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    野分まもり

    @mamomo_mori

    夢小説 再録 落書きなど

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    野分まもり

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    食戟のソーマ夢
    ※自傷行為 鬱に関する表現
    最終更新8/7

    ##夢小説

    北風小僧と寒太郎

    「そういやさ、二人はカンちゃん先輩に会った?」
    「カンちゃん先輩……?」
    「いや、知らねえな……」
    悠姫の言葉に、恵と創真は顔を見合わせ首を傾げる。この二人が極星寮にやって来て二週間ほどになるが、カンちゃん先輩なる人物を未だに目撃したことは無かった。
    「カンちゃん先輩って言うのはね、私達の一個上の先輩なの。名前が三沢カンタロウだから、カンちゃん先輩」
    「あ、カンタロウは寒い太郎、って書くんだよ」
    「なるほどなー」
    榊も会話に加わり、そんな補足をする。恵はそのカンタロウ、という名前の印象からじっとりとした厳つい男を想像し、身を震わせた。悠姫はそんな恵の心象を見透かしたかのように、カラカラと笑う。
    「大丈夫だよ、カンちゃん先輩は怖い人じゃないから!どっちかと言うとお調子者って言うか、とにかく明るい人だし!」
    「まあ、あの人、一人称も時たまカンちゃんになるぐらいだもんね」
    「へ、へえ……」
    それなら自分が思うよりも怖くはないのかもしれない、と思う恵の内心の三沢寒太郎は未だ筋骨隆々の大男なのだが、それに気がつく人間はこの場にはいない。
    それならさ、という言葉と共に、今度は創真が口を開く。
    「人懐っこそうな割にはなんで出てきてないわけ?確か歓迎会にもいなかったような」
    「あー、カンちゃん先輩、冬眠するの」
    「……冬眠?カンちゃん先輩って動物なのか?」
    「ちょっと、その言い方には悪意があるわよ」
    「てへへ、ごめんって」
    悠姫の言葉にため息をついた榊は、コホンとわざとらしく咳をしてみせた。
    「私達も詳しくは知らないけど、カンちゃん先輩は冬が苦手なの。元々体が強くないらしいんだけど、特に冬は体調を崩しやすいらしくって。だから冬の間は登校しないし、あんまり部屋の外にも出てこないの」
    「へー、寒太郎って名前なのに冬が苦手なんだな」
    「あはは。でもまあ、もう春の中頃だしね。そろそろ登校出来るようになってるんじゃないかな?」
    悠姫の言葉に、榊もうんうんと頷く。恵はそんな二人の様子を見ながら、その寒さに震える先輩に会える日は来るのだろうかと、内心で想像していた────勿論、筋骨隆々の男で。
    そしてその日は、存外すぐにやってきた。



    「────あれ?知らない子だ」

    対肉魅戦の為、極星寮の調理場に籠っていた創真と恵に、そんな声がかけられる。見れば、二人の知らない女生徒が入口から顔だけ覗き込むような形で立っていた。彼女は一瞬驚いたような顔をしたものの、にっこりと笑って体を二人の前に晒す。なんてことは無い、制服姿に黒い髪を横に一つ括りにした姿。強いて言うならば、女子にしては背が高い、というぐらいだろうか。
    「どーも、幸平創真って言います」
    「あ、たっ、た、田所恵です!」
    「創真くんに、恵ちゃん。や、ご丁寧にどーもどーも」
    少女はあはあはと笑ってその場に立ち尽くすだけだ。不審に思った創真が「入らないんすか?」と聞けば、少女は苦笑して「私、極星寮の調理場立ち入り禁止なんだよねー」と答える。
    「…………遠月学園なのに?」
    「そう、遠月学園なのに!いや、君面白いね!エッちゃんみたい!」
    またしてもあはあはと笑う少女に、創真は「エッちゃん誰か知りませんけど、そりゃどーも」と返す。恵だけが、困ったようにそんな二人をワタワタと見守っている。
    「そんなわけで私は調理場に入れないのでー、申し訳ないんだけど、お水貰ってもいいかな?コップ一杯だけでいいからさ」
    「えー、面倒臭いっす。そんぐらい自分でやってくださいよ」
    「そ、創真くん!」
    恵は慌ててコップに水を入れ、若干つんのめりながらも少女に渡した。
    「ど、どうぞ……」
    「あはは、創真くんは甘やかしてくれないけど、恵ちゃんは甘やかしてくれるんだ?覚えておこうっと」
    「い、いえ、甘やかすだなんてそんな……!」
    「いえいえ、十分甘やかしてもらってますとも。恵ちゃんは優しいねえ」
    そう言って少女は恵の頭を撫でる。突然のそれは存外優しく、恵はただ目を瞬かせるばかりだ。
    「水入れて貰ったんだから、名前の一つぐらい教えてくれていーんじゃないですか?」
    「もう、入れたのは創真くんじゃないのに……」
    恵の言葉をスルーし、創真は手をヒラヒラとさせ、少女の言葉を促す。少女はそんな二人の掛け合いがおかしかったのか、またあはあはと笑う。そんな様子を見て、明るくて優しそうな人だな、と恵は内心で胸を撫で下ろしていた。
    「ごめんごめん、言い忘れてました。私は三沢寒太郎って言います。よろしくね!」
    「…………みさわかんたろう」
    「はい、三沢寒太郎です。きったかぜーこっぞうのーかんたろうーって歌知らない?それの、寒太郎だよ」
    「はは!カンちゃん先輩、歌めっちゃ下手っすね!」
    調子外れな歌に創真は遠慮なく笑い、恵は思っていた筋骨隆々の男がこんな細長い少女だったことに驚き、呆然とするばかりだった。そして当の寒太郎本人はそんな二人の様子を見て、またしても笑う。そんな混沌とした場は一色がその場に現れるまで暫く続くのだった。



