終煙怪奇譚:「息する仮晶」.
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「じゃあ、大人しくここでまっているのよ」
吐かれた息は白く広がりついには消えた。
赤い背は遠ざかっていき、その人にいつも纏わり付いていた強い匂いがそれに付いて消えていく。
自分に向かって誰かがそう言っていたのだ。
✤ ✤ ✤
屋根の下で、細く白い手を空に透かしては微かに白い息を天へ投げ、見上げていた視線をまた地に落とす。……クラリと頭が揺れた時、何かが視界の端に映り込んだ。
もふもふとした何かが目の前を通る。もふもふとした白くてまん丸い毛玉達だ。ちょこんと目のような粒も見える。
それはぴょんぴょんと跳ねてはピタリと止まり、止まった場所で次々にぶつかり合ってはひっついて、むきゅむきゅとおしくらまんじゅうをしだす。そして暫くすると一匹一匹と塵じりになっていき、やがてまた戻ってきては同じことを繰り返していた。
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