「貴様らのような者が居るからハインライン様は血迷ってしまわれるのだ!!今ここで死ねッ!!!」
詠唱を終えた男が杖を振り上げると同時に、ノイマンとチャンドラの周囲が熱風が巻き起こる。
防御アイテムも底を尽き、負傷しているため咄嗟に回避行動も出来ない彼らがここまでかと目を閉じた瞬間。
―バリバリバリッッッ!!!!
なにかが急速に凍てつくような音が聞こえたと思ったら、自分たちを包み込もうとしていた熱気が冷気に変わった。
ノイマンとチャンドラが恐る恐る目を開くとこそには、大きな氷の壁の向こうに一人の男が立っていて。
「なッ…!?今の魔法をどうやって…?!」
自身が扱える術技で最高火力の魔法を掻き消された男は愕然としているが、その男の正面に立つもう一人の男―ハインライン―は気に止めることなく、ただひたすらに男を睨み続けている。
「貴様」
「ハ、ハインライン様…?! どうしてそこに?!」
「貴様、なにをしたのか分かっているのか」
「ヒィッ……?!」
地獄の底に響くような声を出すハインラインに全身の震えが止まらない。
―何故だ。自分はただ、魔法もろくに使えないナチュラルなどに誑かされたハインライン様に目を覚ましていただきたかっただけなのに……!!
「は、ハインライン様! 私はただ、貴方様だけを想って…!」
「黙れ」
「野蛮なナチュラルに唆されるなどあってはならない事で…!」
「その薄汚い口を開くなと言っているのが聞こえないのか」
無言で魔方陣を展開したハインラインの周囲にエーテルが集まる。
本来エーテルとは万物全ての根源で可視化されるものではない。
それなのに、目に見えるほど可視化されているということは、それほど高濃度で、高威力なものということで。
氷の壁の向こうに見えるそれにノイマンとチャンドラが声をあげようとするが、コノエとトラインに制止される方が早かった。
「コノエさん!しかし…!」
「どの道もう手遅れだ。さぁ、怪我したところを見せて」
「だいぶ酷くやられちゃったね…今、傷口を塞ぐからね」
コノエのフェニックスの形に変身したカーバンクルとトラインの回復魔法がノイマンとチャンドラの傷を塞ぐ。
しかし、傷口は塞がっても流れた血は戻らない。
依然ふらつく二人をコノエとトラインが支えている間に、氷の壁の向こうでは全てが終わっていた。