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    ※大人ばじとら
    ※反社になってちょっとマンネリ化した一虎が場地を引っ掻き回す話
    ※モブが出しゃばりますが二人との恋愛的な絡みは無いです。

    賭け【前編】 オレの人生は普通だった。そのはずだ。
     普通に大学を卒業して、普通のサラリーマンになった。それから普通に仕事をして、普通に生活した。色気のない生活をたまに華やかにしてくれるのはパチンコだけ。それもほんのたまに遊ぶだけ。
     それがいつの間にか違法賭博に代わっていたのはいつからだったか。
     そうだ、確かアレはボーナスが入ったからパチンコを打ちに行った日だ。ボーナスを三分の一ほど溶かしてしまって、もう止めようと昼前だったが意気消沈しながら店を出た時、人の良さそうな男に声をかけられたのだ。
    「お兄さん大負けしちゃったんでしょ」
    「え、ええ、まぁ、はい……」
     不審に思ったが無碍にすることも出来ずに思わず受け答えをしてしまった。
    「めっちゃ負けてたの見ててさ、かわいそうーって思ったから、良いとこ教えてあげようかと思ってさ」
     男はそっと「一発千円のパチンコ打ってみない?」と耳打ちしてきた。
     一発千円のパチンコ。そんなものは聞いたことが無く、訝しげに男を見てみるとただにっこりと笑うだけ。
    「ど?興味あるでしょ」
    「一発千円なんて……違法じゃないですか?それに、そんな大金無いですし」
    「大丈夫大丈夫、ちょっと一回行ってみるだけ!」
     少しどんなものか、興味はあった。一発千円ということは十玉一万円、百玉で十万円ということだ。ただ、やはりこちらも一発打つのに千円かかるということだ。
     断りを入れて立ち去ろうとすると、男は「じゃあ」と懐から封筒を取り出した。
    「ここに百万あります。今回は初回ってことでこれ使ってください」
    「ひゃく!?」
     ちらりと封筒の中身が見えると確かに札束があった。
    「今日はコレを使って遊ぶ。で、もしハマったら次も来たらいいですよ」
    「あの……これ、後から返済とか……」
    「無いですよ!オレからのプレゼントです!」
     ニコニコと笑う男。まだ怪しんではいたが、百万円という大金と刺激的なギャンブルに惹かれて「一度だけ」と男の手を取った。



     男に連れて行かれたのは裏路地だった。いかにも怪しげな寂れたビルの一画にあった。重厚な扉を開くとじゃらじゃらと金属が擦れた音が聞こえてくる。
    「じゃ、ここで玉に替えちゃって。おーい、ご新規さん連れてきたぞ〜」
     男に言われるがまま、受付でもらった百万円を渡すとカードに入金され渡された。
    「あとは普通のパチンコと一緒。これ使って遊んで。出入り自由だし、そこにある飲食も無料だから適当に過ごしてよ」
    「はぁ……」
     現実味がなくて気の抜けた返事をしてしまった。ここでぼーっと突っ立っていてもしかたないので、ひとまず好きな台を選ぼうと店内を見渡す。
     良く見知った台が並んでいて、なんとなく安心感をおぼえた。客は少なく、ちらほらといるだけだ。自分と同じようなサラリーマンもいたが、テレビで見かけるような人間もいた。
     有名人も使っていると言うことに安心し、同時に不安になった。
     一通り店内を回って、いつも使っている台を選んだ。
     うち初めてすぐ、この玉一発一発が千円だと思うと心臓が高鳴った。あっけなくアウト穴へと堕ちていく玉を見ながら、これが自分のお金でなくて心底よかったとおもう。すでに一分たらずですでに十万円使い切った。熱いリーチもかからず、ぼーっとくるくる回るスロットと玉を見つめる時間がすぎていく。
     脳が思考停止し始めた頃、突然激アツリーチがかかった。「おっ」と思わず声が出る。スロットの行く末を見ていると、アタリ、そのまま確変モードへと移り、変な汗が出た。
     このまま当たればいくらになるのか。
     帰りどきを見失うくらい、アタリは継続した。その後も当たったり外れたりを繰り返し、結局夕ご飯もそこで済ませる。
     一区切りついた時、カードの中身は五百万円になっていた。一晩で年収ほどの金額を手に入れてしまった。
     換金しようと受付にいくとここを紹介してくれた男もいた。
    「おにーさんどうだった?」
    「あっ……か、勝ちました。五百万」
    「えー!?マジ!?すげーじゃん!」
    「あの、だから百万返します」
    「いいよいいよ、最初に言った通りその百万はあげたんだから。その代わり、また遊びに来てくれたら嬉しーなぁーなんて」
     返そうとした百万を断られてしまって、行き場のない手だけが残った。ここまで言っているのに受け取らないのは逆に失礼ではないかと思い、素直に受け取った。いつかお返しをしようと思いながら。
     受付の男にカードを渡すと「現金振り込むから口座番号を教えて」と言われた。通常のパチンコ店と換金方法が違うため「振り込みなんですか?」と聞くと「大金が当たった時はね。こんな大金、持ち歩くのも怖いでしょう?」と言われ、それもそうかと紙に振り込み口座を記入した。
    「じゃあ今日の分は振り込んでおくから、明日確認してよ。カードは預かるから、次きた時にはまた声かけてよ」
     受付の男にカードを預け店を出る。外は真っ暗だった。高層ビルの向こうに見える夜空が小さくて、急に現実世界に引き戻された気分だ。
     もしかしたら今までのは夢だったのかもしれない。自分があんな怪しげなパチンコ店に入れるわけがない。実は全部夢で五百万円も振り込まれておらず、あの男二人に騙されたのかもしれない。こちらは一銭も損していないので、害はない。
     ……帰るか。
     家路への足取りはいつもより軽かった。



