Wisteria(4)「Wisteria」について異種姦を含む人外×人のBL作品。
世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。
R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。
※ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいですが脳内で保管して頂けると助かります。もし今後、ポイピクの方で綺麗に表示される様に成りましたら修正していこうと思います。
【項目 WisteriaⅠ】
「桜雲と春爛漫」
閑話1 「春眠、春愁を覚える」
閑話2 「夏隣、君の隣で」
「桜雲と春爛漫」
春を迎え、桜が咲き誇る季節。
外は良く晴れて気温もほど良く、居心地の良い空気に昼寝をするには絶好の日だった。特に麓まで行く用事も無く、偶にはのんびりと寛ごうと思い至った所へ、天気が良いからと洗濯物を干しに行っていた藤が戻って来た。
「一緒に昼寝でもするか? 藤。用も無いしのんびりしてもいいだろう」
立ち上がり寛ぐ為、蛇に姿を変わろうとする。だが、それを阻む様に裾をぎゅっと掴まれた。
「今日、お休み? 麓まで下りないの……?」
「ああ、何も予定はないな」
それを聞くと一瞬目を輝かせる。だが、途端にまごまごと何か言いづらそうにしていた。
「どうした? 頼み事でもあるのか?」
「……うん」
「遠慮せず頼めば好い。必要な物でもあるのか? 麓まで行くぞ?」
「あのね」
❖ ❖ ❖
初めて桜を見たから、一緒にお花見がしたい。
そんな事を言われるとは思わなかったが、藤らしいとも思う。承諾した後は嬉しそうに厨に向かっていた。
「桜は花弁が散るのが早いって書いてあったから、一緒に見れないかと思った」
「咲いた時にでも言い出せば良かったろう」
庭で咲き誇る満開の桜の下に敷物を敷き、持ってきていた物を置く。準備が整うと共に其処へと座り込んだ。そろそろ散り時なのか、絶えず花弁が天から降り注ぐ。
「朽名忙しそうだし……せっかく休むのにわがまま言いたくない」
この少年が強請る事や甘える事に慣れていないのは疾うに知っている。だが、もっと強請って来ても良いだろうと日頃から思っていた。……正直、神頼みされるよりも藤のお願いを聞いて居たいくらいだ。
「お前はもっと甘える事を覚えるべきだな」
隣に座る藤の頭をわしわしと撫でると困惑した顔を向けられた。
「他に何かして欲しい事は無いのか?」
「え…? えっと……」
「うーん」と考えてみるがこれといって思い浮かばない。
「あっ! 一緒に…お弁当食べる……?」
持ってきていた包みを開け、蓋を開けると朽名へと差し出す。意図した方向とは違ったお願いに微笑しながら、御菜やおにぎりが詰められた箱に手を伸ばした。
「料理、上手くなったな」
「本当?」
「ああ、美味い。卵焼きはふんわりとしていて、煮物の味付も丁度良い」
褒められたのが嬉しかったのか、藤の表情がふわりと変わる。自分もと煮物を一口運んだ。
「竹の子はね、昨日下処理して煮ておいたんだ。しゃきっとしていて美味しいね」
「一昨日だったかに沢山取れたと渡された奴だな」
「うん、まだ沢山あるよ」
藤は再び一口運ぶと、次は何を作ろうかと楽しそうにしている。そんな姿を眺めていたが、ふとある事に気づく。何時も共に居たからか、その変化に鈍くなっていた。
「少し背が伸びたか? 藤」
「え?」
「始めに会った時よりも背が伸びている気がするぞ」
「ほんと!?」
自分の姿を確認しようと嬉しそうに立ち上がり、自身の姿をきょろきょろと見回すと朽名の方へ振り向く。
「ねぇ、朽名より背伸びるかな?」
わくわくと弾んだ声でそう聞いてきた。
「さぁ、どうだろうな……藤位の年ならば可能性はあるだろう」
そして意地悪そうににやりと笑うと言葉を続けた。
「だが、小さい藤がひょこひょこ動いているのも小動物みたいで愛らしいと思うぞ、腕の中での収まりもい――」
「絶対朽名より高くなる!」
朽名の言葉を遮って宣言し、決意を固めた藤にふっと笑みを零す。
「楽しみに待っているよ」
将来の藤を描き、明日を迎えるのがまた一つ楽しみになる。自分の横へ座る藤に合わせ、宙を舞う花弁がつられ揺れた。
「桜、綺麗だね」
「……私は藤が好きだな」
「あっ藤の花も綺麗だよね!」
(お前の事を言ったんだがな……)
顔を赤く染めるかと予想もしたが、まぁそうなるかと苦笑し、箱の中から一つおにぎりを手に取った。
(一瞬俺のことかと思った……ちゃんと返事できた……よね?)
