午後の日差しはやわらかく、開け放った窓にカーテンが揺れている。診療所は開店休業状態で、のどかな時間が過ぎていく。富永は開いていた医学書を閉じ、伸びをした。どこからか鳥の鳴く声が聞こえてくる。パソコンのキーを叩く音は聞こえない。
診察机を振り返ると、白衣の背中が目に入る。何をしているかは分からないが、休憩を取るにはちょうどいい時間だった。コーヒーでも淹れましょうかと声をかける。ついでに何かお菓子でもあればと席を立ちながら考えた。コーヒーに合うかどうかはさておいて、煎餅くらいはあるだろう。それなら淹れるのは別に緑茶にしてもいい。
「Kェ?」
返事のない背に首をかしげ、富永はひとまずそちらに足を向ける。診察室は開放的で広い空間ではあるものの、ほんの数歩で触れられる距離までたどり着く。そよそよと吹きすぎる風が髪を揺らし、机の上の紙をぺらぺらとめくっていく。
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