    一年生達の合宿出発前日、寒太郎は悠姫達の部屋に入り込み、夜のお喋りに勤しんでいた。ちなみに一色がもう寝た方がいいよ、と声をかけて三十分は優に過ぎている。
    「合宿かー、もうそんな時期なんだね」
    「カンちゃん先輩、今回冬眠期間長かったもんね。しばらくぶりに見た後輩はどうよ!」
    寒太郎の太腿の上でゴロゴロとしながら悠姫はそんなことを言った。榊が「ちょっと、先輩に失礼でしょ」と窘めるものの、寒太郎は「まあまあ」と笑ってそれを制するばかりだ。
    「悠姫ちゃんは可愛いね。榊ちゃんも可愛いし、うちの後輩はみんな可愛いなあ」
    「……もう、そんな甘やかさないでください」
    口調は硬いが、榊の頬は仄かに色づいている。榊はどうにも、この先輩の甘やかしの言葉が苦手だった。嫌いではないのだけれど、どうにもストレートで、ムズムズとする。逆に悠姫はそんな寒太郎の言葉に慣れているようで、「やったー!カンちゃん先輩大好き!」と喜ぶばかりだ。
    「……そう言えば先輩もこの合宿に参加したんですよね?どんな感じだったんですか?」
    場を取り直すように榊がそう聞けば、寒太郎は悠姫を太股に乗せたまま、過去を思い出すかのように頭を捻る。
    「うーん、どんな感じって言われても、まあ料理を作るだけだからいつも通りだよ。いつもやってる事をやるだけだから、落ちる方が不思議なぐらい。だから二人も全然余裕だと思う!」
    「な、なるほど……」
    落ちる方が不思議、と寒太郎は言うが年によっては半数以上の生徒が落ちている過酷な合宿だ。それを心底理解出来ないという顔で語る彼女に対して、榊は内心怯えに似た感情を覚えた。この一つ上の先輩は朗らかで誰にでも優しいが、時たまこんなふうに冷酷とも言える言葉を放つことがあるのを、榊は十分に理解していた。無論、実力が伴っているからそんなことが言えるのだろうが。
    「……うーん、強いて言うなら、二人組で作らされることが多かったかな。私、それでずっとエッちゃんと組んでたし」
    「あ、またカンちゃん先輩エッちゃんの話してるー!」
    「え、そんなにしてるかなあ?」
    自覚が無いのか、寒太郎は苦笑して悠姫の機嫌を取るように彼女の頭を撫でる。
    エッちゃん、とは寒太郎の言葉の端々から出てくる固有名詞だった。エッちゃんみたい、エッちゃんならこうする、エッちゃんなら、と寒太郎と親しい人間ならそのエッちゃんとやらが彼女と親しい人間であることはすぐに理解するだろう。けれど、悠姫も榊も、なんなら極星寮の一年生達は肝心のそのエッちゃんが誰であるのかを知らなかった。一度、丸井がエッちゃんとは誰なのかと問うと、本名の漢字が難しくて分からない、と高校生にしては頭が悪すぎる解答が返ってきたことはもはや懐かしい。ただ何となく、寒太郎に似た優しくて明るい女、それが皆のエッちゃんという人間に対する共同幻想だった。
    「エッちゃん、料理がそんな得意じゃないから、創作系は殆ど私が作ってたんだよね。懐かしいなあ」
    「え、それって何だか狡いような……」
    「そう?エッちゃん、当時他の生徒にズルいって言われてたけど全然ズルくないですって顔してたよ」
    「ご、豪胆……」
    どうにも榊の中での架空のエッちゃんの笑みが邪悪になってきた所で、パン、と寒太郎が手を叩く。
    「はい、じゃあそろそろお開きにしようね。みんな明日は朝早いんだし」
    「えー!」
    もっと喋りたい、とごねる悠姫を無理やり寒太郎から剥がしながら、榊は口を開く。
    「先輩としばらく会えないの、寂しいです」
    「私もみんなに会えないの寂しいよ。まあでも、怪我なく無事で戻ってきてね。命あっての物種だから」
    「そこは退学せずに、じゃないの!?」
    悠姫の突っ込みに、寒太郎はあはは、と笑ってみせた。

