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    Noel_Sousaku0

    @MariaUltima1

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    Noel_Sousaku0

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    狂気山脈HO2-Aレイヴン・アダムスの相棒との話~シナリオ冒頭までの話。
    シナリオネタバレなし、相棒とどれくらいの関係性だったのか知ってもらえたらいいかなーくらいの物

    約束「レイヴン~、ねぇねぇねぇ、これ見て!」

    はしゃいだ声をあげながらレポートを書いている俺の視界に入り込んでくるよく見知った薄氷色の頭。
    そちらへちら、と視線だけ向ければノエルの藤色の目が嬉しそうに弧を描き、早く話を聞いてくれと言わんばかりに訴えかけてくる。
    こちとら明日〆切のレポートの仕上げ中だってのに困ったもんだ。

    「はいはい、今度はなんだってんだぃ」

    背中に温かく、重たいノエルを引っ付かせたままレポートをキリの良いところまで書き上げ、画面から顔を上げると
    待ってました!といわんばかりにノエルが離れる。
    そしておもむろに手に握らされたのはシンプルな意匠が施されたペンダント。
    ゴールドとシルバーのそれはしずく型で一方はオニキス、もう一方にはアクアマリンがはまっている。

    「これ、今日見つけてさ、遺髪入れなんだって!」
    「はぁ」
    「なぁに、その気のない返事ぃ~!!!」
    「いや、だってよぉ...俺、まだ死ぬ予定ねぇしなぁ」
    「僕だってないよ!」

    茶化す様にいうと頬を膨らせながらノエルが俺の頬をつねってきた。
    こいつこういう時にやることが子供なんだよな、と思うと笑みがこぼれる。
    痛い痛いなんて言いながらノエルの手を外してその意図を聞こうじゃないか。

    「ハハ、んで?これをどうしようって?」
    「お互いの髪をさ、これに入れて交換しておこうよ。僕が一緒に行けなくても僕の一部が君と一緒に居られるように。」
    「お前を置いて俺が山に行くかよ」
    「僕がレイヴンを置いて山に行くかもよ?」
    「はぁ~~~?この俺を置いていくってかぁ?」
    「置いてかないよぉ~~~!!!でも何があるかわかんないからさ...ねぇ、いいでしょ?お願いお願いお願い~!」
    「あー、もう、わかった、わかったから耳元でキャンキャン吠えるな!」
    「やったぁ~~~!!!じゃあハサミもってくるからまってて!」
    「今かよ?!」

    驚く間もなくハサミを取りに自室へ向かうノエルの背中を見送りながら手渡されたペンダント型の遺髪入れを目の前にかざす。
    つるりと艶かしく光を反射するオニキス、どうやらよく見ればその裏側には自分のイニシャルの頭文字が彫られているようだ。
    こういうの好きなら、もっと早くやっておけばよかったな。
    デスクの引き出しを開けるとそこにある丁寧にラッピングされた手のひらサイズの箱を取り出してポケットの中に無造作に突っ込むとちょうどノエルが戻ってきた。

    ◇◆◇◆◇

    それから20年以上を一緒に過ごしてきた二人。
    エベレストやK2など名だたる山々の頂に踏み入れるとき、いつもお互いが隣にいた。
    ノエルから唐突に「エベレストへの無酸素登頂がしたい!」なんて言われた時もレイヴンは文句を言いつつもついて行った。
    登山家として生計を立てるノエルと地質学者としての仕事をしているレイヴン。スケジュールの管理が面倒という理由で同居していたし
    下手したらお互いの恋人や両親よりも濃い時間を過ごしてきた自信が、絆がそこにあった。

    そんな二人の耳に狂気山脈の名が届くのは必然か、
    突如として舞い込んだ世界最高峰を塗り替えたその場所へ、共に挑めるというチャンスが舞い降りたのだ。
    第一次狂気山脈登山隊に選ばれた二人はそれはもう喜んだし綿密な準備とトレーニングを欠かさなかった。

    「前人未踏の、しかも世界最高峰に!レイヴンと挑めるなんて夢みたいだ!」
    「そうだな、楽しみすぎて熱出すなよ?」
    「わかってるよ、もう!子供じゃないんだから!」
    「ハハハ、どうだかなぁ?」

    興奮して目を輝かせるノエルに苦笑しながらなだめるレイヴンは他の登山仲間にもよくネタにされていたし、
    まさかそんな折にレイヴンがかつて世界的に大流行したコロナウィルスに罹患するとはだれも思っていなかった。
    ワクチンや投薬を受け、体調は回復したものの登山家には致命的な後遺症が残ってしまったのだ。
    ギリギリまで何とかできないか医療チームもレイヴンも頑張りはしたが最終的な判断としてはドクターストップで登頂を断念せざるを得なかった。

    「レイヴンがいかないなら、僕も行かない…」

    ドクターストップを受けた日の夜、ノエルは泣きそうな顔でレイヴンにそう零した。
    泣きたいのはこっちなんだがなぁ、と頭をかきながらレイヴンは俯きがちなノエルの薄く水の膜が張った目を見る。

