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    huutoboardatori

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    特撮とか

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    huutoboardatori

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    隊にハマってた時に書いた雰囲気の年上組 これも2月とかに書いてて受験生馬鹿野郎……になった

     ぽろぽろと、つまびくように雨が降っている。

     履き古したスニーカーは、既にびしょびしょだ。

     まだ泥の溶け込んでいない、透き通った水溜りを蹴散らしながら、千秋と奏汰は並んで帰る。
     爪先からじわじわと、つめたさが体に染み込むようだ。千秋は足先を靴の中で丸める。

     隣でふわふわと歩んでいた奏汰が、何かに気がついたようにはっと後ろを振り返る。
     隣の千秋は、奏汰に傘をさしかけたまま立ち止まる。

     その海松藍のような瞳は、一点だけを見つめているようで、どこも見ていないようでもあった。見る人の心を奪うように揺れていて、意表を突かれたような色が浮かんでいる。

    「どうした、奏汰?」

    「うみです」

     奏汰が見つめていたのは、雨だった。今降る、降り続ける無数の雨の一つ一つ。

     分厚い乱層雲のせいで、重たく青みがかったグレーだった辺りが、わずかな雲の切れ間からうっすらと明るくなっていく。

     奏汰は、みずみずしくひかる、おおきな雨粒の一つにそっと触れた。
     その白魚のような滑らかな指先が、一瞬その水のかたまりに入り込む。

     その瞬間、ぶわっと水滴が膨らむように広がり弾けた。

     命を持ったように水はうねる。奏汰の指先を中心に、白や黄色や薄い橙色のかがやかしいひかりが溢れた。

     勢いよくほとばしる水流が、二人の前髪をおおきく揺らし、頬を撫でては散らばった。
     みるみるうちに無数の水の流れが重くるしい色彩を塗り替える。

     重たそうな雲はちぎれ吹き飛び、真っ白にひかりを溢す太陽が顔を出した。
     濃い深緑の街路樹にまとわりついた水滴が、虹色のプリズムを放つ。つややかに濡れた松葉は、まばゆいほどに陽のひかりを反射した。
     路面にきらきらと混ぜ込まれたちいさなガラス片。通学鞄のファスナー。安物のビニール傘の透き通った持ち手。


     何もかもが光り輝いている。


     晴れ晴れとした空の中、流れ続ける薄い透明な水の膜は、うっとりと笑う奏汰と、唖然とする千秋を包み込む。

     ちいさな太陽のように光りかがやく雨粒の核をつまむようにして、奏汰は話しかける。

    「このこは、うみです。うみから、きたんですよね?」

     首を傾げるようにして耳を傾ける。絶えることなくひっきりなしに溢れ出るひかり。

     それを間近で全身に浴びる奏汰は、どうしようもないくらいに神々しかった。

     千秋は息を飲んで幻想的な光景に見入っていた。吸い込む空気はひんやりと澄んでいて、体を動かすと水を掻き分けるような感触がした。

    「きてください、ちあき、いっしょに」

    「へ」

     奏汰はすっと千秋の手を引いた。
     息つく間もなく、ふたりはするりと核の中に吸い込まれた。

     どぼっと背中から落ちる。気づいたときには、千秋は群青の海の中にダイブしていた。

     無数のひかりをはじく細かなあぶくと、黄金のプランクトンが、ビーズのように波間を飾る。

     足元には深い深い海溝が広がっていた。光も、ごぽごぽとした海の音すら届かない、暗い淵。ちらちらと、煌めくような白い塵がゆっくり落ちていく。

     見上げれば、翠色にたゆたう、陽の光が透けた海面がはるか高くに見えた。
     おだやかな流れは、千秋の体をやさしく浮き上がらせる。

    「!?うみ!?」

    「はい〜、ここは、あのこのふるさと。あまみずのふるさと。おみずのふるさと。」

     少し上の方から奏汰の、おおらかな声が降ってきた。
     そう大きな声ではないのに、頭に直接ぐわんぐわんと響くようだ。千秋は少しくらくらとした。
     奏汰はそのまま、両の手のひらで愛おしそうに水を掬うと、捧げるように上を向く。手のひらをかたむけて、中身を喉に流し込むと、くぴりと音を立てて飲んだ。口の端からこぼれ落ちた水の滴がしたたって、妙に目を引いた。

     見上げる奏汰の背中越しに、水中を通った陽の光があふれていた。呆気にとられる千秋に向けて、奏汰は微笑む。

    「そして、ぼくらのふるさと。」

     じっと奏汰は、千秋のことを見つめた。

    「あ、息ができる」

     千秋ははっとしたように呟く。すは、と呼吸を確かめるように吸って吐いた。
     思わず手を口元に持っていくと、水を掻き分ける感触があった。手のひらに、呼気は感じられない。
     ただ、吸い込む空気も、掻き分けた水も、無機質なのに生きている鼓動があるようだった。

    「そうですよ、こきゅうができます。いきてるんですから、ひとも、おみずも」

     生きているのか。生きているから、鼓動があったんだな、と千秋は妙に納得した。いのちある水に、全身を抱かれている。
     まるで胎内のようだ。暖かくて、心地良い。ただ守られていて、自分のいのちを慈しみながら、待っていてもらえるような。