    「寒太郎くん」
    一色は、そう寒太郎の部屋の前で声をかける。一年生が合宿で出払った今、彼の声は寮の中でよく響いた。けれども部屋の中からは返事がない。それを確認した一色は、当然のように彼女の部屋の扉を開ける。
    まず目に入るのは、暗闇。電気は一つも付けられておらず、カーテンも締め切られたその場所は、二重の意味でひんやりとした印象を与えるだろう。一色は手馴れた様子で壁にあるスイッチを押す。一瞬の明滅と光の揺らぎを経て、その部屋は明るくなった。
    部屋は、乱雑としていた。ベットと、机と、部屋の隅で蹲る少女。それ以外の地面はプリントやゼリー飲料のゴミ、ペットボトルで埋め尽くされ足の踏み場も無い。ゴミ屋敷ならぬゴミ部屋とも言えるそれを見た一色は、もう一度「寒太郎くん」と言った。そうすれば、今度は部屋の隅にうずくまっている少女が、顔を上げる。頭に覆いかぶさっていたシーツが重力に従い落ち、地面に広がった。虚ろな目が、一色を確かに捉える。一色は微笑みを絶やさないまま「入っていいかな?」と問うた。少女は黙って頷いた。
    まず一色は、カーテンを開けた。そこに至るまでの道のりでペットボトルをいくつか踏み、それはベコベコと酷い音を鳴らしたが、彼は構わなかった。次に窓を開ける。生ぬるい空気が入り込んで、彼の頬を掠めた。
    それから、ビニール袋の中にゴミを分別しながらかき集めていく。その単純作業の中で、一色はずっと話し続けた。一年生が合宿に行ったこと、最近あった良かったこと、作った料理のこと、十傑評議会で話し合われたこと、そんなことをまるでラジオのように、一色はずっと話し続けた。
    「そうだ。今朝はじゃがいものペーストでスープを作ったんだけど、食べないかい?」
    大きなゴミ袋が三つほどできた頃、一色はそう問うた。
    「…………いらない」
    「今なら一年生達がいないからね。いつもと違って、ゆっくり食べられると思うけど、それでも駄目かな」
    一色が重ねてそう言えば、しばらくの沈黙の後、少女は小さく頷いた。一色はそれを見て、「じゃあ、先に降りられるかな?」と彼女に言う。そうすると、少女は素直にゆっくりとした動作で立ち上がり、よろよろと、壁に手を当てながらスウェット姿のまま部屋を出ていった。

    十分後、一色がゴミ袋と共に下に降りれば、少女は木製の椅子に体育座りをして、顔を伏せていた。寝ているのかと思えば、プラスチックの袋の擦れる音に反応したらしく、顔をあげた。その顔色はどこまでも肌白い。
    一色はそんな少女の横を通り過ぎ、ゴミ袋を外に出した。春の陽光は、こんな奥まで届いてくるものかとそんなことを考えながら、部屋に戻る。少女の位置は先程とは一切変わっておらず、一色は少しの苦笑を零した。調理場に行き、鍋を改めて火にかける。そうしてふつふつと沸き立ったそれを眺めていると、「一色くん」という声が聞こえた。寒太郎だった。
    「私の分はちゃんと作んなくても、適当でいいよ。どうせ分かんないんだし」
    彼女は入口に体を預け、酷く億劫そうな様子でそう言った。それを見た一色はコップに水を入れ、彼女に手渡す。彼女は素直にそれを受け取ったが、すぐには飲まず、ぼんやりとその水面を眺めているようだった。
    「でも確か、触覚と嗅覚はあるんだったよね?それなら、手は抜けないよ。少しでも美味しいって思ってもらいたいしね」
    「…………そういうもの?」
    「料理をする人は、みんなそうじゃないかなぁ。寒太郎くんは、そうじゃない?」
    一色は首を傾げて、笑う。少女は一瞬目を細めて、「……分かんない」と言った。
    「じゃあ、叡山くんに作ってあげた時は、どうだった?」
    「…………」
    少女は黙りこくって、何も言わなくなってしまう。それでも一色は、困った顔ひとつせず「まあ、」と口を開いた。
    「料理なんて、結局は自己満足だからね。美味しいものを食べなくても人間は生きていけるし、料理をしなくても他にお腹を満たすものは沢山あるから。わざわざ苦しんで、やるものじゃないよ」
    そう言う一色の目は優しくて、少女は思わず目を逸らした。一色のこの目が、少女は苦手だった。
    「ねえ……」
    だから話の流れを逸らしたくて、少女は口を開く。けれども言うことが思いつかなくて、二人の間には沈黙が降りた。そしてそれを苦に思っているのは、少女だけらしかった。
    「…………叡山、怒ってた?」
    ようやく出た声は、ひどく小さい。それでもそれは確かに一色の耳を揺らし、彼は眉を下げて、困ったように笑った。
    「怒ってないよ。叡山くんも、僕も、誰も、君のことを怒ってなんかないよ」
    「…………そう」
    少女はそれだけ言うと、調理場から離れて言ってしまう。そののろのろとした足取りを見送った一色は、頭を一度かくと、調理場の中に戻っていく。その頃になるともう、鍋からは湯気が立ち上っていた。

