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    いくつになっても嬉しいもので(本文)

    20250111に発行されたチャ誕アンソロに寄稿させていただいたもののweb再掲になります。
    ポイピクの仕様上文章とイラストが同時掲載できないため挿し絵はこちらに上げております。
    https://poipiku.com/3409644/11301697.html
    少しでもお祭りに参加できて嬉しかったです!
    ありがとうございました

    この日のチャンドラは、元アークエンジェルクルーとミレニアムクルーの混成任務のためミレニアムに乗艦していた。
    何事もなく定刻に迎えた昼休憩は、偶然にもトラインと重なっていて。二人は食堂で横並びに座り、適当な会話を交えながらのんびりと食事をしていると、突然トラインが「あ、」と声を上げた。

    「そういえば、チャンドラくんってもうすぐ誕生日だよね? あれ、もしかして今日だったりする…?」
    「もしかしなくても今日ですけど、よく知ってますね?」
    「あ、間違ってなかったよかった~! 生まれた年も誕生日も近いから記憶に残ってたんだ。誕生日おめでとう!」
    「ありがとうございます。少佐はいつなんですか?」
    「チャンドラくんよりちょっと前の、一月四日だよ。今年はニューイヤーの休暇と合わせて休みが取れたからウィルと一緒に過ごすことが出来たんだけど、サプライズでプレゼントを用意してくれていてね! すごく嬉しかったなぁ」
    「良かったじゃないですか。おめでとうございました」
    「ありがとう! 同い年といえばノイマンくんもだけれど、今まで同い年のクルーと働く機会があまりなくてね。だから最近は二人がいてくれるおかげでいい刺激を貰っていて楽しいんだ」
    「またまたぁ、そんなに持ち上げてもなんも出ないですよ? でも確かに、いい刺激ではありますね」
    「だよね! どうかこれからもよろしくね」
    「こちらこそよろしくお願いします」
    「…同い年なんだから、ノイマンくんと喋る時みたいに敬語外してくれてもいいんだよ?」
    「大尉とは軍属じゃない期間もあって勝手に外れちゃいましたけど、少佐は同い歳でも上官なんで、それは無理っすね」

    口を尖らせるトラインに苦笑をこぼしながら、チャンドラは残された食事に手をつけた。

    ***

    トラインとの休憩を終えたチャンドラは、シミュレーションルームでヒメコやジェミーなどの後輩下士官相手にCICやオペレーションのコーチングを行っていた。これまでに二度の大戦を生き残り、CIC、火器管制、オペレーターと様々な役職を熟してきたチャンドラの経験則に基づいたアドバイスはタメになるとせがまれるように開催されるそれは今回も盛況で、二時間が経過したところで休息を入れることになった。息抜きがてらにシミュレーションルームを離れてレクリエーションルームへ向かっていると、反対側の通路よりこちらへ向かってくるコノエが見えて。いつものように敬礼をしながら通り過ぎようとしたところ、コノエがやあ中尉、と人当たりの良い笑みを浮かべながらチャンドラの少し手前で立ち止まったため、チャンドラも歩みを止めた。

    「コノエ艦長、お疲れさまです。えーと、どうされました?」
    「チャンドラ中尉、今日が誕生日なんだってね」
    「え、ええ、そうですが…。どうしてそれを?」
    「さっきブリッジに戻ってきたアーサーから聞いてね。この辺でコーチングをしていると聞いたから格納庫に行くついでに寄ってみたんだが、無事に会えてよかった」
    「な、なんかお手間をお掛けしたみたいで、すみません…?」
    「僕が勝手に寄ったのだから気にしなくていい。それも用事ついでだしね。改めて、誕生日おめでとう。これといってなにかをしてあげられるわけじゃないが、どうか今日という日が中尉にとってより良い一日となるように願っているよ」
    「ありがとうございます。…なんか、すごい照れくさいです」
    「喜んでくれたのならなによりさ」

    それじゃあ私はこれで、と優しく微笑みながら格納庫へ向かうコノエを見送ったチャンドラはレクリエーションルームへ足を踏み入れた。

    ***

    後輩下士官へのコーチングを終えたチャンドラは再びブリッジに戻っていたが、その後もミレニアムが緊急出動するような事態が発生することもなく、平和にシフトを終えた。引き継ぎを済ませてブリッジから退出すると、後ろから追いかけてきたハインラインに呼び止められて。チャンドラが振り向くと、そこには一つのタブレットが差し出されていた。

    「チャンドラ中尉。こちらをどうぞ」
    「これは?」
    「以前中尉が興味があると仰っていた、僕が過去に開発したデータのひとつです。機密保持や守秘義務の観点によりアクセス可能なのはミレニアム滞在時のみ。データ自体も未完成のプロトタイプでほんの一部だけですが、中尉の好きなようにしていただいて構いません。暇つぶしぐらいにはなるかと思います」
    「い、いやいやいや! そんな大事なデータ軽率に渡さないでください! 何考えてるんですか!」
    「興味があると仰っていたではありませんか」
    「いや確かに言いましたけど、俺みたいなナチュラルの一兵卒なんかにほいほい見せていいもんじゃないでしょうよ」
    「ナチュラル、コーディネイターなど関係なく、中尉のスキルを承知の上で良いと言っているのですが?」
    「たまに見せる俺への過大評価はなんなんですか…? そういうのはノイマン大尉だけにしといてくださいっていつも言ってるじゃないですか。俺には不要です」
    「何度も申していますが、貴方たちが過小評価過ぎるのです。ノイマン大尉のみならずチャンドラ中尉もそこらのコーディネイターの兵士より抜きん出たスキルをお持ちなのをいい加減自覚した方が良い」
    「こちらも何度も申していますが、俺らはやらなきゃいけない環境だったからたまたまやれるようになっただけで、そんな評価されるもんじゃなくてですね…」
    「本日が誕生日と耳にしたので、ちょうど良いと思ったのですが」
    「え、これプレゼントのつもりだったんですか?」
    「私が開発したものですので十分その価値は果たせるかと」
    「ぐっ…。確かにハインライン大尉お手製のプログラムに興味がないと言えば嘘になりますけど…。…本当にいいんですか?」
    「ええ。そのためにお声がけしています」
    「…では、ありがたくお借りします。退艦時に返却しますね」
    「承知しました。こちらも中尉の解析ログを楽しみにしております。では、私はこれで。誕生日おめでとうございます」
    「はい、ありがとうございました」

