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    Xにプチ連載していたすれ違い平信の決着編

    平信 すれ違い決着秦国が中華を統一する為の楔ともなろう、趙国大都市鄴を陥す戦いは、伝令により確実に秦国の勝利と報告され胸を撫で下ろしたのも記憶に新しい。信が龐煖を倒したことは、秦国の武勇を示す重要な勝利であった。今回もよく立ち回ってくれた、予想以上の動きだ。できればその身が咸陽に戻り自らの腕が届くところへ帰ってきたならば、人目も気にせず強く抱きしめ褒め称えてやりたい、昌平君は澄ました顔でそんな事すら思っていた。しかし同時に自分にはそんな権利など無いのだと、もう1人の自分が囁く。それよりも今の自分にはしなければならない事が多くあるだろう。あの子のことはもう考えないようにと、何度掻き消しても思い出す信の愛しい笑顔。手放したのは自分なのに、何とも浅ましいのだろうと心の中で悪態をついた。
    信を忘れる努力を、しなければ...、しかしそう思っていたのに、今目の前で河了貂が報告した内容を聞いた瞬間その事柄の事実を確認せずにはいられなかったのである。
    「...河了貂、今何と」
    「え?李牧を討ち取る好機を逃してしまって...」
    「その前だ、」
    「...信が、一時瀕死の状態に陥って...先生?」
    戦の詳細をまとめようと聞いた飛信隊の当時の状況。呼び出した河了貂の言葉を聞きまず浮かんだのは信の青白い顔と、もしそのまま命の日が消えてしまっていたらという恐怖の感情であった。
    あの子が死ぬ、という事は考えたことが無いわけではない。この戦国の時代、勝つも負けるも確実な保証はないのだ。ただ、何故か、信は自分の見えないところで死なないだろうと勝手に思っていただけで、彼の心臓がその一度でも止まったなんて事実、なんなら次に会う時はもうすでにあの笑顔も、何も語らう事もできない可能性があったということか。それを考えた瞬間、顔には出なかったが酷く昌平君は動揺した。
    自ら手放した関係、しかしどこか遠くからでも、信を目に入れることが出来ればいいなんて甘いことを考えていた。その対象がもはや居なくなってしまったとき、きっと後悔すると思った。失うのが怖いと思えるほど、愛していた者が、本当に消えてしまったら...。
    ――――後悔だけではおさまらない。
    「飛信隊隊長、信を呼んでくれ。河了貂」
    「え?...あ、はい...」
    気づけば、そう河了貂に命じていた。会って、何を話すかも考えずに、それでもあの子に会いたいという気持ちを抑えきれず。兎に角この目で、信の無事を確認したいと思ったのだ。

    久しぶりに訪れる昌平君の屋敷、その門の前で懐かしさに自分の表情が自然と綻んでいる自覚はあった。
    河了貂から突然昌平君が自分を呼んでいると聞いた時は驚きもしたが、まず他に誰が呼ばれているのかを聞いてしまったぐらい冷静ではあった。しかし河了貂もただ信を呼べと言われただけで、他は何も知らないという。自分だけだと嬉しいなと思う反面、怖くもあった。またあの冷ややかな瞳で見られるのではないか、と。なので、別に蒙恬や王賁、他の面子がいても良いとは思っている。他がいれば、もし暗い気持ちになっても気がまぎれるだろうから。
    信が来る事は予め使用人に伝えられていたようで、すぐに着いてこいと言われ中を歩かされた。昌平君と逢瀬をする為の部屋の方角ではないことは直ぐに悟る。迷子癖がある方だが、あの時何度も訪れたこの屋敷の構造を忘れる事はそう簡単にできなかった。ただ、その行き先がなぜか巨大な浴場であったと分かった時、正直頭に疑問符がぽつぽつと浮かぶ。何故、今、風呂?その真意を問おうにも、使用人はただただ主人に言われて連れてきただけだろうし、そもそも信を呼び出した張本人はいない。その疑問を解消する術なく、信は仕方なく衣服を脱いだのであった。
    風呂は嫌いではない、むしろ好きな方である。下僕時代お湯で身体を洗う事すら出来ない生活を経験していた信は、身の芯から温まるこの空間が大好きであった。いつか自分の屋敷を持った時、王騎将軍の家にあったような大浴場を作るのだと、将軍になる夢の隣に密かにおいていた想いがあったほど。肩まで湯に浸かると、じんわりと薬草を煎じたような香りと湯が少し滑り気を伴った肌触りだと気づく。しかしそれが何かなんて考えるよりも、昌平君といつ会えるのかという事で頭はいっぱい。
    こんな状況をみると、おそらく呼ばれたのは自分一人であろう。河了貂からは鄴をおとす戦の報告をしていた時、信を呼ぶ話になったと聞いているので、飛信隊の覚醒について聞きたいことがあるのかと思っていた。