    「……一年生、誰も帰ってこなきゃいいのに」

    少女は、誰もいない食堂で椅子に体育座りをしながら、ぽつりとそう呟いた。そして自分の言葉を頭の中で反復し、頭がモヤがかかったようにうずつくのを感じていた。頭を膝に押し付ければ、視界は暗くなる。調理場からはいい匂いがして、少女のお腹は鳴った。馬鹿みたいだ、と少女は思って、自分の腹を何度も殴った。何度も、何度も、拳を握って殴り付けた。そしてそれは、一色がスープを持ってくるまで、ずっと続いていた。




    夜、自室の扉がノックの音を立てる。こんな時間に誰だろうと、寒太郎は読んでいた本を閉じ、そして扉の前にある即席のカーテンを閉める。こうすることで、部屋の中を見られることを防ぐためだった。
    そんな小細工をしてドアを開けると、見覚えのある男が笑いながら立っていた。
    「よう、三沢の娘っ子。久しぶりだな」
    「城一郎さん…………葬式、以来ですね。お久しぶりです」
    葬式という言葉を、寒太郎は自分と城一郎以外に誰もいないことを確認してから発する。そんな寒太郎の考えを読み取ったのか、城一郎は苦笑した。
    「安心しろ、誰もいない。こっちが無理言って会いたいって言ったんだ。そんぐらいはしないとな」
    「……そうですか」
    「にしても、よく何年か前に一度会った人間のことを覚えてたな。流石……」
    そこで城一郎は言葉を区切り、寒太郎を見る。その顔色は薄らと青白い。
    「……いや、悪い。どうも息子を持つと色々無神経になってな」
    「…………息子、創真くん、ですよね。通りで、幸平なんて珍しい苗字ですから……」
    「おっ、やっぱ気づいてたか。あいつ、三沢の人間から見てどんなもんかね」
    城一郎はがはは、と豪快な笑い声を上げて近くの柱に凭れ掛かる。
    寒太郎は、少し考えて「いいひと、ですよ」と言ったものの、それは城一郎の「遠慮しなくていいから」という言葉に一蹴された。
    「…………創真くんは、」
    「おう」
    「遠月学園で、とても珍しい子だと思います。いつも笑っていて、でも、それは捨て鉢なんかじゃなくて……楽しそうに料理をする子。だから私は創真くんのことが────嫌いです。大嫌い」
    「っははは!大嫌いと来たか!」
    「すみません、お父さんの前で、こんなこと」
    寒太郎は床を見ながらそう答える。城一郎のこの朗らかさが、彼女にとっては幸平創真と同じほどに苦痛で、そして何より、彼が自分を通して両親の姿を見出しているのが、酷く苦しかった。頭が割れるように痛むけれど、寒太郎はそれを表情に出さない。こんなことにはもう慣れきってしまっていて、今更表に出す理由を思いつかなかった。
    「いやいや、寧ろ光栄ってところだな。創真に言ってやったら喜ぶんじゃねーかな」
    「…………変な人」
    「っと、そうだ。本題を忘れてた」
    「……本題?」
    自らの息子である幸平創真の話をしたかったのでは無かったのか、という疑問と、この人間はこんなにも本題以外のことをベラベラと話すことができるらしい、という僅かな呆れが寒太郎の頭を即座に過ぎる。それを見抜いたのか見抜いていないのか、城一郎ははは、と笑って寒太郎に一歩近寄った。
    「銀がな、心配してんだよ。お前のことを」
    「…………」
    堂島銀。この学園で知らない人間はいないだろう。遠月リゾートの総料理長兼取締役会役員であり、食戟の審査員として顔を出すことも何度かあった。
    そして三沢寒太郎にとっては────後見人にもあたる存在。
    「アイツ、言ってたよ。結局今自分達がしてることは、エゴなんじゃないかって」
    「そんな!違います!私、堂島さんに感謝することはあっても恨むことなんて……」
    「おっ、デカい声」
    揶揄うような言い方で、寒太郎は我に返った。どうにもこの人といると調子が狂う、と内心で愚痴ってみる。
    「……す、すみません」
    「いいよ。嘘じゃないって分かったからな」
    「……私が、去年したことは、私の責任です。堂島さんのせいでも、ましてや叡山くんのせいでも、ありません」
    「叡山……ああ、今の第九席だったか?」
    「…………」
    第九席。その言葉を聞いて、寒太郎は不思議な気持ちになる。『そういえば、そうだった』と、遠い昔話を聞いた心地になる。だって寒太郎にとって、『そんなこと』はどうでもよかったから。たった一人の少女にとって、本当に大事なことは、もっと他にあったから。
    「まあその叡山ってやつのことは知らないけどな。少なくとも、銀のやってることはエゴだと思うぞ」
    端的な言葉。てっきり、城一郎は銀を庇うようなことを言うかと思っていた寒太郎は、その軽やかな口調に驚いた。
    「なんで、そんなこと言うんですか。お友達なのに……」
    「それはちょっと違うな。友達『なのに』じゃなくて、友達『だから』言うんだよ。そいつの事が好きだから、言うんだ」
    「……城一郎さん、堂島さんのこと、好きなんですか。そんな、酷いこと言うのに」
    「そりゃ好きだな!あんな面白いやつはいないだろ!それに三沢のことだって勿論好きだった!」
    「…………」
    城一郎は笑っている。そんな彼の言うことは、あまり寒太郎にはよく分からなかった。好きだから、相手に嫌なことを言う。でもそれは意地悪ではなくて、相手のためなのだと言う。もう一度考えてみても、寒太郎にはよく分からない。でもそれは、別に嫌な感じもしないのだった。
    「……そういう、ものですか」
    「そうそう。そーいうもん」
    「なら、覚えておきます」
    「おっ、三沢のオジョーサマに覚えていただけるとは恐悦至極」
    城一郎がそんなわざと巫山戯た言い方をするものだから、思わず寒太郎は小さく笑ってしまう。城一郎はそんな寒太郎を見て、僅かに目を細めた。
    「話、戻すけどな。あいつのやってることはエゴだよ。だからお前がエゴで返したって、それは恩知らずなんかじゃない。それでようやくトントンなんだよ」
    「…………」
    「だからさ。なんかやりたいこと、見つけられるといいな」
    「…………はい」
    「あと良かったらうちの息子と仲良くしてやってくれや」
    「それは、どうでしょうね」
    「はは!騙されねーな!」



