「な、なんでおるんや…!」
「野暮用だよ、じゃねえとンなとこ来ねぇよ」
「…………」
「……いやびびった、まさか後ろの席に左馬刻がおるとはな…仕切りあるけど、話聞こえとったかな…」
「大丈夫でしょ、たぶん来たのさっきですよ。俺もあれがアイツだと思わなかったすけど…見た目かなり変えてたし」
「しかも妙に機嫌悪そうやなかった?ブクロやから?」
「さぁ……なんかツテ広げてるんか知らねーけどシノギ関係でこっち来る時ありますよ、嫌な相手と会うとかじゃねえっすか?」
「ふぅん」
「どうします?」
「えっ?」
「いや、左馬刻がいる近くで簓さんの恋バナするの気が引けるっていうか」
「あはは……けど一郎に聞いてもらって助かったわ、ダメ元やけど、もうちょい積極的でもいいかもなって思った」
「はい、簓さんはもっと恋に自信持ってください」
「恋て…恥ずいからやめぇ」
「でもやっぱりその人の想像全然付かなかったっす。特殊すぎません?」
「そぉか?一郎さっきまでめっちゃ鋭かったのにな」
「え?」
「よお考えたら分かる思うで」
「え、俺が分かるんすか?だって面白くてトチ狂ってるんでしょ…」
「おん」
「ピリッとしてて、美人で、簓さんより背が高くて珈琲好きで…りょ、料理が出来て…こっちに住んでて…?」
「一目惚れってわけちゃうかったけど、まぁ顔はきっかけになったかなぁ、そっからコイツえらい美形やなって気にしだしたんは惚れてからやな…」
「……えーっと…」
「なはは、分かった?」
「や、簓さんと漫才やった事ある部分で推理が止まります」
「あんねん!!アイツ!俺とあんねん!!」
「奇跡ですよそれ!」
「せやな〜」
「というか……俺分かってよかったんすかね…」
「一郎は嫌がるかもって言うたやん」
「あ」
「そういうこっちゃ」
「嫌がるなんて……俺は…ちょっと悔しいです」
「へ、なんで?」
「アイツの事全部許したわけじゃねえけど、アイツの良いとこもすげーところも知ってっから」
「……うん、ありがとなぁ一郎」
「……」
「……おっ左馬刻の奴自分らの話終わったみたいやで」
「……」
「一郎?」
「左馬刻」
「……あ?ンだよ様付けろっつってんだろーが」
「なんださっきから機嫌悪ィな、商談上手くいかなかったのかよダセェ」
「ちょちょちょ一郎くんどおしたん」
「……俺様がわざわざ顔出してんのに上手くいかねぇ訳ねえだろうがダボテメェ喧嘩売ってんのか?こちとらオムツも取れてねぇ一郎クンみてぇに暇じゃねんだわ見逃してやっからさっさと消えろ」
「左馬刻、こわいこわい」
「ここはアンタのシマじゃねえだろ、でけぇ顔出来ねぇのはどっちだ?」
「チッ……フラフラした野郎が揚げ足取りやがって」
「俺だってこれから仕事だよ、おまえと違って健全に忙しいからな」
「は、どの口が言ってやがる簓とベラベラ喋りたくって時間潰してたくせによォ」
「俺だって簓さんともっと話してえよ」
「あ″?」
「えっそうなん?嬉しいけど…」
「けど仕事入っちまったんだよな。そんで簓さん今日はもうずっとオフなんだってよ、折角ブクロまで来てくれてんのに一人にしちまうんだよな」
「へぇ……」
「あらま、べつにええよ俺一人でプラプラすんの好きやし」
「左馬刻はこれからどうせ暇なんだろ」
「…………」
「……えっ何?俺の顔なんか付いとる?顔怖いで左馬刻」
「……暇だわ」
「じゃあ簓さんの事頼むわ、左馬刻が相手でも一人より二人の方が簓さんも楽しいだろ」
「ざけんな俺様でもってなンだよ…なぁ簓?」
「え?……へ!?」
「貸せ」
「おおい俺んとこの伝票…レジ行きよった…払ってくれるんか?急に気前のええやっちゃな…」
「簓さん簓さん」
「なんやなんや、ちゅーかびっくりしたで一郎、なんであんな煽るんや…」
「簓さん、きっと脈ありますよ」
「へ?」
「あんなに煽ったのに左馬刻の奴、暇って言いましたもん。簓さんと居たいんじゃないっすかね」
「お、おお…?」
「あとたぶん不機嫌だったの、俺達の会話多少聞こえてたんだと思いますよ」
「え!?」
「それでアイツ、簓さんに好きな人がいるって思ったんじゃないですかね。俺ぶっちゃけ左馬刻とは何回か顔合わせてるんすけど、あんなに不貞腐れた左馬刻見るの久しぶりでしたよ」
「そ、そうなん?いやでも…」
「頑張ってください!俺昔の仲間としても応援してますから!」
「あたッ!お、おお…おおきにな…ちょっと展開について行けてへんけど…」
「何くっちゃべってんだオラ、いくぞ簓」
「え!お、おん」
「左馬刻サンご馳走さんっス!」
「テメマジ調子いいな一郎」
「じゃあ簓さん、また遊びに来てくださいね。あと上目遣いっすよ!」
「いやそれは無しって話やったやろが!」