休日の今日も、俺は父さんに着いて大宮の超進化研究所で開発に勤しんでいた。
新しいZ合体を造り上げるべく、ここ最近は学校終わりにもここに足を運んでいる。群馬の学校から確かに移動時間は掛かってしまうが、その間も電車に揺られながら思考を巡らせることが出来るので決して無駄な時間じゃない。
こうして足しげく通うのはアルファエックスの開発が大詰めの時以来だった。今度は二機も同時に、更なるの強化の為の開発だ。そんな大事な開発に、末席とはいえ参加させてもらっているんだ。何が何でもやってやる。その熱意だけは忘れずに、俺に与えてもらったデスクに張り付いていたけども、手が止まってしまうことが増えた。それは情熱が下がっているのではなく、俺にはまだまだ難関な部分が多いせいだった。事あるごとに未熟さを突き付けられるのは覚悟しているが、こうもにっちもさっちも進めていないと焦りを感じてしまう。
こうしている間にも、あいつは前に進んでいると言うのに……。
焦ればますます手が進まない。アイデアが止まってしまう。こっそりため息をつくことも増えた。
そんな俺を心配したのだろう。島さんにデスクから引きはがされ、地上へ追いたてられてしまった。外の新鮮な空気でも吸って頭を切り替えろと、いつもの頼りがいのある笑顔で。
甘やかされているなと思う。でも島さん相手だったら素直にそれを受け取れる。軽く頭を下げて俺は青空の下に出た。
さて、出てきたは良いものの、特に目的がある訳じゃない。少しばかり大宮駅から足を伸ばしてみることにした。
脇をひっきりなしに通る車、遠くに聞こえる電車の走行音、忙しげに行き交う人々……俺の実家のある横川とは違って店も多い。甘いものでも買い食いしてみるかと、コンビニエンスストアの看板を探した。
寮暮らしの時はコンビニに世話になることが多かったが、同じ寮暮らし仲間のハナビはスイーツはどれが上手いとか、お握りはあそこだとか独自の拘りを持っていたな。……どれがどれだったか。どうせなら腹に溜まるものがいいな。
視線を巡らせば、コンビニの青・赤・緑のどれかの看板ではなく、キッチンカーが商業ビルの前に停まっているのが目についた。もしかしたらいつもそこに居るのかもしれないが、俺にとってはもの珍しくつい足が向かう。
いや違うな。引き寄せられたのは珍しいからだけじゃない。
そのキッチンカーの、商品を受けとる小さなカウンターに緑と白と赤の三色が並んだ小さな国旗がパタパタとはためいていたからだ。最近見慣れたメキシコの国旗。その料理を扱っているキッチンカーらしい。
緑は独立を、白は信仰心を、赤は民族の統一を象徴している鮮やかな三色の旗。
日本とは地球のほぼ裏に位置する国の国旗の意味を知るようになってしまった原因はひとつ。そいつのことを思い出したら、どんな味か気になるに決まっている。
予定よりも多い額を払って手にいれたメキシコの一般的な料理のブリトー。初めて持ったそれは、片手の人差し指と親指では回りきれないほど太く、ずっしり重かった。
食べ物が手の中にあると思うと、途端に腹がくうと鳴る。
誰も近くにいないけれども恥ずかしい。仕方ないだろ、こちとら成長期の中学生だ。
近くにあったベンチに腰掛けると、その場で包み紙を破った。
現れたのは、見るからにもっちりしているトルティーヤと呼ばれる薄型パン。大口を開けて頬張れば、予想通りもっちりとした生地と新鮮な水菜のしゃきしゃきさ。違う食感が口の中で面白く踊った。噛む度に新鮮な野菜が口内で音をたてる。肉の味もしっかりしていて、千切りのニンジン、レタス、沢山の生野菜と合うし、海老のぷりっとした食感もアクセントとなって咀嚼するごとに楽しめた。
予想以上に食べやすかった。もっと食べなれない香辛料が使われているものかと勝手に思っていた。一気に半分まで食べ終えてから手元の太い丸の断面を見る。
いろんなものがごちゃ混ぜになのに一丸となっているなんて、まるで俺たちのチームみたいだな。
「シンも、食べたのかな」
思わず零れた声は、我ながら細かった。
きっと俺が食べたコレと、シンが本場で食べるものは違うだろう。日本の野菜と日本人に受け入れられる味付けだしな。
同じものを食べると心が近くなるとは、総司令長を初め超進化研究所の鉄則みたいな所があるらしいけど、小さな風が心をそっと過ぎ去ったのを感じた。
メキシコ料理を食べたのに、逆にシンの存在が遠くなったことを感じたせいだろうか。
過った寂しさを誤魔化すように、残りを一気に食べきった。包み紙は、何だかすぐに捨てる気にならなくてポケットにしまう。
満腹の満足感と頭をもたげた寂寥感でごちゃ混ぜになった息を吐いて、ビルの合間の青空を見上げた。
こうしている間にもあいつは進んでいるんだろうな。なのに俺は……
良く晴れた空の明るさが、照明に慣れた網膜に眩しい。
眩しい、青い、光。
「そうだっ」
新たな武器を搭載してもその後の動きや攻撃にスムーズに移ることがシュミレーションでは難しく運転士の技量に頼る部分が大きくなってしまって安全面に問題ありとされていたが各所にセンサーを設置すればどうだろうか。自分と対象との距離を自動で測れるAIを組み込んで、ドクターイエローにも使われているものを改良すれば……可能か? いやまずはやってみなければ。可能性はゼロじゃない!
先ほどまでの消沈しかけていた意気が嘘のように次々にアイデアが溢れてくる。青い光が俺を導いてくれたみたいだ。
「よし」と気合いを入れてベンチから立ち上がる。
アイデアを一刻も早く書き出したくて仕方がない。来た道を駆け足で戻りながら、青空にちらりと礼を込めて視線を投げた。
いつも、ありがとな
腹に納めた寂しさと、背中を押してくれる青を活力に、今度のシンとの通話では本場のブリトーの具について語ってもらうかと決めた。
*パーフェクトな両機とも『各部センサーがブルーに発光しているのが大きな特徴だ』(抜粋)って書いてあった。抜粋の破壊力。
これはシン君の色だ!シン君は皆と共に戦ってくれているんだと、勝手に決めつけています。
いやだって青じゃなくてもいいでしょ? 黄金でもいいでしょ? それを青ですから。