胸の奥が騒がしい。なおも治まらない心音から目を逸らす為、同じくおにぎりを手に取り口に含んだ。
❖ ❖ ❖
ぽかぽかと暖かい春の日差しが藤達を照らす。
美味しいものを食べ、暖かさが齎す眠気で藤がうとうとし始めた。
「また……来年もお花見したいな」
「お願いか?」
「うん」
眠たそうにしながら藤が頷く。お願いを聞き届けると眠たそうな藤の為、ふわりと蛇へと姿を変える。
「眠いなら此処に頭を乗せて良いぞ」
鼻先で胴を示唆し、ずるりと引きすると藤へ寄せる。
「え……重いよ?」
「お前の重さは重いの内に入らん。大丈夫だから遠慮をするな」
暫く躊躇っていたが、やがてそっと頭を預ける。
身を横たえ、目の前に映る景色はまるで桜の雲の中に自分達が居る様だった。
(雲の中に沈んでるみたい……綺麗)
ぼーっと景色を瞳に映していたが、眠気が勝ったのか静かに瞼を閉じ意識を手放した。
降り注ぐ花弁が藤の頬を撫で落ち、降り積もっていく。
来年もとは言わずに何時までも。花のように咲き、光り輝くその明るさを、この先も見続けていきたい。
藤の眠りを確認した蛇は布団がわりに半透明の体を藤に沈み掛けると、降り継ぐ雨の中で自分も共に眠り始めていく。
閑話1 「春眠、春愁を覚える」
『朽名』
『どうした?』
『これなんて読むんだろう?』
藤を見やった目の前の人物に、共に持ってきた本を広げ見せると、細い指先で文字を指さした。
『ああ、春愁だな。今くらいの季節に、ふと気持ちが沈む事だな』
『沈む……寂しくなるの?』
『ああ』
『暖かくて元気が出そうな季節なのに、なんで寂しくなるんだろう』
『さぁ、なぜだろうな。私には分からん。……だが、寒い場所から暖かい場所へ来た方がより暖かく感じるだろう? 次に訪れる喜びをより良く迎い入れる為、ふとした時に寂しさを感じてしまうのかもな』
『嬉しいことが起こる予兆みたい……?』
『そうだと良いな。その方が余計に心が沈む事も無いだろう?』
❖ ❖ ❖
(……あの時の言葉って、こんな気持ちを言うのかな?)
春の匂いを感じながら、蕾を開かせ始めた庭の桜を窓から見やる。
〝にゃー〟
自分の傍から鳴き声が聞こえる。下方を見ると白くてふわふわな子猫が藤を見上げていた。
「どうしたの?」
ふわふわな毛並みを優しく撫でながら語り掛ける。
「……もうすぐ君とお別れだね」
寂しそうな藤に声を掛けられた子猫はまた、〝にゃー〟と返事をする。
その子が来たのは少し前の事だった。
降り積もった雪が解け、蕗の薹や土筆が顔を覗かせ始めた時期。藤は芽吹き始めた草花を見ながら庭を見渡し、散歩をしていた。
持ってきていた野花の図鑑と睨めっこしながら庭の隅を歩いていたその時、低木の向こうから弱々しく〝にー〟っと小さく声が聞こえた気がした。葉をかき分け、その場所を覗き込む。視界の先には泥で汚れ、衰弱した小さな獣が蹲っていた。
本から知識を借りながら、温かな部屋で体の汚れを拭き、子猫に合わせて作ったミルクを飲ませたら、落ち着いたのか今は用意した柔らかなタオルの上で眠りに就いていた。そして翌日からは徐々に回復していき、藤は胸を撫で下ろす。親と逸れたらしい子猫を、最初は此処に置く事も考えた。だが――
「大丈夫だよ、おいで?」
子猫は朽名が近づくと驚いて家具の隙間へ逃げ込み、出てこなくなってしまった。
「本能的に蛇を感じ取っているんだろうな」
「猫って蛇が苦手なの?」
「ああ。蛇を襲う者も居るが、嫌う者も居るな。しかも私はただの蛇ではないから余計に警戒しているのだろう」
「そうなんだ……どうしよう」
「ふむ」
今もなお、出てこようとはしない子猫を見る。そして口を開くと一つの提案を藤に伝えた。