     翌朝。諸々の振り込みを済ませてしまおうと銀行へ向い銀行口座を確認してみると、五百万円の入金されていた。思わず二度見して目を擦ったが確かに五百万円入金されている。
     夢かと思っていた。現実だったらしい。本当かどうか、信じられずにATMに駆け込んだ。確かに五百万円入っている。
     あそこでの出来事は本当だった。途端に怖くなってきた。アレが違法賭博なのは知っていたはずだ。それなのに、ちょっとした好奇心で足を踏み入れてしまった。
     まだ後戻りできるはず。今日仕事帰りに借りた分だけでも返しに行こう。それでもう二度と行かない。これでおしまいだ。
     オレは仕事をさっさと終わらせてあのパチンコ屋に行こう。
     しかし、早く帰りたいと思っている時に限って問題は起こる。部下がやらかしたヘマの尻拭いをしているうちにいつの間にか日付が代わりそうな時間にもなっていた。本当は叱りつけたいこともあるが今後のことを考えると強く出られない。それに、部下の教育に関しても同期には負けたくない。理想の上司としての自分も演じなければ。申し訳なさそうに謝る後輩に「次は気をつけてくれ」とだけ言って帰り支度を始める。
     すっかり遅くなってしまったがお金だけは返して帰りたい。ATMに寄って百万円をおろしてきてあの裏路地へと向かう。
     いざあの不気味な扉の前に行くと尻込みしてしまう。また自分が自分の世界に戻ってこれないのではないか。
     扉の前でもたもたしていると「おい」と唐突に声をかけられた。突然の出来事に驚き「うわぁ」と驚き声を上げてしまった。
    「んだよ。そんなに驚くなよ」
     そこに立っていたのは長髪のスーツを着た男だった。怪訝そうに眉を顰めてこちらを見下ろしている。彼もここの客なのだろうか。
    「オマエもここに用事あんの?」
    「え、まぁ、はい」
    「じゃあさっさと入れよ」
     男に促され、まだ決心がついていないのに中へと入る羽目になった。
     薄暗い室内に別世界に飛び込んでしまったみたいだ。
     俺が中に入ってきょろきょろと見回していると「また来てくれたんですね」と俺をここにさそった男がやってきた。俺に挨拶したかと思うと隣にいる長髪の男を見て深くお辞儀をした。
    「場地さん!わざわざこんなところまでお疲れ様です!」
    「たまたま近くに寄ったからな。奥、空いてる?」
    「空いてます!」
     そう言って場地と呼ばれたことを案内しようとした男だが、俺を見て「今日も好きに遊んでください」と付け加えてきた。
     今日は遊ばない。このお金を返すんだ。
     そう思って男を引き止める。
    「あの、やっぱりやめようと思って……コレも返そうと思って来たんです」
     そう言って百万円出すと男は残念そうに「そうですか」と俯いた。すると場地が割って入ってきたのだ。
    「それ、オマエが貸したの?」
    「そうです。初回だからサービスってことで。それをこの人律儀に返そうとしてくれるんですよ」
    「ふーん」
     場地はじっとこちらを見てくる。切長の鋭い瞳に見られると動けなくなってしまう。何を言われるのか怖くて目を伏せていると「いーヤツじゃん」と言われる。
     訳もわからず「え?」と場地を見上げるとにやりと不敵に笑っていた。
    「でもコイツにもカッコつけさせてやってくれよ。返すんじゃなくて、ココでまた遊んで還元する形でさ」
    「あ、それいいっスね!ね、おにーさんもそれでいいでしょ?」
    「は、はぁ……」
     なんだかトントン拍子で話が進んでしまって結局再び遊ぶことになってしまった。場地と男は奥へと消えていったので、仕方なく遊ぶことにした。



