シェアハウスに置かれた共用のテーブルで規則正しく揺れる背中を見つけたのは、昼下がりだった。窓から射し込む柔らかな陽光に照らされてキラキラと輝く銀糸はとても綺麗だ。「那由多。」そっと呼ぶが起きる気配はない。また徹夜をしたのだろう。思いの外柔らかい髪に触れながら那由多が次に作る曲に思いを馳せる。彼と巡り会えただけで世界はこんなにも輝くらしい。
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彼の紡ぐ音は精巧な模型のように完璧なものだ。幾度となく叱咤され奏でた音楽に自らが酔いしれる事は格段珍しいことではなかった。けれどライブの最中は無我夢中で音に別の音が交じる。壊さぬよう、昇(あが)るよう。気付いてこちらをちらりと見る事もあるけれど、これがオレなりの彼への応え方。
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