    「馬鹿言ってんじゃねぇ、今俺だけじゃなくお前さんまで抜けたら登山隊に迷惑が掛かっちまうだろ」
    「それは…そうだけど…っ」
    「俺が居なきゃなんもできねぇおこちゃまだったか?ん?」
    「おこちゃまじゃない…でもレイヴンが居ないのに最高峰踏破しても意味ないよ!」

    がば、と顔を上げたノエルの目からいよいよこらえきれなかった涙がこぼれ落ちた。
    ぽたりと音を立てて落ちたそれは床に吸い込まれて少しばかり濃い色の模様を残す。
    普段穏やかな眼差しが悔しそうにゆがめられて真正面からレイヴンだけを映している。

    「いつだって隣に君がいたから僕はここまでこれたのに、なんで、大事なところで…!」
    「それは、悪い…俺の体調管理が甘かった」
    「うぅ~~~…っ」
    「ごめんな、ノエル。でもな、初踏破はお前に譲ってやるだけだ。無事に帰ってきて二回目は別ルートで俺と頂上に立ってくれよ」
    「ばかぁ~~~!!!」
    「ハハッ、語彙力小学生かよ」

    しゃくりあげながら子供のように泣くノエルの頭を抱き寄せなだめながら自分がまだあきらめたわけではないことを伝える。
    ぽこぽこと胸をたたかれるがその手に力はあまり入っていないし3,4度叩かれたあとからは胸元の服をつかむだけになった。
    生温かい湿り気が肩口に広がっているのが感じられるから、よほど悔しく感じてくれているのだろうと少しの優越感と罪悪感を感じつつ
    軽口をたたいてノエルの背を撫でる。
    たっぷり1時間近くわんわん泣いたあとようやく落ち着いてきた様子を見計らってレイヴンは言い聞かせるように話し始める。

    「このチャンスを逃したら次はいつになるかわからない。だから俺の代わりにノエルには行ってきてほしい。」
    「………うん」
    「そんで俺が悔しいって思わざるを得ないような話を聞かせてくれよ。」
    「うん」
    「それにどこに居たっていつも一緒だろ?俺の分身もちゃんと持って行けよな」
    「うん…うん…」

    頷きながらノエルがもぞもぞと胸元を握りしめる。そこにはいつかの日に交換したお互いの遺髪入れがあった。
    もちろんレイヴンの首にもノエルの遺髪入れがかかっている。
    大分落ち着いたのかそっと体を起こしたノエルはもう片方の手でレイヴンの胸元を撫でた。

    「もしも、僕が遭難したり、死んじゃっても、必ず見つけにきて」
    「おいおい、登る前から随分弱気じゃねぇか」
    「ちゃんと帰ってくるつもりでいるけど、何があるかわからないじゃん…」
    「そんなことはないと思いたいが、万が一の時は俺が見つけてやるから安心しな」
    「約束だよ、絶対に見つけてね。」

    迷子の子供の様に不安そうな表情を浮かべるノエルを安心させるように笑いながら頷いてやれば安堵したようにいつもの穏やかな表情に戻っていく。

    ◇◆◇◆◇

    目尻を赤く染めたノエルと約束をしたのが数週間前。
    その日は朝から快晴でレイヴンの過ごす地域では絶好の登山日和であった。
    願わくば登山隊も快晴無風の好天に恵まれますようにと願ったのもつかの間の事だった。

    「あ」

    ふと首が軽いことに気づけばペンダントのチェーンが切れていたのだ。
    幸いトップは服の中で留まっていたが縁起でもないことにレイヴンの背筋にヒヤリとしたものが伝う。

    「まさかな、そんなわけ…」

    Prr
    ペンダントトップを服の中から救出しているとデスクに置いていたスマホが鳴り出す。
    嫌な予感を感じながら着信を確認すればそれは第一登山隊チームのスタッフメンバーからだった。
    これは、きっと登頂成功の知らせだ、きっとそうに違いない。
    俄かに震える指先で着信を取れば、深刻な声が耳をうった。

    「レイヴン、落ち着いて聞いてくれ…第一次登山隊からの連絡が途絶えた。」
    「………」
    「レイヴン?聞いてるか?おい、レイヴン」
    「あ、あぁ…それで、どこまで行ったんだ」
    「すまない、それ以上はまだ…」
    「そうか………悪いな、言いづらい連絡をさせちまって」
    「気を落とすなよレイヴン。俺たちの世界にはあることだ…覚悟はしてただろう?」
    「………悪い、また、連絡する」

    しばらく何も手につかなかった。覚悟はしていた。いつだって死ぬかもしれないと思っていた。
    ただ漠然とお互いに死ぬときはお互いの目のあるところでと思っていたせいであまりにも現実味がなかった。
    ぼんやりと日々を無為に過ごす中、レイヴンの耳に第二次登山隊発足の話が舞い込んできた。
    このチャンスを逃すわけにはいかない、そう思ったレイヴンはいてもたってもいられずにそれに申し込んでいた。
    そしてつかみ取った狂気山脈へのチケット。
    たとえそれが片道限りのチケットだとしてもレイヴンはすがるしかなかった。
    あの漆黒の山脈のどこかで眠る相棒を探しに行く。約束は守らなければならない。

    「レイヴン・アダムスだ。アメリカ出身、エベレストには何度か登頂してらぁ。よろしくな!」

    その目には世界最高峰へ挑む闘志とほんのわずかな狂気が孕んでいた。
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