溶接で 蕩けた シンが運転士となり、懇親と体力向上の目的で実施されることとなった研究所横川支部の春の運動会。(シンのというより、十河指令長が運動不足で緊急時に駆けつけてる際に何もないところで転びかけたことが発端だ。)
何かあった時には会議室となる空き部屋で着替えていたが、配布されたジャージはサイズを間違えたらしく俺にはぶかぶかだった。手先をすっぽりと覆えるほど袖が余っている。これだったらいつものツナギで出たほうが良い。
シンは間違えずに受け取ったらしい。既に着替え終わって、小豆色のジャージのポケットに手を突っ込んで俺を隣で待っていた。
ツナギに着替え直すか、合っているジャージを探してくるか。
余ってる袖を見て唸っていたところに、何を思ったのか奴は「アブト、飴いる?」と突然手をぱっと出してきた。咄嗟に受け取ろうと俺も腕を前に出した途端、袖口から手を差し入れてきた。隙をつかれた!
「勝手に、俺の中に、入るな!」
「へへへ」
露骨に迷惑がって見せたというのに、シンはケラケラと笑ってる。
「飴は嘘か」
「ちゃんとあるって」
カサリ、と小さな包装紙の感触がジャージに隠れて見えない手のひらに乗る。
「これぞ正に袖の下ってね」
「袖の中だろ」
しっかりと飴を受け取ってからふと気づく。
俺の腕とシンの腕が、まるで溶接されたレールのように一本になっていた。
なぜか気恥ずかしさが沸き上がってきた。シンは笑顔のまま、抜こうとしない。こうなったら力ずくで引き抜いてやる。
ぎゅっ
行動に移す一瞬前、袖の中で手を握られた。
「は」
動揺のせいで、疑問でも否定でもない間抜けな声が漏れた。
それに対してシンはまた「へへ」と笑い、さっさと手を離すとくるりと回って駆けていった。「はやくこいよ」と言い置いて。
残されたのは着替え終わってない俺と手の中の飴。恐らくきっととても甘い飴。
のろのろと何かに負けた気分で袖から飴を出して封を開ける。
手の熱ですこし蕩けた琥珀色のア、メ。
あいつのせいだと胸中で詰りながら、俺は飴を口に放り込むと甘さを噛み砕いた。