「俺、ニキのものなんでもいいからほしい」 ある日、燐音くんが消え入りそうな声でそう言った。
別になにかがあった訳じゃない。誕生日とか記念日とかそういうのじゃなくて、なんでもない日のなんでもない時だ。でも多分、だからこそだったんだと思う。
なんでもいいってなんだろう。僕は燐音くんの正解を探す。
例えばだけど、僕が今ポケットにいれている携帯食料を食べてその包み紙を「なんでもいいからほしいって言ったよね?」って渡す。普通の人なら多分「ゴミは流石にいらない」って言ってくる。もしかしたらめちゃくちゃ怒ってくるかもね。
でも燐音くんは多分違って、燐音くんが「ほしい」って言って僕が「あげる」ってあげたものであれば、それがなんであれ目を輝かせながら受けとるのだろう。誰がどう考えても包み紙なんてゴミだけど、きっと燐音くんはどうにか活用するに違いない。
だけどそれは正解じゃない。燐音くんは「なんでもいい」の「なんでも」を僕に教えてほしいのだろう。なんでもない日に燐音くんにあげてもいいかなって思える「なんでも」がなんなのか。
僕はちょっと考えて、食器棚に向かった。箱に仕舞っていた目当てのものを見つけて燐音くんに持っていく。
「…箸?」
「そう、昔僕が使っていたやつ」
燐音くんをアパートに迎えてから、解りやすいように食器棚のお箸を全部入れ換えたのだ。二人で使うお箸が混ざらないように色が違うそれぞれのお箸に。燐音くんに渡したお箸はそれ以前に僕が使っていたものだった。
「もう使わないだろうから、あげる」
僕のご飯食べる時に使ってくれたなら、それが本当のプレゼントだよ。なんて、口には出さないけれど。
燐音くんは嬉しそうににっこり笑って、それを持っていった。
よかった、あれが正解だったみたいだ。
僕は燐音くんからなにか貰えるならその笑顔がいいなぁ。それが一番お腹が膨れるから。
転寮する、二週間前のある日のこと。