「私が麓で里親を見つけて来よう。このまま此処に置いても負担を掛けるだけだからな。私はそれまで近づかない様にすればいい」
「いいの?」
「お前が願うならな」
不安に曇り始めていた藤の表情が、朽名の言葉を聞き安堵に変わる。
「うん、お願い朽名。この子を保護してくれる人を探して」
「ああ、安心しろ藤。直ぐに見つけて来てやろう」
「ありがとう」
何時もの様に藤の頭を撫で、「さて」と呟く。
「藤は暫く彼奴と何時もの通り眠ると良い。私は此処で寝よう」
「え?」
「私には近づいて来ようとしないからな。此処に置き去るよりも、お前と居た方が良いだろう」
「……わかった」
❖ ❖ ❖
あれから数週間が経った。
子猫の里親も無事に見つかり、別れは明日と迫っていた。相変わらず朽名には近寄ろうとはせず、基本的には藤が子猫のお世話をしている。
膝に乗って来た子猫の背を撫でながら、再び外の景色に目を移す。
(お花見……してみたいな)
冬木は咲き始めた花で僅かに色づき始めている。咲き乱れる桜の下で、お弁当を持って朽名とお花見がしてみたいと考えていた。だが、忙しそうな様子や里親探しのお願いを前に、中々言い出せずに今もいる。
(寂しい……のかな?)
何時も一緒に眠っていた蛇が、朝起きると隣には居ない。そんな些細な事が何故だか藤に寂しさを与える。そして朝目覚めて、子猫に挨拶をするごとに別れが近づいている事を自覚していく。藤にとって、此処に来てから初めて迎える親しい者との別れだった。
藤の寂しそうな表情を感じ取ったのか、〝にー〟っと子猫が藤に向かい鳴く。
「大丈夫。きっと優しい人の所へ行けるよ。朽名が見つけ出したんだもん」
子猫を抱え、鼻を擦り合わせるとまた一つ子猫は〝にゃー〟と鳴く。そして共に寝転がると、ふわりと暖かい背を撫でながらうとうとと藤は眠りに就いた。
猫が警戒し、目の前の蛇に小さく唸ると身を屈める。直ぐ傍では藤が静かに寝息を立てて眠っていた。
「……すまんな。そのままだと藤が風邪を引く。運ぶから退いてくれ」
蛇が声を掛けると猫の動きが静かに止まり、やがてそっと藤から離れると一つ小さく声を上げる。譲られた蛇は子猫の返事に微笑しながら、藤を抱えるとその部屋を後にした。
「……あれ?」
「起きたか?」
「俺、ここに居た……?」
目を覚ますと隣には朽名が座っている。藤が不思議そうに辺りを見渡すと、そこは猫と過ごしていた部屋でなく、何時も眠りに就いている寝室だった。
「まだ肌寒いからな。風邪を引かぬよう此処まで運んだ」
「ありがとう。朽名」
納得して頷くとお礼を告げる。ふと小さな存在に思い至り、目の前の人物に尋ねた。
「あの子は?」
「其処に居るぞ」
朽名が示すと部屋の隅に置いてある籠の中で、子猫は小さく丸まり眠っていた。静かに眠って居る姿に安堵しつつ朽名を見る。
「仲良しになったの?」
「さあな。少なくともお前を運ぶ時には警戒していたぞ」
「そっか。でも、来た時よりも落ち着いてるみたい」
子猫の様子に笑みを浮かべるが、その笑顔はどこか寂しそうでもある。夜が明けたら愛らしい子猫とはお別れだ。僅かな時間だが子猫と過ごした時間は楽しく、愛おしいものだった。
「寂しいか?」
「うん」
子猫との別れが寂しい。けれどその寂しさは別れだけではない。
「それに、朝起きたら朽名が居なかったのも寂しかったよ」
言葉を向けられた人物は驚き目を見開く。その顔が可笑しくてくすくすと藤が笑う。だが、突然自分の身が後ろへと倒れ、ぽふりと寝具に体を沈めた。
「え……? えっ、朽名……?」
小さな身を倒し、朽名が覆い被さっている。被せる身を蛇へと変えると、藤の口元をちろりと舐めた。
「今度はちゃんと傍に居てやるからな」
その顔がにこりと笑っているみたいで……。何を企んでいるか察した藤は、慌てて抗議の声を上げた。
