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    onionion8

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    富誕にかこつけた富Kのちょっとすけべなの。7月ぎりぎりなので投げておくけどまたしても挿入できてない。

     今月は富永の誕生日がある月だ。カレンダーを見るたびどうにもうきうきしてしまう。
     診療所でともに暮らしていた頃は、毎年当日に顔を合わせて祝えていた。朝起きてから、おはようのついでに告げるおめでとう。真夜中のちょうど日付が変わる頃、ベッドの上で乱れる息にまぎれて囁くおめでとう。八年の間にふたりはいろいろな誕生日を迎えたが、祝福はいつも触れられる距離のなかにあった。
     けれど富永がこの村を離れ実家の方へと戻ってからは、なかなかそうもいかなくなっている。院長の跡継ぎにはもう誕生日すら自由が全然ないんですよ。予定はどうかと連絡すると、富永は決まってそうボヤく。けれどなんだかんだと言いつつ仕事を優先する性分なのは分かっている。それはお互いさまだった。
     電話ならいつでもかけられる。祝うだけなら手紙やメール、あるいは電報という手段でだって確かに相手に届けられる。しかしそれではとても足りなかった。仕方がないと電話口で祝いの言葉だけを贈った日、自分でも驚くほどの飢えに襲われた。触れた肌の熱を知るからこその寂しさが、これではまるで満たされないと切なくうるさく吠えていた。
    「どうしたらいい?」
    「そんなの決まってんでしょう!」
     そうして誕生日当日は無理でもその月のどこかで会って祝うことにする。ふたりでそういうことにした。梅雨明けに生まれた男のカラッとした言葉が毎年の約束になっていた。
     富永の住むS県とはそれなりに距離がある。富永からは何度も「オレが会いに行きます」と言われている。しかし誕生日の主役はでんと構えておくべきだ。根拠はないが世間一般でもお祝いとはきっとそういうものだろう。
     電車とバスを乗り継いで、ようようたどり着いた男に「よく来たな、おめでとう」と言うのは人でなしのように思えて仕方ない。何日も泊りがけで来られるというなら話は別だがすぐに帰ってしまうのだ。富永の会いたい気持ちも優しさも、体力だって軽く見ているわけではないものの、たまの休みに無理はしないでほしかった。
    「それじゃあK、オレが指定する場所に来てもらってもいいですか」
    「台悠参の駅ではなくか?」
    「駅ではなくです。詳しくはあとでメール送りますね」
     今年はどうしようかと探りの電話をしたところ、そんな言葉が返ってきた。いつもは出掛けるにしても最寄り駅での待ち合わせからが多いため、こうした申し出はめずらしい。それでも「オレが行きます」「いいや俺が」と不毛な押し問答を繰り返すよりはずっといいので余計な疑問は飲み込んだ。ここで泉平駅でも指定されたらその時怒ってやればいい。
     そして「ココです」という簡潔な文面で届いたメールには地図のリンクがついていた。それを開いて赤いピンの立ったところを見てみると、S県の、富永の病院からは少し離れた場所だった。周辺を含め今まで行ったことはない。観光地ではなさそうなのは分かったが、逆に言えばそれくらいしか分かることが何もない。
     疑問に思いつつも断る理由もないままに、「了解した」とだけすぐに返信した。サプライズというのは祝う側が仕掛けるものだと聞いていたが、祝われる側がしてはいけないこともない。そもそも相手は富永だ。ひとりでは入りづらい店に一緒に行ってほしいだとか、たまたま見つけたいい店を紹介したいだとか、おそらくはそういう話なのだろう。
    「……富永」
    「ほら早く入りましょうよKェ」
     結論だけ言えば、富永が指定した場所は確かにひとりでは入れないところだった。ひっそりと隠れるような入り口に立って手招く男はにこやかに笑んでいる。そのそばにある看板には休憩と宿泊の文字とその金額が小洒落た感じに並んでいた。それを見て、「なんだここは」とカマトトぶれるはずもない。
    「ここね、男同士でも基本スルーなんですって」
     薄暗いフロントを通り過ぎた富永は、まだ何もしていないというのにどこか楽しそうだった。軽い足取りでホテルの奥へ進んでいく。それを追いかけ並んだ扉のなかのひとつへ踏み入ると、背後で鍵のかかる音がした。精算をしないと出られない、というタイプの部屋なのかもしれない。
    「ふふ、来ちゃいましたねぇラブホ」
    「来たかったのなら最初からそう言ってくれ」
    「でもKだって、なんの期待もせずにここまで来たんじゃないでしょう?」
     あまり見慣れないサイズのベッドに手足を伸ばして寝転びながら、富永はうっとりした目でこちらを見る。見慣れない、とは言わないが、久しぶりに目にする雄の顔。マントの内側を思わず握り込んで目を逸らす。じわりと頬が熱を持つ。
