一歩前の世界「ほら」
心底仕方がないという顔をした後に、宙を彷徨っていたオレの手を引いて足速に歩き出すその背中を、静かに眺めながら歩く時間が実は密かな楽しみだと言ったらキミは怒るだろうか。
何度も繰り返されるこの道案内のやり取りに、いつか愛想を尽かされてしまうかもな。なんて自嘲しながらも、自分と同じ所にタコのあるトレーナー特有のガサついた手を、少しだけ力を入れて握り返す。自分より低い体温を帯びた指先が、少しでも長く自分の手と繋がってくれてたらいいのに。
そんな自分勝手な想いを、自分より幾分か広い背中に向かって視線と共に密かに飛ばしたが、キバナの足並みは勿論全く変わらなかった。
◇◆◇
「ほら」
スイっと目の前に差し出された彼の手の意図が掴めずキョトンと見つめていたら。差し出してきた本人も先ほどジュースバーでお揃いで買ったウブのみ入りのスムージーを空いたもう一方の手に持ちながら、一緒になって首を傾げていた。
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