「なぁ左馬刻…寝呆けとる?」
「……さぁな」
「……俺のこと抱き枕やと思ってへん?」
「……思ってねぇ」
「嘘付け……おまえの部屋にでっかい抱き枕あんの俺分かってんねん、そこに転がっとるやん」
「……」
「それやと思ってんのやろ」
「……思ってねぇ」
「…………」
「…………」
「…………」
「………んだよ、もう文句終わりかよ」
「……だって」
「……だって?」
「あの時はようけ飲んでたもん」
「…あの時?」
「最初に俺んちで飲んだ時。ちょっと寒かったし、おまえ背丈あるから布団狭かったし」
「……まだ違法マイクの効果残ってんのか?」
「……そうかもなぁ」
「………」
「左馬刻が泊まった時…酒飲んどったから体動かすのちょい億劫やもんなとか、おまえの体温あったかいから離れたくないんはしゃーないなとか思ったんや」
「……」
「…おまえは忘れとるやろうけど」
「……覚えてんよ」
「………ほんま?」
「てめぇ、でけぇ胸が好きとか散々言っといてよ……ずっと俺様ん中収まってやがったよな」
「……左馬刻もでかいと思うで?胸板やけど。ふっくらちゃうけど」
「触んな」
「おまえ…!人を抱き枕にしといてなんで俺は触ったらあかんねん」
「…………」
「…………」
「……あのアパート」
「……アパート?」
「狭かったよな」
「……せやな」
「部屋決める時もっと広くてもいいんじゃねえのって言ってもよ、てめぇ、ええねん、とか言って」
「……うん」
「……腰据えるっつっといてよ」
「……うん」
「部屋も狭くて、時間経っても物も増えなくてよ……だからきっとおまえは……そんな遠くねぇうちに消えちまうんだろうなって思ってた」
「……そうなんや」
「…………」
「でも俺、案外居たやろ?」
「……そうだな」
「おもろかったからな……」
「…………」
「もっとおったら、どうなってたんやろな」
「……しらね」
「部屋引き払った時な」
「………」
「二年更新の前で、保険払わんで済んでん」
「……そりゃ、良かったな……?」
「はは、微妙な顔しとる」
「テメェが微妙な話すっからだろ」
「ふふ」
「……」
「……そう、せやから、酔ってへんから」
「…あ?」
「昨日は飲んでへんし、今日は部屋も寒ない。せやから」
「……」
「おまえがこうしてんのは、寝呆けて俺を抱き枕やと思ってるしかないやん……」
「…………逆ならあるわ」
「逆…?」
「そこのヤツな。緑の。うるせー色のヤツ」
「……はは、なんでその色買うたんよ」
「………なんとなく」
「ふぅん」
「………」
「……何がそれで逆なん?」
「だからよ……緑だから、テメェだと思ったりすんだよ」
「……」
「寝呆けてよ……抱き心地ふわふわしやがってあの枕。なんで簓じゃねぇんだって……」
「……なんやそれ…」
「………」
「俺は、おまえのとこにはおらんやんか……」
「………そうだな」
「………」
「………起きるか」
「…………」
「簓?」
「……おまえんとこにはもうおらん、けど」
「……なんだよ」
「………」
「……言えよ」
「…………あかん」
「あ?」
「やっぱやめとく、怖いし…恥ずいし俺アホみたいやもん!」
「ッてぇな急に頭突きすんな!大体テメェはいつも阿呆だろ」
「なっなんちゅー言い草や…!一応頭ええ男で通ってんのに…」
「つか何が怖えーんだよ」
「え!……か……」
「あ?なんて?」
「俺の勘違いやったら嫌やん…」
「はあ?」
「……あんな!さっきの左馬刻の話とかな!…こうやってシラフでぎゅってされたらな、おまえが俺の事すっ好きなんかなって…」
「……どう転んでもそうだろうが」
「……でもおまえ、全然そんなそぶり無かったやんか今まで、MCDん時やってこう……」
「…なんだよ」
「俺らマブダチやったやん…好きやけど、ラブやなくてライクっちゅーか…おまえライクの意味分かる?」
「馬鹿にしてんのかどんだけラップやってきたと思ってんだ」
「せ、せやな……」
「どこ行くんだよ」
「いやちょっと頭冷やしに…のわ!!?」
「そりゃテメェが俺様ボコって消えてから気付いちまったんだから惚れてるそぶりもクソもねぇだろダボ」
「……」
「やっと会えて…やっと話せるようになってよ……俺がどれだけ…」
「……」
「……くそ」
「………」
「……左馬刻」
「んだよ……」
「……今度二人で飲もか」
「……あ?」
「おまえが暇な時に、また俺んちで」
「……また好きなタイプの話でもすんのかよ…」
「ん……せやなぁ。俺が好きになった奴、怒りっぽいねん。けどほんまは不器用で優しくてな、それでな、怒りっぽいねん」
「今話すのかよ、しかもどんだけ怒りっぽいんだよ」
「でも俺そいつの事めっちゃ好きやねん。一緒に酒飲んで、くだらん話ずっとしてたいんよ」
「……あの頃みてぇにはなんねぇと思うぞ」
「……あかん?」
「飲んだら手ぇ出しちまう」
「……ほんなら酔う前にコンビニ行かななぁ」
「…………起きるわ」
「…起きんの?」
「……今簓抱えてたら、やべえ」
「……飲んでへんのに?」
「飲んでねえのに」
「…なぁ左馬刻」
「んだよ」
「……あー、やっぱなんもない…」
「……」
「なんもないて」
「……簓、今目ぇ開いてるか?」
「え?そりゃ開いとるよ!」
「……じゃあ閉じろや」
「へ…?」