     富永が言うとおり、会いに来るのになんの期待も持たないわけがない。そういう準備も念入りにしてから家を出てきている。それはもう何もかも今さらなことではあるものの、明け透けに指摘されれば甘痒い羞恥を煽られた。
     広いはずの部屋は大きすぎるベッドのせいですっかり空間を埋められて、立っているのは不自然だというそんな錯覚に襲われる。落ち着いた内装のため下品ないやらしさは感じないが、ここはそういうことをする場所なのだと囁く魔力はずっと浴びせられていた。
     ぱち、とマントの留め具を外した音が、他人事のように耳に届く。脱いだそのままを床に落としてもよかったが、有り余る広さのベッドの端に乗せ置いた。
     富永は先ほどから何も言わない。きちんとハンガーに掛けたらどうですと気にする声も、おいでと誘う声もない。ただ視線だけが一度も逸らされずに注がれる。遠慮なく体重をかけたベッドも悲鳴をあげはしなかった。さらりと布が擦れる音。富永の身体を跨いで見下ろすと、ゆるやかに脚を撫でられた。
    「いいですよ、そのまま上に乗っちゃって」
    「……重いぞ?」
    「知ってます。それを感じたいんで……ぐぇ」
     会話の途中で姿勢を崩して身体全部でのし掛かる。フフフ、と子供のように笑い合う。またひとつ歳を重ねたはずの男はそれでも昔と変わらない。出会った頃から大人であったことに記憶違いはないものの、どこか少年めいた無邪気さが富永のなかにはずっとある。瞬く明るい目のなかに、閉じ込めた夏の陽があるかのようだった。
    「なに?」
    「いや……今日はどうしてほしいのかと思ってな」
     肘で身体を支え直して富永の顔を覗き込む。たわむ目元にゆるく皺が刻まれた。
    「わぉ。いいんですか? そんなこと言っちゃって」
    「よくなければ言うものか」
     ふにふにとやわい力で耳を抓む。富永は痛がるでもなくくすぐったそうに身をよじる。それはじゃれ合いという言葉が似合う戯れに違いないが、それだけで終われるほどふたりは無垢でも幼くもないのだった。
     されるがままでいた富永の手が背に回る。服の裾をめくったその手に素肌を撫でられ甘い痺れが背を駆けた。富永はまだ言葉では何も求めない。脱げとひと言告げてくれればそうするが、そうでないため汗の染みる感覚をじわじわと味わう他にない。
     ぴったりと肌に張りつく布の下、期待にふくれる胸の先を富永の身体に擦りつける。いじられ慣れて淫らに快楽を拾うそこ。富永はゆるく笑ったまま、はしたない仕草を許してくれている。もっと、と揺れる身体を受け入れて、甘くこぼれる吐息を楽しむようにゆっくりと指をすべらせる。
    「ぁ……っ、ん……んぅ……」
    「んふふ、かわい。久しぶりなのにKってばこんなにえっちになっちゃって」
    「は……っ、それは、久しぶりだから……っだ」
     もぞもぞと服の下をいやらしく這う手にとうとう胸をまさぐられ、欲しかった刺激にたまらなくなって身悶える。脳が快楽に染められる。尖りきった突起をくにくにと指で搾られると、そこから何かが吹き出るような気さえした。射精とは違う奇妙で淫らな感覚に、昂ぶる身体が熱くなる。
    「うぅん、でもここまで感じやすいのは、Kがひとりの時もいっぱいいじってあげてるからでしょう?」
     言いながら、富永の手は胸部を大きく露出させてきた。下からめくられたシャツが筋肉のふくらみに引っかかる。わずらわしさも苦しさも、興奮の前では些細なものだった。
    「ぅ……っ言う、な……」
     はぁはぁと乱れた吐息が言葉を無意味なものにする。見下ろす胸の頂きは、ぷっくりと腫れて次の愛撫を待っている。強く力任せにつねられるのも気持ちいいが、優しく撫でられるのも気持ちいい。いつもそうしているから知っている。
     富永はどんな風にしてくれたかを思い出し、あるいは富永にどうされたいかを妄想しながら自らの手で慰める。性器ではないのにという戸惑う声はすでになく、布地に擦れる感覚にすらうずうずと快楽を得てしまう。そんな夜が何度あったか分からない。富永の目はそのすべて見てきたのだと言わんばかりに満足そうに瞬いた。
    「どうして? オレはKがえっちなことしてるって話ならいくらでも聞きたいですけどね」
     するりと腰に手が伸びる。そのまま尻を撫でられて、身体の奥に新たに熱を灯された。そちらの準備をしてきたことも、準備を越えて快楽に溺れかけたことも、富永にはすっかり分かっているのだろう。恥ずかしい、けれどそれだけではない神経を嬲る興奮に、返事も忘れわけも分からず首を振った。ぱさぱさと揺れ動く髪が頬を打つ。
    「嫌? それじゃ、オレがKのこと考えてひとりでしてる時の話、聞きますか?」
    「む……」
     富永はへらりと笑うとのそりと身体を起こしてきた。こういう時の軽口は、どう返すべきか迷ううちに流される。言葉が脳で処理される頃にはベッドに背中が沈んでいた。押し倒されて、見上げる富永に乱れた髪を直される。