    「聞かれてもうまく答えれる自信ねぇんだけどなー」
    あの頭が良い男が満足できる回答が出来るだろうか。付き合っていた当時も、何度語彙力のない自分の言動に彼を混乱させたか。あの時はそれなりの関係性であったので、こちらを微笑ましく見つめている昌平君であったが、今はどうなのだろう。好きではない人間の頓珍漢な話を聞くほど、きっと暇ではないはず。信は憂鬱な気持ちになっていた。
    「信」
    「っるあぁ!?」
    この後の展開があまり良いものではなさそうな予感に、本日何度目かの溜息を吐きかけた時、突然誰もいなかったはずの背後から声が聞こえ、信は叫びにも似た驚嘆の声を上げた。
    「え、し、昌平君」
    「こちらを向くな、そのまま聞け」
    「え...あ...お、おう」
    恐らく位置的に昌平君もこの湯に浸かっている。別れた恋人同士が風呂で裸の状態のまま共に過ごすという、何ともよくわからない状況ではあるが、昌平君の声が冗談ではないものだと悟り信は大人しく前を見続けた。
    「傷が...酷いな」
    ただ、沈黙が続くのかと思いきや昌平君がポツリとそうぼやき、信の背中に触れる。突然肌に触れる他人の指、勿論昌平君のものであったからこそ、まるでそれが熱い鉄のように感じ信の肩が素直に上がった。
    「ひっ」
    「痛むのか」
    「ち、ちが...び、っくり、しただけ」
    「そうか、」
    よかった、と語尾につきそうな程、優しい音。信の頬に、汗が流れ落ちる。
    「...あ、あのさ」
    聞いてはいけないと頭の中で警告は鳴っていた。それを聞いたところでどうするのだ、別れを切り出し他の女のところへ行った張本人に、今更あの時の事を蒸し返すなど未練しかないと言っているようなもの。男のくせに、そんな女のような思考なのかと、最悪呆れられるかもしれない。それでもここにきてまだ一刻も経っていないのに違和感しかなかったのだ。昌平君の声色が、前と変わらずとても優しくて愛しいものに向けるそれであったことに。そんなの、期待してしまう。
    「なんで...俺を呼んだんだ」
    「...」
    「風呂で話すため...じゃねぇ、よな?」
    沈黙。聞かない方が良かったのかと後悔が過ったが、それでもその答えを聞きたくて仕方がなかった。返事を待っているだけなのに、妙に体が強張って動けずにいる。その背後で、昌平君の息を吸う前の音がした。
    「お前の、無事が見たかった」
    「...は?」
    その言葉に耳を疑った。信の口から漏れたのは率直な感想。昌平君の口からそんな台詞が出るなんて。ただ、軍総司令である昌平君が駒である武将の安否等を気にするのは普通のこと。その言葉に望んではいけない。
    しかしそんな自分を律する感情の反対側で、信の期待は大きく膨らんでいた。
    「この湯は、傷を癒す薬草を煎じ入れている。死にかけたのだろう?見た目よりも傷が深いはずだ」
    「俺の...ために?」
    「私が今できる事は、それだけだと思った」
    「...昌平君」
    「言うな、自分でもよくわからぬ事を口走っている自覚がある」
    そう、昌平君の言っていることは全ておかしいのだ。本来であれば信が死んでいないなら勝手に回復するのを待つか飛信隊軍師である河了貂にでも療養をしっかり行うように命令するだけでよいはず。何度もいうが、昌平君が別れを切り出したのだ。冷たい言葉で遠ざけて、もう気持ちなど無いはずなのに。
    「俺のこと、好きなの?」
    もうこうなればやけくそだと、信は昌平君の遮りを気にも止めず問う。聞こえないなんて言わせないと、少し大きく発した声は浴場によく響いた。
    後ろから息の詰まる音がするのは昌平君のものだろう。
    好きじゃ無いのなら、何も苦しい声を出すこともせず、言い切って仕舞えばいいのに。信はごくりと固唾を呑んで、昌平君の返事を待った。
    「ッ......私はお前を、失うことが怖い」
    「...」
    「お前が死ぬだけでなく、この先、私以外の者を見て好きになって離れてしまうことも...」
    問うた質問に返ってきた返事はすこし的外れであったが、あの昌平君がそんな返し方をするなんて、相当悩んで絞り出したものなのだとも悟る。
    しかしそれでも意外と信の顔に暗さは見えなかった。
    ただ嬉しそうとも少し違う険しい表情ではあり、弱々しく項垂れる昌平君が止める間も無く振り返る。
    「し、信っ...こちらを向くなと、」
    「逃げんなよ!馬鹿!」