「あ、あの子いるからだめっ」
「必要なら〝境〟を張る」
「明日お別れだし、早く起きたいから今日はだめっ!」
ピタリと蛇の動きが止まる。獲物を見つめる様な目で藤を見たまま――
「……明日、覚悟していろよ」
そう告げると藤の傍で伏る。蛇が放った言葉に藤の体はビクッと揺れた。
「元気でね」
籠の中で丸まる猫へ別れを告げる。〝にゃー〟と鳴く子猫を見て、藤は寂しそうに笑った。
「大丈夫か?」
「うん、だいじょ――」
心配した朽名に返事をした時だった。
子猫に別れを告げる為に身を屈めていた藤の口に、突然背を伸ばし、顔を近づけた子猫の口がぴとりと触れる。小さなキスを落とした張本人は、〝にゃあ〟と嬉しそうに鳴いていた。子猫が身を引っ込めた籠をぱたりと朽名が静かに閉じる。その顔は引きつっていた。
「……行ってくる」
❖ ❖ ❖
温度も、感覚も。心地が良くて起きたくない。
……それに何時も以上に体が痛い気がする。何時もなら目の前で眠って居る蛇が和らげてくれるが、藤が目を覚ました今も目を覚ます気配はなく、この暖かさに平伏しているのは藤だけではないみたいだ。
蛇の鼻先にそっと触れる。
(朽名がいるんだ……)
朝起きて、目の前に蛇が居るのは久しぶりで、見慣れた光景にまた暖かさを感じ、藤は静かに目を閉じる。
また「おはよう」を言うために。
閑話2 「夏隣、君の隣で」
「……寝過ごした」
窓から差す光に起こされ目を覚ます。
ゆっくりと起き上がり、目の前に映し出された自身の体を眺める。昨夜の情事で付いた痕や、半透明な蛇の体を肌に沈ませた事でそれが転写された様に肌へ痕を残していた。それに加え、ぬるりと後孔から流れ出る液の感覚に藤が小さく呻く。赤い頬を携えて羞恥に堪える為に一つ息を吐いた。
すると隣で何かが動く気配がする。その場所を確認したくて体を動かした時だった。腰や背、脚に痛みが走りまた小さく呻く。目で隣を見ると、陽の光から逃れようとしてもぞりと体を動かし、触り心地の良い掛け布団へ潜ろうとしている蛇を見つけた。
「朽名、朝だよ」
朝と言うよりは昼に近いかもしれないが、一応声を掛けてみる。だが返事も無く、気温が程良いのかそこから出てはこなかった。
ゆっくりと近づき、布団からはみ出ている胴をそっと撫でてから唇で軽く触れると、その場所に顏を伏せて静かに瞼を閉じる。陽の温度を溜め込んだのか、白く鱗に覆われたそこは暖かかった。
(落ち着く……)
そうして意識を手放しかけたその時だった。ふいに視線を感じ、ぱちりと目を開け顔を上げる。向こうから顔を持ち上げ近づき、自分に枕代わりにされている蛇の大きな顔がすぐ傍にあった。
「お、起きてたなら……声かけてよ……」
蛇の不意打ちに藤は顔を更に赤くしていく。藤の驚いた表情を確認すると、ふっと笑った様に見える。鼻先で藤の頬を撫でていくと、再び寝具へ伏せた。
「起きなくていいの?」
「偶には自堕落に過ごすのも大事だぞ」
そんな事を言うと再び布団に潜り込んでいった。
「……布団の中に棲む蛇」
蛇がその長い胴を引きずると、布団の上からでも中で何かが動いているのが分かる。頭があるらしい場所が藤の方へ移動し、にゅるりと布団から這い出てきた。
「お前も入るか?」
布団ごと頭が持ち上げられると、洞窟の入り口の様にぽっかりと空間が出来る。くすくすと笑いながら藤もそれに付き合う事にした。
「蛇って色んな所に棲むんだね」
「そうだな。私の様に地を這う者も居れば、土の中に棲む者も居る。水や海の中に潜む者も居るな」
「海……水がしょっぱいんじゃなかったっけ……?」
「ああ、舐めると塩辛いな。だが、平気そうに泳いでいたぞ」
「見たことあるの?」