     負けた。百万円あったがそれが全てパァだ。途中大当たりした時に帰ればよかった。そう思いながら出口に向かうとちょうど場地と鉢合わせる。
    「その顔は、負けた?」
    「えぇ、まぁ……」
    「まぁそんなもんだよな。ゲームだって分かってても負けんのは気にくわねぇよなぁ」
    「……そうですね」
     ただの世間話をすることになって妙な気分だ。なぜ彼は話しかけてきたのだろうか。
    「負けっぱなしも気持ち悪いーと思うからさぁ、また来いよ。アイツも喜ぶと思うし」
     場地が顎で示す方には自分を誘った男がいた。
     確かに場地の言う通り、負けたまんまは気持ち悪い。
    「……気が向いたら」
     気が向いたら、今度こそ勝ち越させてもらう。
     俺は心の中でそう思ってパチンコ屋を後にした。



     ハマったら抜け出せない。そんなことはわかっていた。
     パチンコなんて負けるように作られていることも、頭では分かっていた。
     それでも負けて負けて勝ってまた負けて。それを繰り返しているうちにそれが快楽へと変わっていた。それもそうだ。ハイリスクの代わりに見返りも大きい。勝つ時は大勝ちしてしまう。それがいけない。
     ギャンブルのために使う金は生活費からも出すようになった。消費者金融へ借金もするようになった。生活がカツカツになっていくのを実感してもギャンブルはやめられない。こんなもの我慢できない。
     今日も当分の食費を握りしめてパチンコ台に向かう。金はすぐなくなる。
     また負けた、とイライラしているところに「最近どう?」と誰かが声をかけてきた。
     見ればあの時いた男、場地だった。
    「負けっぱなしですよ」
     イライラしていた俺はぶっきらぼうにそう答えた。場地は「ふーん」と言うだけ。いまいちこの男が何を考えているのかわからない。
    「アンタ、その様子だと生活もギリギリなんじゃないの?」
    「そうですけど、なにか?」
     不躾な質問にイラッとして答える。しかし場地は関係なしに絡んでくる。
    「もし本当に生活がキツいなら、オレが貸してやるよ」
    「え?」
     場地はにっこりと笑う。
     怪しい言葉だったが有難い言葉でもあった。明日食べる分も今なくなってしまった。
    「十日で五割の利子でな」
     法外な利子に心臓が大きく脈打った。闇金だ。彼は闇金の人間だったのだ。元々法外のギャンブル場なのだから闇金もいてもおかしくないかとなんとなく納得してしまう。
    「どう?最初は五万。十日後に五万五千円返してくれたらいい。勝ったら返すのもヨユーだろ?ま、万が一負けたら利子の五千円分だけ返してくれたらいい。どう?」
     馴れ馴れしく肩を組まれて囁かれる。
     そう、勝てば返済なんて簡単だ。結果として今は借金しているが、何度か大勝ちもしている。
     一回勝ってしまえば返済なんて問題ない。食費だけじゃない。滞っている光熱費の支払いだってなんとかなる。
    「……五万、貸してください」
    「はいよー。じゃ、身分証ちょうだい」
     場地んび免許証を渡すとそれを持ってどこかに言ってしまった。
     しばらくして戻ってくると、免許証と一緒に五万円渡してくれた。そのまま帰ろうと思っていると「もう少し遊べば?もしかしたら当たるかもしんねぇし」と肩を叩かれたので、もう一万円だけ入れる。
     その一万円で大当たりを引いた。