    昌平君は生まれてこの方人にそのように罵られたことが無い、しかし不思議にも嫌悪感も苛立ちもないところをみると、やはり、自分は信の事が好きなのだと再認識する。こちらの肩を掴み真っ直ぐ見つめてくる瞳が宝石のようで綺麗だと思いながら、昌平君は信を見つめ返す。まるで、恋焦がれた人間に向けるような目で。
    ただそんな昌平君の想いなど関係ない。直接的な言葉はなかったが、先ほどの台詞を熟考するまでもなく、昌平君はまだ自分に気があるのだと分かった。それでも、よりを戻すという話にならないところをみると、また逃げるつもりなのだ、信を失う恐怖から。
    (そんなこと...させねぇっ)
    「俺のことが好きなら、俺のことを信じて待ってろ!」
    「っ!」
    信じる、信の口から出たその言葉に昌平君は我に返ったように目を開いた。信の言う通り、自分はこの子を愛する自信はあったくせに、同じく好きでいてくれていた信の気持ちを信じてやる事ができていなかったのだ。
    しかしそう簡単に不安がなくなるはずもない。これから信やその他秦国を担う武将達にはさらなる険しい戦いに身を投じてもらわなければならなくなる。何度も、何度も、信が無事に帰ってくるかを願い待ち焦がれなければならないのだ。そんなこと自分の身が持たない、だからこの子の笑顔を奪ってまで離れる選択をしたというのに。
    いまだ難しい顔をしている昌平君を見て、信は頭をかく。
    「まー、あんたのことだ、まだ色んなこと考えてんだろうけど、こればっかりは絶対ぇ譲らねえからな!」
    「信、しかし私は」
    「大丈夫だ!俺は絶対ぇ勝って、昌平君のところに帰ってくるし、あんた以外好きにならねえ自信がある!」
    「...」
    信という人間はほんとうに不思議な子だと思う。自分の抱えている不安など、誰にも取り除く事ができないものなのに、なぜこの子が笑って言う"絶対"はこうも底知れない安心感があるのだろう。これではもう、逃げることを考える余地すら無いではないか。いや、もうそれでも良い気がする。そもそも耐えられず信をここに呼んでしまった時点で、この結末は少し見えていたのでは無いか。昌平君は確かに信の言うとおりいろいろと考えてしまっていたが、何かすとんと落ちたようで、どこか晴れやかな表情へと変わっていた。まあそれが分かるのは親しい配下、そして信ぐらいであるほど微々たる変化だが。
    「......分かった」
    「!へへへ」
    やっと昌平君から得られた言葉に、満開に咲く信の笑顔。その顔が可愛くて愛おしくて、昌平君は気づけば顔を近づけ信に接吻を施していた。
    すぐに離れた後、信の顔を見てみれば突然のことに呆然としていたが、唇が触れ合ったのだと自覚した瞬間その顔は林檎の様に耳まで真っ赤に染まる。それを見て昌平君は下半身に力が入ったのが分かった。そして改めて気づくのは今の状況、愛する人間と裸で2人きり、口付けのおかげで良い雰囲気、本当に久しぶりの逢瀬。目の前にいる信の全てが美味しそうに見える。
    (いやしかし、この子は病み上がりで...)
    ただ昌平君も理性がない獣ではない、今日はこの子を癒すために呼んだのにその行為をしてしまえば負担がかかるのは信の方だ。我慢しなければ。欲を欠いてはならぬと自分を律する為に、眉の間に皺が寄る。
    「し、しょうへいくん...」
    信に名を呼ばれ昌平君は喉を鳴らす。ああ、やめてくれ、そんな甘えた声で、呼ぶな、ずっと見るたびに耐えていた欲が顔を出してしまう...。
    「な...なんだ」
    「えっちしてぇ」
    「ぐっ...」
    しかし信はそんな昌平君の我慢を真正面から叩き壊してきたのである。首に回る腕、上目遣いで見上げる潤んだ瞳、情欲を含んだ姿。
    「傷が開くぞ」
    「いい」
    「まずは身体が治ってから」
    「次拒んだら、嫌いになるからな」
    「っ」
    「早くあんたと戻れたんだってしょーめーが欲しい...お願い」
    昌平君、と呼ぶ声に頭を鈍器で殴られたような気分にさせられた。次に想うのは愛しさ、あれだけ自信満々な笑顔をしていたこの子にも、やはり不安な気持ちがあって、そんな思いにさせているのは自分なのだと少し嬉しくなる。
    「止めろと言ってもとめぬぞ」
    「言うかよ...んっ」
    信の顎を掬い性急に口付ける。今度はその中を堪能するように、じっくりと唾液を交換するような深いもの。首に回る信の腕がもっとと言うかのようにさらに強く巻き付いてくるのを感じると、それに応えるように昌平君もその背中に腕を回し話す事を許さぬと言わんばかりに抱き寄せたのであった。
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