「ああ。里近くの海岸に打ち上げられているのを戻した事がある」
「目にしみないのかな?」
そう呟くと楽しそうに藤が笑う。
「広い海の向こうの、俺が行ったこともないような遠い土地にも、たくさんの人が住んでるんだよね」
「……見に行きたいか?」
「うーん……」
もう数か月もすれば、ここに来て一年になるのだろうか……夏はすぐ隣に座っている。
この場所に来る前も今も、自分はそんな遠い地を知らないし、見た事も無い。もしそんな遠くへ行く事があるならば、それは自分一人で此処を出て行く時か、この土地の神様である朽名が、その土地神を辞めて出て行く時だろう。
(神様を辞めて見知らぬ土地へ一緒に行こうなんて言えない。それに……遠くに行きたいんじゃなくて、この目の前の神様と一緒に居たいだけなんだ)
来年も、これからも。朽名と居れるならこの場所から出られなくても構わない。
「朽名と一緒なら見てみたい。けど、そうじゃないなら……俺はいいや」
そう告げてから、急に自分が恥ずかしい事を言ってしまった様な気がして、段々と自身の熱が上がっていく。布団の中で密着しているから尚更だ。
「んっ」
突然、蛇の鼻先をぴとりと口に当てられ、そしてすりすりと頬ずりをされていた。やがて擦り合わされていた頬もそっと離れて行く。それが何だか寂しさを感じさせて、お返しとばかりに蛇の頬を取ると自分から鼻先に唇をつけた。そして赤らめた顔で蛇から視線を外す。
「……気をつけろよ、藤」
「え?」
「蛇の姿の私は理性を手放し易いからな」
白く、鱗に覆われた体が半透明に透けていく。身を起こし、藤に巻き付いていくとずずっと半透明な胴体が体に沈み込む。
「ぁっ――」
ずるりと動かされる度にその刺激が過敏なままの藤の肌から伝わり、与えられる感覚に身を震わせる。消えきらずに残っていた痕の上から、新しく痕を付けられていく。脚の狭間に尾が回され、ずりずりと膨らみに刺激が加わる。暫くしてその先端は蛇の動きによって涙を流し始めた。
「ぅっ…ん」
涙目で蛇に縋りつく。
止めたいのに……暖かくて、そして気持ち良くて頭が蕩けそうだった。藤の肌蹴た服を鼻先で押しのけ、顕わになった小さな突起を長い舌先でちろりと舐める。
「あ、まって……ゃっ」
パクリと口に含むと狭間の動きに合わせて愛撫し始めた。
「あ、っ…ぁ……」
ふるふると体が震え、背が反れていく。擦られていく鱗と肌の間で生まれたぬちゅぬちゅという音が、狭い空間内に響いた。すると、蛇は動きを止めないまま胸から口を離し、息も絶え絶えな藤に話し掛ける。
「こうして狭い場所だとお前の匂いをよく感じるな」
「っ――」
真っ赤になっている藤の耳をちろりと舐める。
その行為にすらぴくりと反応してしまう藤に、蛇は更に高揚を増して、今度は唇を舐め掠めていく。
「ん、…ぁ……におい……?」
「甘い匂いがな。私にも染みついてしまいそうな程に漂っているぞ」
小さく息を漏らしながら言葉を聞いていた藤は、間近で熱の籠る瞳で見つめてくる蛇の鼻先を、そっと手を伸ばして自身へと寄せる。
「くちなのにおい……わからないや……」
自分には朽名の匂いすら感じ取れず、しょんぼりとする。自身を感じようとしてくれたのが嬉しくて、ゆるゆると摩っていたその場所の力を思わず強めてしまった。途端、藤が深く喘ぐ。
そしてふと、そうしたらどうなるかと思い至り蛇が口を開く。
「……一つな、試してみたい事があってだな」
「……え?」
「この姿ならばよりお前の匂いを感じるのではないかと思ってな」
「まって…なにするの……?」
「大丈夫だ、毒も牙も持ってはいない。私は毒蛇ではないからな」
途切れる事が無い蛇の語りに、嫌な予感が藤の中を過っていった。
❖ ❖ ❖
「なんで…っ、こんなこと――っ」