    「……寒太郎はどうだった」
    階段から降りてきた城一郎を迎えたふみ緖は、少し低い声でそう問いかける。城一郎は苦笑して「よく似てたよ」と答えてみせた。
    「そういうことじゃなくて───」
    「うそうそ、分かってるって。元気、とまでは言えないんだろうけど、まあ、普通に会話はしてくれたさ」
    「……そうかい」
    「何?不満?」
    「あの子の周囲の大人は皆、あの子に余計なことばっかり言うんだよ────あたしも含めてね」
    ふみ緖はそう零して乾物を奥歯で噛みくだく。城一郎は「だとしてもさ」と前置きして口を開いた。
    「やっぱ、友達の一人ぐらいは作って欲しいだろ。元遠月学園の人間としてはさ」
    「フン、そこは極星寮って言うべきだね」
    「確かに、そりゃそうだ」
    そこまで言った城一郎は笑みを消し、ふみ緖の目の前に座り込む。そして彼女の目を見て、こう問うた。
    「なあ────あの子が、本当に去年の冬に、自殺未遂をしたって言うのかよ」
    「……そうだよ」
    「……本当に?」
    「ああ、そうさ」
    その場ではふみ緖が茶を啜る音だけが響く。調理場から零れる明かりと、一年生が騒ぐ声を留め置きながら、目を細めた。
    「どこから話したもんかねえ……」

    4

    当時の紀ノ国寧々にとって、同学年の三沢寒太郎という少女はUFOよりも奇天烈な存在だった。まず第一に『あの』三沢の、たった一人の生き残りであること。第二、彼女の調理はいつもまるで人が変わったように行われること。第三に、冬になるといつも学園から姿を消すこと。そして、第四​───これが紀ノ国にとって一番不思議なことなのだけれど​───彼女は、あの叡山の仲が良いというのだ。
    勿論、叡山はそれを死んでも認めないだろうから、紀ノ国はそれを彼本人に話したことは無い。それでも寒太郎という少女がいつも親しげに話しかけるのは叡山という男ただ一人だけだった。
    叡山という、金儲けにスキルを全振りした粗忽なヤンキー(紀ノ国にとってはこう見えている)が、彼女のような明るく誰にでも優しい、実力のある料理人と親しげにしているというのは、紀ノ国にとって不思議を通り越して釈然としない事柄なのだった。
    一度そんな話を同じ部屋で作業をしていた一色に零すと、彼は苦笑して「彼等は中等部の頃からの仲だからね」と言う。そういえば一色も三沢も同じ極星寮の人間だったと、紀ノ国が思い出したのはこのタイミングだった。
    「だとしても全然想像がつかないわ。中等部の頃からあの男は守銭奴だったでしょうに」
    「あはは。まあ、叡山くんはそうかもしれないけれど」
    「……何、その含みのある言い方は」
    「いや何、僕も彼女のことを全部知っているわけじゃないからね」
    そう微笑んだ一色は手元の資料に目を落とし、これ以上何も話すことはなくなった。そういう所が嫌いなのよ、と内心で紀ノ国は愚痴り、また彼女も手元の資料に目を落とす。