    「陽の光が、とてもきれいだ。」

    (翠色のあかるい波浪が揺れて、たなびくカーテンのようで……。)

    (おおきななにかに、おおいに祝福を受けているような気持ちになる。)
     
     千秋は、瞬くことも忘れて、うつくしい祝福に見入っていた。

    「ぼくらは、しゅくふくされていますよ。うまれてきたときから、ずっと」

    「いま、ぼくらが、ここにいることがなによりのりゆうです」

     千秋は、そうだったらいいな。そうだったらよかったのにな。とぼんやり思った。

     背中に青白い燐光を背負った奏汰は、水母に見えた。

     さっきの、地上で溢れたひかりを浴びていたときとは大違いだった。
     
     力なく、ただふわふわと流されるしかない、海のちぎれ雲のような水母。

     身に纏うひかりも、鬼火のようだった。ひんやりとして、力ない。

    「おなじしゅくふくをうけているんです。おなじは、うれしいことですよね?」

     奏汰は、もとから海に棲む生き物のように、滑るように泳いで千秋に近づこうとした。

     しかし、彼の体は、鈍くひかるいるかや、鋭く水を切る飛魚のようには進まなかった。
     奏汰の腕は、もたもたと不器用に水を掻き、ようやく千秋のそばへたどり着く。 

     そしてそのまま、千秋をきゅっと両腕で抱きしめる。

    「ちあき。ぼくらこれからずっとですよ。おんなじしゅくふくをうけたんですから。」

     奏汰は、そう言って千秋の肩口に顔を埋める。

     力ないその仕草は、ちいさな子供のようだった。迷子の子ども。どこへ行くべきなのか、立ちすくみ途方に暮れているようだった。
     千秋はしばらく、やわらかに揺れ動く奏汰の、空を映した水の色の髪の毛を眺める。

     そうだったらいいな。そうだったらよかったのにな。

     千秋は、どうしようもなく寂しかった。奏汰が憐れだった。

     全てのいのちの母のように、おおらかな海に包まれているのに。彼の体は海に浮かばないのだ。

     確かな祝福を浴びているのに、奏汰はきっと海に還りたいのに。
     彼の姿は、地上にいた時の見る影もなく、寄る辺無かった。

     そして、千秋もまた、微笑みをたたえて奏汰の背中に手を回した。いささか薄いけれど、確かな厚みがある、奏汰の背中。内臓が詰まった、人間の身体。
     
    「ああ、俺たち、これからずっとだ。ここからずっとだ。」

     海に落ちた隕石のほのおは、流星の篝火は、ジュっと情けなく消えてしまったのだろうか。

     それとも、光のない藍の深海のかなたで、いまだ消えず燃え続け、煌々と暖かく輝いているのだろうか。

     千秋には分からなかった。けれど、星は空の生き物で、ほのおは地上にあるべきもので、人間は地上に棲む生き物だった。

    (……暖かい。)

    (今、心の底から、おめでとう、と言いたい……)

     千秋はしずかに、眼を閉じた。たゆたう奏汰の柔い髪の毛が、鼻先をかすめていく。

     広い、広い、一面の青色に、千秋と奏汰は、ふたりきりだった。

     寒々しい何層もの青色の中に、ふたりだけが、ぽつりと浮かんでいた。
     どこまでも続く、果てのないような海の中で、抱きしめ合って浮かぶふたりは、酷くちっぽけだった。

    「帰ろう、奏汰。」

     千秋は、奏汰へ語りかけた。

     顔を上げ、うつむいた奏汰の肩に手を置き、千秋はもう一度、帰ろう、奏汰。と言った。

     奏汰は、真っ直ぐに自分を射抜く千秋の目と、自分の目を合わせた。
     そして、はっきりと笑った。

     
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    Replies from the creator

    huutoboardatori

    DONEオーブの文字です ブラックホール直前くらい?
    死人がガバガバ出てるので注意‼️
     ぐうううううと、そこらを思い切り鳴らすような音がした。

    「お前……」
     ジャグラーは、思わずガイの顔を見つめた。
     ガイは手に持った松明をぱちぱち言わせたまま、まだちょっと理解が及んでいないであろう顔で呆然とした。自分のお腹の音に。
     そこらの倒壊した柱で組まれた櫓が燃え盛っている。焼かれた死体はすっかり炎におおわれて、黒い影のようだ。濃いタンパク質の匂いが、辺りにたちこめていた。

    △△△

     辺境の戦いなんかにろくろく兵は出ない。
     駆け出しのガイとジャグラーが指揮を執るような、一小隊も組めずの分隊が二つ、それと通信兵が一人。軍医は居ない。元々救助隊のガイがいるから割り当てられなかったのかもしれないが、指示を出しながら怪我人の面倒なんて到底見られない。つまるところの使い捨てだ。兵の質もたかが知れていて、逃げたり、死んだり。夕刻あたりに燃えだした村は、日付が変わる頃には耳に痛いほど静かになっていた。小さな火事がいくつも起きて、月も無いはずの暗い夜は不気味に明るかった。燻った家の瓦礫は煤煙がぶすぶすと立ち、足元には息絶えた人間がごろごろ横たわる。ガイはもう一周だけ、と言って村の残骸を見回りに行く。もう悲鳴すらひとつも聞こえないことは、ガイがいちばんわかり切っていた。
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