    「うそうそ。そんなことより今日はほら、お互いひとりじゃできないことをたっぷりしたいですからね」
    「あ……っ、とみ、っはぁ……ん」
     ぐり、と押しつけられた下半身はすでに熱くてかたかった。これを富永が自ら扱く夜もあると、先ほどの言葉が今さらぐるぐる回り出す。けれど震える唇は名を呼ぶことすらできないまま、ふいに甘く吸われた乳首に喘ぐことしかできなかった。絡みつく舌のぬめった熱さに快感がずくりと腰を重くする。
    「んぅ……っあ、ぁん……っ」
    「あは、Kぇ、だめですよぉ? オレ以外にそんな顔見せちゃ」
     開いた脚は男を誘う以外にどんな意味もない格好で、羞恥と期待が揺らす天秤は瞬く間もなく傾いた。富永の身体を間に迎え入れ、両腕を背に回す。下衣の金具がかすかな音を立てて外される。脱がされる時の丁寧な手つきがもどかしく、「もっと乱暴にしてくれていい」と言えば変な顔をされた。
     富永は「別にお姫さま扱いしてるわけじゃないですよ」とだけ言って脱がせた服と脱ぎ捨てた服を散らしていく。広いベッドはそれさえきっちり受け止めた。何ひとつ床に落としたものはなく、ぐしゃぐしゃに丸めたものもない。
     素肌に触れる清潔な布はほのかに花の香りがする。これから汗と精液とで消されるだろうその甘い香りを吸い込んで、それから富永の首筋に顔を埋めた。しっかりとした男の体臭にこそ酔わされる。ちろりと舌を這わせると、すぐにお返しを寄越された。
    「ふ、っくく……」
     触れる肌。歯を立てないよう吸い痕だけを残す唇。自分とは違う体温が、ゆっくり溶けて混ざっていく。そのひとつひとつが何だか無性に楽しくて、笑っているとちゅっと口づけを落とされた。
    「Kがそういう顔で笑うのも、俺の前だけにしといてくださいね」
    「ああ……いや、そういう顔と言われてもどういう顔なのか自分ではよく分からんな」
    「じゃあ鏡の前でしましょうか。それか撮影でもしてみます?」
     見下ろしてくる瞳の熱とは裏腹に、口調はあくまで冗談めいている。富永がどこまで本気で言っているかは知らないが、そういう趣向はどこからが特殊と言うのだろうかと考える。
     人によってはわざわざそのためだけのホテルに来るのを奇異だと思うのかもしれず、あるいは自宅兼診療所の一室で肌を重ねる行為の方こそ不道徳だと眉をひそめるかもしれない。
     普通とそうでないことの境界はひどく曖昧だ。富永との関係がそもそも特殊だとも言える。同性だからという意味でなく、あの吹雪の出会いから今があるのを時おり夢のように思う。
    「……いいぞ」
     つなぎ止めるための嘘ではない。そんなつもりで抱かれたことは一度もない。許したことは何もない。ただ、富永の目に映る自分がどんな姿か見たい気がしてそう言った。
     ホテルの部屋は閉じていて、世界は今やベッドの上にだけ乗っている。そんなところですることは、ただふたりの同意があれば何でも成立してしまう。それは富永も分かっているだろう。ここでのことは、ほとんどが「好きにしてくれていい」になる。今日はそういう日でもある。
    「それが誕生日プレゼント?」
     もう一度口づけが落ちてきて、富永はリボンのついた箱を手にした子供の顔をした。今すぐにでもリボンを解きたいというその顔で、裸の胸を撫でられる。向けられるのが鏡かカメラか知らないが、ぞくりと走る甘い疼きに息を吐いた。見上げた富永の目に淡い夏色が瞬いた。
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    onionion8

    DOODLE今さらまた一人先生の誕生日ネタにたぬきを添えた胡乱な話。富Kのつもりで書いてはいるけどCP要素はあんまりない。
     実家に戻った富永は、忙しいなかでの眠りのうちによく夢を見るようになった。それは今さら国試に落ちる夢ではなく、どこか異世界を旅するような夢でもない。何度も繰り返し見る夢は、懐かしい、T村で過ごした日々だった。吹雪と血。違法な医療行為と警察沙汰。はじまりは凄惨なものであったのに、気がつけば穏やかな暮らしがそこにあった。
     同居を許された診療所。同居人となったその主。起きている時にも時おり思い出しはするが、夢ではいっそう鮮やかに、あの頃のKが目の前に現れる。それは白衣姿であることも、マント姿のこともあるが、そのどちらでもなく、くつろいだ部屋着であることも多い。
     富永がKとともに過ごした八年間を振り返ると、やはり医者としての姿が浮かぶので、不思議といえば不思議だった。どうしてこうも、何でもない日の何者でもない彼を夢に見るのだろう。まだ預かった子も昔の執事も看護師だっていない頃、ふたりきりだった診療所。寝起きのKがぺたぺたと、スリッパを鳴らして歩く姿。あるいは風呂から上がって出てきたKが、濡れた髪をタオルで巻いている姿。
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