    紀ノ国は、彼女の食戟の様子を一度だけ直接目にしたことがある。高等部一年の時、秋の選抜に彼女は選ばれていたからだ。
    そもそもの話として、三沢家はまずそのスタンスから特殊だった。三沢家は江戸時代から続く伝統ある一族だが、その起源は料理というよりも料理勝負にあった。ある意味、食戟の先駆けとも言えるだろう。
    初代である三沢琴が始めたそれは、料理勝負を興行的に行うというもので、当時からその事に対する批判は噴出していたらしい。料理は見世物ではない、挙句の果てにそれを茶化して金を取るなどけしからん、などとまあ現代でも噴出しそうなそれ。その影響で、今でこそ数は減ったが所謂老舗と呼ばれている店から、三沢は未だに嫌われている。現に紀ノ国の親もそうだった。
    話を戻すと、発案者である三沢琴もまた当時にしては珍しい女性の料理人であり、死ぬまでの数十年間、ずっと料理勝負の場に立ち続けたとされる。
    彼女は徹底して調理を『見世物』として扱い、自身が調理を行う際にもわざわざ大仰な仕草をした。いつだって彼女は観客に向けて話していたし、無意味に笑い、無意味に回り、時には無意味に狂ったりして見せた。その大立ち回りは大衆には受けたようで、三沢家は一代で莫大な富を築いた。そして二代目、三代目……と今現在まで受け継がれていくのだが、彼らには一つ奇妙な点があった。
    同じなのだ。何代受け継がれようが、性別が変わろうが、全員が初代と同じ動きをする。同じ手さばき、同じ足運び、そして同じ口上。その全てが三沢琴の生き写しであると、百年近く語り続けられてきた。そうしてそれは、三沢寒太郎という少女も同様に。

    『​─────東西東西』
    開始のブザーと共に、そんな声が響き渡る。食戟だというのにも関わらず、少女の視線は常に観客の方に向いていた。彼女は大仰な仕草で一礼をしてみせて、笑う。お手本のような、綺麗な笑みを見せる。
    『皆様、今日はお足元の暗い中、ようこそいらして下さいました。我ら役者は影法師と何処ぞの戯曲家は仰いましたが、私からして見ると皆様が影に見える。真っ暗闇の影から皆様、私のことを嘲笑しておられる!』
    紀ノ国は、眉をしかめた。彼女にとって、どこまでも作り物めいたそれは酷く煩わしいように思えた。対戦相手はもう調理に入っているというのに、彼女はベラベラと詭弁めいたことを捲し立てている。それでも​─────どうにも、『目に付く』のだ。彼女が手を伸ばせば、そちらに目が行く。彼女の声を遮る調理の音が、煩わしく思える。彼女の視線に、気がつけば誘導されている。それが彼女の、より正確に言えば三沢の持つ力だった。調理場という舞台の上は、不可侵領域であることを料理人なら誰もが知っているだろう。権力にも、金にも、何にも邪魔されない。
    だからこそ三沢という家は確固たるものだった。過去にも三沢の後を追うような家が出てきたことはあったが、そのどれもが潰れた。紀ノ国でも詳しいことは知らないが、とかく三沢の継承にはどの家も勝てないというのが専らの噂だった。今こうして目の前の舞台で微笑んでいる少女が、何を考えどうやってその振る舞いを覚えたのか、紀ノ国には見当もつかない。