     十日後。余裕で全額返済できたはずの計画は破綻した。またほぼ文無し。五千円だけ返済。
     それからまた十日後。利子だけ返済。次は大勝ちしたので全額返済。そしてまた借りる。何日もそれを繰り返したため、いつしか借り入れることが日常になった。
     そんな状況になった時、口座に百万円入っていた。なんでそんな金額が入っているのか。今日は負けたはずだ。もしかして、知らないうちに勝っていたのかもしれない。
     ありがたく使わせてもらうことにした。
     だが百万円なんて、あのパチンコ店ではあっという間に無くなってしまう。また場地から金を借りる。
     しかし、ある日場地から返済額が足りないと言われる。
    「えっ……?」
    「オマエ、全然元金返してくれねーから借金膨れ上がってんのよ。もう借金五百万円こえてるんだぜ?」
     五百万円は自分の手元にあったはずの金額だ。それがどうしてマイナスになっているんだ?もうわからない。そんなの、利子すら払えない。
    「なんで、そんなに」
    「ずっとジャンプしてたろ。そりゃ元金返せねーんだから増えるだろ。それに、このまえドカンと百万円借りたろ」
    「百万円!?そんなの」
     心当たりはあった。確かに振り込まれていた。百万円。
    「貸しただろ?現に使ってんじゃねーかよ」
    「そ、それは勝手に入金されてたから!ココからの入金かと思ったんですよ!」
    「やっぱ借りてんじゃねぇかよ。借りたもんはちゃんと返せよ?」
    「そんな……金なんて……もう……」
    「ねぇの?しゃーねーな。いいとこ教えてやるよ」
    「ど、どこに連れてくんですか!?ま、まさか体売られるんですか?」
    「?ちげーよ。つーかそんなとこあるんなら逆に教えて欲しいくらいだワ」
     こい、と半ば脅されて裏へと連れて行かれた。



     「一虎ァー!コイツ金に変えてくれよ」
     乱暴に扉を開けて場地はそう言った。中にはソファーにどっしりと座った男がいた。金髪のメッシュの入った長髪で、こちらを振り向くとリンと鈴が鳴り、首筋に虎のタトゥーが見えた。
     そのいかつさに尻込みしてしまう。
    「おーいつもサンキューな」
     彼は自分なんか気にもしないように軽い口調で場地に語りかける。一虎と呼ばれた男はこちらをじろじろと値踏みするように見てくる。
    「で、いつも通りでいい?」
    「ああ」
    「あの……」俺が恐る恐るそう問いかけると二人は「あ?」とドスのきいた声で聞いてきた。
    「どうなっちゃうんですか、オレ……まさか、どこかに売られたり……」
    「んなかわいそーなことしねーよ」
    「そーそー。ちょっと貸してほしいものがあるんだよね」
    「貸せるものなんて何も……」
     自分は何も持っていない。渡せるものなんて何もないのに、何を貸せというのだろうか。
    「名義。アンタも持ってるだろ」
    「名義って」
    「名前。あと口座。スマホとかもな」
    「それは……」
     そんなもの貸したらどうなるか。具体的なことはわからないがまずいことはわかる。
     迷っていると一虎が立ち上がり詰め寄って来て壁に追い立てられた。逃げられないように脚で逃げ場を塞がれてしまって大きな瞳を見つめることしかできない。
    「ダメなの?じゃあオマエどうやって借金返済すんの?一応給料のいい職場も紹介できるけど、もう二度と戻って来れねぇよ」
    「……」
    「黙ってたらわかんねぇだろうが!」大声を出されてびくりと肩が震えた。
    「あっ、あっ、貸します!貸しますから!」
     一虎の威圧感に負けてうっかりそう言ってしまった。すると一虎の表情が柔らかくなりにっこりと微笑んだ。
    「じゃあありがたく貸してもらうわ」
     一虎は俺をソファーに座らせた紙とペンを渡してきた。場地と一虎に見られながら個人情報を売っていく。これがどうなってしまうのか、考えたくない。考えないようにしていた。今ここで書かなければどのみちおしまいだ。
     そう終わりだ。ここで俺はおしまいなんだ。



