間に声がもれる。こめかみに熱が篭ってじんじんと痺れる。服越しに伝わる小黒の熱に无限の肌が粟立つ。
     は、は、は、と犬のように荒くなった息を吐きながら、お互い真っ赤に上気した顔で見つめあった。瞳がとろんととろけるように潤んで、もはやそこに乗った情欲の色を隠しきれてはいない。
     は、と息を吐いて小黒は无限を抱きこんだ。形のいい耳にくちびるを寄せて、ぼくはね、と小黒は呟いた。
    「もとより長期戦のつもりだったし、あなたが何を思ってぼくを受け入れられないのかもわかってるつもりだよ。でもね、あなたが何を言っても无限のこと諦めるつもりはちっとも無いから、もういい加減気の長い弟子にほだされたってことでいいじゃない」
     睦言のように甘く掠れたその響きに、无限は体にわだかまる熱を刺激されてびくびくと腰を震わせた。
    「今だってキスは気持ちいいけど、情人同士になったらきっともっと気持ちいいよ。しようよ、すごいの。どろどろにとけておかしくなっちゃいそうなやつ」
     すごいの、という言葉とともに耳殻を甘噛みされる。あ、と甲高いため息が漏れて、もはや无限も、その熱に抗うことが出来ない。
     再びまなざしが交わる。无限のくちびるが悦びにわななく。代償行為のように始まった口付けは、もはや小黒のためなのか、无限のためなのか、誰のためのものなのかもわからなくなるほどに熱を帯びて二人を溶かしていた。
     躊躇いがちに无限のまぶたが降りて、小さく小さく呟いた言葉は小黒にしか聞こえない。
     熱いくちびるがしっかりと重なって、とろけるキスはもう二人のためのものだった。


    <とろけるキッスは誰のため・了>
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