    結局、三沢寒太郎はその食戟になんなく勝利し、次は紀ノ国と当たるはずだった。
    ​─────ただ、結果としてそうはならなかった。三沢はその食戟を棄権し、紀ノ国の不戦勝となったからだ。
    この事実は、彼女のプライドを大いに刺激した。まだ身内に不幸があったという理由ならば納得出来るものの、風の噂を聞けば彼女はただの体調不良なのだという。自分の体調も管理できない料理人なんて、紀ノ国からすれば同情の余地もない。
    そうして直接文句の一つでも言ってやらないと気がすまなくなった紀ノ国は、あれだけ(主に一色のせいで)忌み嫌っていた極星寮のドアを一人で叩いた。一色が出てこないことは確認済みだったが、かと言って髪の長い陰気な女が出てくるとも思わなかった。
    「…………なにか」
    灰色のスウェットに素足、ぼさぼさの髪はどうやって見ても学校の生徒とは思えない。そこでようやく、紀ノ国はこの目の前の陰気な女こそが三沢であることに気がついた。あの仰々しい仕草とは打って変わったその様子に紀ノ国も若干動揺しながら、それでも「貴方に……文句を言いに来たんだけど」と端的に、ここに来た理由を述べた。元より寮の中に入るつもりは無かったが、三沢も三沢で中へどうぞとすら言わないものだから、それはそれで腹立たしい。三沢は眠たげな目で「……はあ」とだけ言う。続きを促しているでもなく、ただの相槌なのが一目でわかった。
    「秋の選抜、私は貴方に不戦勝という形を取らされてしまった。それが私には納得がいかないの。だからもう一度、私と食戟をして頂戴」
    そうして紀ノ国が差し出したその食戟の申請書類を、三沢はぼんやりと眺めた。じっと見るだけで、反対もしなければ賛成もしない。紀ノ国がいることも忘れたかのように、ぼんやりとした目が紙をなぞるだけの時間が続く。
    「……ちょっと、いい加減に……!」
    そう紀ノ国が声を荒らげても、三沢は眉ひとつ動かさない。ただただ、時たま動く瞼だけが彼女が生きていることを示している。だから紀ノ国はどうしようもなくなって、結局その書類を押し付けてその場から去ることにした。

    ​─────その、丁度二ヶ月後に三沢寒太郎の自殺未遂事件が起こった。
    紀ノ国は詳しいことこそ何も知らないが、当日のことは今でも覚えている。確かあの日、三沢と叡山の食戟の予定が入っていて、結局自分とのそれは棄却したのにこれは受け入れるのかと苦々しい気持ちになった記憶がはっきりとある。そうしていつものように十傑としての仕事をしていれば、救急車のサイレンが遠くから流れてきて、慌てて彼女は窓の外を眺めた。調理学校ということもあり、初めは火事かと思ったもの警報機の類は一つもは作動していない。余計何があったのかと顔をしかめる彼女が次に見たのは、この十傑が集まる部屋に入ってきた叡山と一色だった。
    「…………な、なに、それ……!」
    ただし、彼等の制服は血に染っていた。動揺した紀ノ国を真っ先に諭すように「大丈夫、これは僕達の血じゃないし誰かが殺されたとかでもないから」と、それでもいつもよりずっと早口で一色が声を出す。
    「だからって……じゃあそれは誰の血なのよ……!おかしいでしょ、そんな量……!」
    そう焦った声を出す紀ノ国に、一色は困ったように口を噤んでしまう。代わりに声を出したのは、恐ろしいほどに冷静な顔色の叡山だった。
    「​─────三沢寒太郎だ」
    「……え、」
    「それ以上は、」
    叡山を止めるような口ぶりの一色を無視して、叡山はそのまま「あいつが、自分の腹に包丁ぶっ刺した。今は……救急車で運ばれてる」と淡々と全てを話す。その惨状を想像しただけで紀ノ国は動揺して、思わず窓枠にもたれかかって尻餅をついた。
    一色は誰に向けるでもない厳しい顔をしていたけれど、叡山の様子だけはいつも通りだった。三沢と仲がいいらしいその男が普段通りの、実に億劫そうな瞳で遠くなっていくサイレンを眺めているのが、紀ノ国の頭に恐ろしいものとしてこびり付いて​────今でも離れないのだった。

    5

    「……そうだ、君に一つ聞きたいことがある」
    「なんすか。答えられることだったら、答えますけど」
    合宿中の夜、鉢合わすつもりのなかった風呂場という場所で鉢合わせた二人は、熱い湯の湯気の中でそんな会話をした。創真は今じゃなきゃ駄目なんかな、と思ったが、一応目上の人間なので黙っておく。そのぐらいの分別はあった。まあ、面倒くさくなければ、という注釈がつくのだが。
    「かん……いや、三沢は普段、どんなふうに寮で過ごしている?」
    「三沢……カンちゃん先輩のことっすか」
    「カンちゃん先輩……?」
    珍しく怪訝そうな声が聞こえてきたその後すぐに、態とらしい咳払いが聞こえる。
    「そうだ、そのカンちゃん先輩だ」
    そこ言うんだ、と思いながらも、創真は素直に「どんなって……まあ普通っすよ。なんかニコニコしてるし、後輩にも慕われてるっぽいし……」と呟く。
    「…………そうか」
    予想に反して、銀の声色は明るくない。彼らがどういう関係か知らないが、そこまで自分はおかしなことを言ったつもりはないのに、と創真は内心で首を傾げた。
    「知り合いっすか?娘さんとか……いや、でも苗字が違うか」
    「はは……知り合い、か。そうだな。知り合いみたいなものだよ。元気にしているのなら、良かった」
    銀のその自嘲じみた言葉は、湯気を微かに揺らすだけだった。
    「…………仲良くしてやってくれ」
    「はあ……」
    創真は曖昧に頷くことしかできない。



