その姿を見るのは八年ぶりだというのに、すぐにわかったのは、きっと淡い藤色の瞳があの頃と変わらない美しさだったからだろう。自身と少し似ていて、だけど全然違うそれ。
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じんわりと汗の滲むような、真夏の、蒸し暑い日だった。
三ツ谷は両手に抱えた、空の酒瓶が詰まったケースを地面に置いた。少しでも暑さを和らげたいが為によれたTシャツの袖を捲りあげて、ちらりと空を見上げる。今宵は新月なのか、はたまた雲隠れしているのか。静まり返った路地裏は、ほの暗い外灯の光だけが頼りだった。
蒸発した父親の残していった、汚い借金。返済するためにあと幾時間、働けばいいのか。考えている余裕はない。
ここのところ取り立ては激しくなっている。相手は薬に、延いては殺しにも手を染めているようなやつらだ。いつも想像するのは最悪の結末だけ。
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