さくらのころ 足元におちていた木の影が揺らぐのをみて、高杉はうつむけていた顔を上げた。薄雲のかかった淡い色の空を背景に、うす桃色の花びらが舞っている。風に巻き上げられたそれらは、つい先ほど箒で掃いたばかりの地面にひらひらと着地する。花びらの行く先を見届けた高杉は思わず、整ったかたちの眉を寄せて、息を吐いた。キリがないな、と思う。あと数刻もすれば、掃いたあとなど見る影もなく、ちいさなうす桃色で埋めつくされてしまうのだろう。真面目にやっているのが馬鹿らしくなってしまう。
一緒に庭掃除の当番をまかされていたはずの白い少年――銀時なんて、通りがかった猫を気まぐれに追いかけて行ったきり戻ってこない。これ幸いとばかりにどこかで寝こけているに違いない。気の抜けるような、ゆるんだ寝顔をうっかり思い浮かべてしまって、ムカムカとしたものが胸に込み上げるのを感じた。
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