    チャンドラは手渡されたタブレットを片手に、ブリッジに戻るハインラインを敬礼で見送った。

    ***

    「…みたいな感じで、なんか色々声掛けてもらったんだけど、みんな律儀だよなぁ」
    『良かったじゃないか』

    チャンドラはミレニアムで一時的に宛てがわれた私室で、オーブにいるノイマンと通信を行っていた。基本的に二人がミレニアムに乗艦する時は同じタイミングであることが多いのだが、今回はノイマンが地上での演習予定を控えていたために別行動となった。とはいえ、お互い緊急出動もなく自室でゆったりとしているのなら、と暇つぶしがてらハインラインお手製の完全傍受不可仕様のシステムで、ゆるゆると近況を報告しあっているところだった。

    『そういえばまだ言ってなかったな。誕生日おめでとう』
    「どーも。まさか彼女でも家族でもなく、お前より先に誰かに祝われる日が来るなんてなぁ」
    『人のことを言う前にお前も早く彼女作れよ』
    「だから俺は出来ないんじゃなくて作らないだけなんだよ!」
    『はいはい』

    いつものチャンドラの遠吠えを聞き流しながら、ノイマンは画面外に置いてあった小さな包みを手に取るとカメラに映るように持ち上げる。

    『今年のリクエストだったガジェット、届いてたぞ』
    「あ、まじ? 早く触りてぇ~」
    『年々リクエストの金額が高くなってないか?』
    「キノセイキノセイ」

    なんだかんだと付き合いが長くなった二人だったが、お互いそれほど物欲がないため毎年の誕生日の贈り物に悩むことが増え、いつの間にかリクエスト制に落ち着いていた。今年チャンドラがリクエストしたものはオーブの自室に設置してある電子機器の一パーツだった。自分で購入することも出来たのだが、購入を検討している最中にタイミングよくノイマンに今年は何が欲しいんだ、と声をかけられたため、じゃあこれ、と軽率にリクエストしたものだ。確かに少しばかり値が張るものではあったが、ノイマン自身が片眉を上げたぐらいですんなりと了承したのだから、自分は悪くないと目を泳がせるチャンドラに、ノイマンはため息をこぼす。

    『ったく…。まあ、無事に戻ってきて引き取ってくれるならそれでいい。俺の部屋にあっても埃が溜まる一方だからな』
    「へーい。ありがとさん」
    『お返しは○○社のスポーツウェアでいいぞ』
    「えっ…。それめっちゃ高いヤツじゃね…?」
    『キノセイキノセイ』

    ノイマンはチャンドラの動揺で震える声に笑いを堪えながら、先程のチャンドラを真似するように目を泳がせて言葉を繰り返した。ノイマンが提示したメーカーは、オーブ軍でも正式採用されているトレーニングウェアを開発販売しているブランドだ。日頃からチャンドラ自身も愛用しているためその使い心地の良さは理解しているのだが、性能がいい分、フルセットとは言わなくても上下を揃えるだけでも金額もそれなりにいい金額になるもので。
    今更になってノイマンが高額ガジェットを承認したのはこのためかと気づきチャンドラは頭を抱えるが、とはいえ、ノイマンの趣味は車やバイクと言った乗り物か筋トレぐらいなので、乗り物を要求されないだけまだマシかと、しぶしぶ了承した。

    「足元見やがって…」
    『なにか言ったか?』
    「イイエーナニモー」
    『まあまあ。加減はするから』
    「一番信用ならない言葉だぞ、それ」
    『さすがに高くなりすぎたら自分でも出すさ』
    「それはそれで複雑だわ…」

    なんて、肩を並べて喋っている時と変わらない心地よいテンポで進むノイマンとの軽口を楽しんでいると、終わりの時間が近付いていて。

    「そろそろいい時間だし、明日もあるから切るわ。祝ってくれてありがとうな」
    『ああ。また帰ってきたらトノムラとパル誘って飯行くぞ』
    「おうよ。楽しみにしてるわ。んじゃ、おやすみ」
    『おやすみ』

    通信を終えたチャンドラはそのまま端末ごとシャットダウンさせると、座り続けて凝り固まった体を解しながらベッドへ移動した。部屋の明かりを落とし、外したサングラスを所定の位置へ避難させて横になると、脳裏を駆け巡るのは今日一日の出来事で。そろそろ三十路近くなってきて年々自分の誕生日などどうでもよくなってきているというのに、それでもやはり、祝われるのはむず痒い気持ちもあるが、嬉しいもので。チャンドラは胸に溢れるあたたかい気持ちを噛み締めながら瞼を閉じた。

    ***

    翌日、起床したチャンドラが眠たい目を擦りながらプライベートの端末を確認すると、ラミアスとフラガ連名のメッセージを筆頭に、トノムラやパル、サイ、ミリアリア、おまけにキラからも誕生日を祝う旨のメッセージやボイスが残されていて。
    堪らず、「なんだよみんな、暇なわけぇ?」と笑みが溢れてしまったのは、チャンドラだけの秘密である。


    おわり

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