    ✳︎✳︎✳︎



    「場地もだいぶ稼げるようになったんじゃねぇの」
     一虎がひらひらと紙を振りながら挑発的に言う。その紙には手に入れたばかりの個人情報が記載されている。
     場地はソファーにどすっと腰掛けて怪訝そうに一虎を見る。
    「なんで上から目線なんだよ」
    「んなもん、オレのがシノギがでけーからに決まってんだろ。ま、最近は場地も頑張ってるみてぇだけど」
    「詐欺なんてオレには向いてねえからな。今のままでも東卍には十分貢献できてる」
     東京卍會。総長マイキーを中心に構成された裏社会に生きる組織。場地と一虎もその一員であった。子供の頃に作った組織だったが、それが気づけば巨大な組織となっていた。誰も止められなかった。ただマイキーが創る時代に生きるためにそばにいる。その信念だけでついてきた。
     創設メンバー6人に加えて様々な組織を吸収して今の形になった。なんでもやる犯罪組織。そう分かっていても止められなかった。
     場地も一虎も今はマイキーの望む通り、組織が大きく、力を持つために働いた。
     一虎は手に入れた紙をファイルに挟み、場地の向かい側のソファーに腰掛ける。
    「……知ってるか?最近三ツ谷に続いてパーも行方不明だって」
    「ああ」
     場地はソファーに背中を預けて天井を向いている。一虎からは顔が良く見えず、彼がどんな表情をしているのか確認できない。
    「なぁ、場地……オマエはオレのこと置いていったりしねぇだろうな……」
     一虎の言葉に場地は身体を起こして一虎を見つめる。なぜ急にそんなことを言い出したのか、わからなくもなかった。かつての仲間がいなくなるのは寂しい。特に場地と一虎はずっと一緒にいた。
     場地は腰を持ち上げ一虎の隣に座って肩を抱き寄せる。
    「置いていかねぇよ。一虎。あの時からずっと、オレはオマエと一緒だ。なんて言うんだっけ?いちごいちえ?」
    「ぜってーちげぇ。一蓮托生か?」
    「そうそれ。たぶん」
    「はは。テキトーだな」
     そう言って一虎が笑っていると場地は首筋にキスを落としてきた。





     場地と一虎はいつからか仲間以上の関係になっていた。それももう何年も続いている。
     場地は一虎を大切にしてくれる。その優しさを一虎は知っている。
     ただ、物足りなさも感じていた。それは日常が過激なせいだからなのか。それとも場地が優しすぎるからなのか。
     たまには何かあってもいいのではないか。一虎はある作戦を実行しようと、債務者の一人を呼びつけた。
     呼び出された男は一虎に何されるのかわからずびくびくしていたが、一緒に写真を撮ってほしいと言われて、驚きながらもスマホで一緒に写真を撮った。
    「うーん、コレだけじゃアイツ妬かなそうなんだよなぁ……もう少し際どく、もっと顔寄せて」
     男にそうやって指示して顔を寄せさせる。見方によってはキスしているようにも見える。そうやって写真を撮ろうとしていると「一虎」と場地の冷たい声が耳に入った。
     振り返るより先に隣にいた男が吹き飛んでいった。場地が殴り倒したようだ。一撃で男は気を失い、今度は一虎の腕を強く掴んだ。
    「誰?コイツ」
    「え、えーっと……」
     場地が怒っているのはわかる。この男と自分がどういう関係か疑っているのだと一虎にはわかった。ここで誤解を解いてしまうのもいいが、それでは面白くない。こんな場地は初めてだ。
     せっかくなら、試してみたい。場地がどこまでなら許してくれるのか。
    「答えらんねぇカンケーなわけ?」
    「さぁ?」
    「ふざけんなよ」
    「ふざけてねーよ」
    「……チッ」
     場地は舌打ちをしてそのまま一虎を連れ出した。
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