無題「俺より良い家住みやがる」
「おかげさまで」
道の先にあるマンション。多額の負債を抱える人間が住んでいるなど到底思えない外観に、思わず舌打ちした。まったく借金取りのくせに債務者の護衛など、我ながら馬鹿げている。ぐしゃぐしゃと頭を掻き、無造作にジャケットの内ポケットを探る。取り出した、もう残り少ない煙草に火を点け、口に咥えた。ふらふらと前を歩く男に目をやる。
「金は返せよクソガキ」
期待はしない。どうせこの男は金を返す気などさらさらないだろう。
「わかってるって」
ひらひらと振られる掌。揺れる赤髪を見つめながら、やはり今回も駄目かと落胆するでもなく煙を吐く。すると、何故か彼の足がこちらに向いた。一筒と目が合う。
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