陽が沈む2 常興は逸る気持ちを抑えながら貞宗の家へと向かった。夜の街は小雨が降っていたが構わずに歩く。暑くて脱いだジャケットを片手に通い慣れた道を歩けば、貞宗と一緒に暮らしていたあの頃のことを思い出した。常興は就職と同時に貞宗の家を出たが、今も頻繁に通っている。
家について常興は呼び鈴を押した。合鍵は貰ったままだったが、呼び鈴を押すと貞宗が出迎えてくれるので、つい呼び鈴を使っていた。
ところが、待っていても玄関は開かない。電気が付いているのは窓から見えていた。不思議に思っているとようやく鍵が開く音がする。玄関の戸が開いて貞宗が出迎えてくれたが、その表情は暗い。貞宗は顔を背けて何度か咳をした。
「すまんな……今朝から風邪っぽくて」
2265