「蛇はな、舌で匂いを感じ取るんだ……まぁ、正確には上顎にある器官を使うんだがな」
獲物を定める様に、けれど理性が消えかけているとろんと細めた瞳で藤を捕らえ、抑え込む。
「っ、やっ…ァ……」
蛇がかぷりと藤を甘噛みする。
噛んでいるそこはうつ伏せ、腰を上げた藤の下半身だった。チロチロと脚の狭間で揺れる膨らみを撫でる。端から漏れ出てきた液を細い舌で絡め取り始めた。
「うぅ…ばかぁ……くちなのへんたいっ」
あむあむと腰や太腿を食まれる。羞恥と感触に苛まれた藤は涙目で蛇を罵っているが、当人には全く効いて居らず、理性の飛んだ蛇からしたら愛らしい囀りにしか聞こえていなかった。
「ひゃっ?!」
するすると藤の性器を撫でていく。
漏れ出てくる液体を舐めとってはまた藤の先端へ舌を絡める。もっと藤を味わいたくて今度は先端の割れ目を舌先で弄りだす。それに応える様に液が溢れて来た。
ぬちぬちと動かし続けると連続して甘い淫声が聞こえくる。やがてかくんと脚が揺れたのを合図に、屹立から舌が離れていき、藤は一息ついた。
――と、その時、唐突に後孔へと舌を押し当てられ、昨夜から解れたままのその口が難なく舌を飲み込んでいく。
「ひっ! ぁ…や、だ…め……いれちゃ、ゃぁ……」
普段挿入するものよりは細いからか、ぬるぬると中に入り込んでいく。だが、普段よりは容易くも確かに存在を感じさせ、中を擦りながら進んでいる。そうして長い舌が奥へと辿りついた時だった。
「あぁっ!!」
ちゅるりと勢いよく抜かれ、その勢いの途中で藤の弱い所を掠め擦られていく。再び進入を許された舌を波打たせると、内壁を叩きながら中で暴れまわり、それにつられ藤が声を漏らした。
「ん、ふっ……、ぅう…っ…ぁっ、あ――」
何度も出し入れされる舌が藤を苛む。抑えきれず口から漏れる色のある声は、弄ぶ蛇の理性を深く削って盗んでいき、抽挿を加速させる材料になる。
「も、…だ、め……、っんん」
布団で出来た洞窟内は、上がっていく藤の熱で溢れ、肌を滑る汗は僅かに差し込む光で照っていた。快楽から逃れようと藤の腰が揺れる。それが逃げ出さない様に顎でぐっと固定され、そして
「っ…゛ああっ――…」
ずりっと強くそこを通過しながら最奥を刺激した時、藤は自身から白く濁る液を吹き出す。飛び出した液は柔らかな寝具を汚し濡らした。
藤を十分に堪能したのか蛇が満足そうに起き上がり、チロチロと舌を出した。
戯れから解放された藤が、荒げた息のまま寝具に沈み込む。その小さな身体の下に胴を滑り込ませて持ち上げると、抱える様に巻き付いた。疲れと衝撃で呆然とし、力尽きている藤の頬を撫でる。ついでに瞳の端から落ちそうな涙の粒を舐め取った。
「あたま…おかしくなりそう……」
「今度はここに入れてみるか? 体の大きさを変えれば入るぞ」
尻尾の先で、ふにっと藤の鈴口をなぞり上げる。本当に実行しそうで藤は思い切り頭を横に振った。
そんな中、自分達しか居ない筈の狭い空間に、突然どこからか「ぐうっ」と大きな音が聞こえてくる。その音の正体に気がついた藤は顔を真っ赤にした。
「腹が減ったか? 私が何か作ってやろう……ああ、その前に風呂へ行くか?」
蛇はふっと姿を変えると布団を押し退ける。薄い寝衣が肌蹴、乱れている藤を軽々抱えると立ち上がった。
「え? いや、自分で行くからっ、降ろして……」
平然と、この姿のまま移動されるのが恥ずかしい。せめて身を整えたいと朽名の腕から降りようとする。だが、動かした身を籠められた腕で制されてしまった。
「遠慮するな。この方が少しでもお前に触れて居られるだろう?」
掛けられた言葉のせいで染まった顔を、隠す為に朽名の身へ埋める。その心地良さに瞼を閉じ、意識を沈めていった。
- 了 -