    銀が彼女と出会ったのは、彼女の両親の葬式だった。突然の訃報に驚いた銀だったが、彼はまずなにより、彼等の一人娘である寒太郎の元に向かう。ただでさえショッキングな出来事が起こったというのに、周囲の大人達は可哀想にまだあんなに幼いのにね、と嘯きながら彼女が持った焼け焦げた本に目を向けている。あれが、三沢の家にずっと伝わってきたいわば秘伝の書であることを、旧家の人間は知っている。だからこそそれをどうにか奪い取れないかと狙っているのだろう。
    そんな大人達に酷く腹が立って、銀はその体躯を活かし、彼らを押しのけるようにして前に出る。そうして少女の前にやってきたかと思うと、膝を着いてこう言った。
    「君が、寒太郎くんか?」
    「……はい」
    静かな声だった。火傷をしたのだろう。顔や細い手足に貼られたガーゼが酷く痛々しい。彼女はかの本をまるで盾のようなか抱きしめた。
    「驚かせたならすまない。俺の名前は、堂島銀。君のご両親とは高校時代の同級生でね。名前ぐらいなら、もしかしたら聞いた事があるかも────」
    「知ってます。何かあったとき、この人に頼れって父が言っていましたから」
    「そ、そうか。それなら話が早い」
    まだ現実を受け入れられないのだろう、と銀は少女を哀れんだ目で見つめた。涙こそ出ていないが、その目はずっと前髪に隠れて見えない。どこまでも淡々とした声色も、身を守るための鎧のようなものなのだと、銀はそう思っていた。
    「……なあ、寒太郎くん。俺と来てくれないか。俺なら、君を守ってやれる。そして三沢の名も含めて、だ。君の親代わりには……なれないかもしれないけれど。衣食住は保証する。そしてまた、料理が出来る場もだ」
    料理。その言葉に、少女の体が僅かに揺れたのを、銀は肯定的な意味に捉えた。
    そしてそのまま、寒太郎は銀の元に引き取られたのだ。

    「……今日もお腹は空かないか?」
    「…………」
    銀の元に来てから、寒太郎は一言も喋らない。それどころかほとんどなにも口に入れようとしない。最初はショックでものが食べられないのだろうと思っていたが、こうも続くと流石に心配になってくる。あの葬式の日から二ヶ月近くが経つのだから。
    青い皿の上に鎮座した白パンをじっと見つめていた彼女は、ふと銀の方を見る。あの時と同じ、薄暗くて、何の感情も無い目。
    「堂島さんは……私がご飯食べたら嬉しいですか」
    「、ああ、勿論だ。食事は生きていくために欠かせないものだからな。食べてくれたのなら、こんなに嬉しいことは無いよ」
    「……そうですか」
    そう言った少女は結局何も手をつけず、その日は自分の部屋に戻っていった。

    ───けれど、次の日から彼女の態度は一変した。
    「ねえねえ、堂島さん!私お腹すいちゃった」
    そうニコニコと、まだ寝ている銀を揺り起こして朝ごはんを作らせて、「おいしい!」と食べる。昼も夜も、食べるようになっただけではなく、目まぐるしく表情が動いた。ころころと笑い、子供らしくぶすくれて、夜は一人で眠れないのだとめそめそと泣く。
    そのあまりの変わりようを、素直に喜べるほど銀は愚かでは無かった。ただそれを指摘することもなく、なるべく刺激しないように、見守ることしかその時の彼には出来なかったのだ。
    だから───だから。
    ある夜。部屋から一筋漏れた光を追って──その少女が自分の喉に手を押し込め、食べたものを掻き出している光景を見た時、銀は、一瞬だけ彼女を引き取ってしまったことを後悔した。自分では彼女を更に傷つけるだけだったと──そんな逃避の仕方をして、彼女を遠月学園に送り込むことに決めたのだ。

    「堂島さん、今までありがとうございました」
    遠月学園に向かうその日に、微笑んだ少女はそう言った。あどけない、陽だまりのような微笑み。それを見るだけで銀は、頭が軋むような感覚を覚えるのだった。
    「……今生の別れのようなことを言うんだな。別に、いつでも戻ってきていいさ」
    「本当に?」
    「ああ、本当だ」
    彼女の手の中には遺骨があった。彼女の小さな腕の中では、有り余るほどの箱。そこから目を逸らして、銀はそう言った。
    「じゃあ、年に一度は戻ってきますね」

    ────そう言った彼女が、戻って来たことは今まで一度も無いのだった。
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