醤油派か塩派か「そういえば、最近扶桑の和服が話題になってるの、知ってる?」
クランハウスの居間で食事をしながらのお喋りの中、不意にお茶漬がそんな話題を出した。
「扶桑の和服が売りに出されたんでし? こっちの生地で作ったなんちゃって和服ならたまに見るでしよ」
「いや、まだ入り口までしか行けないプレイヤーばっかりだし、出島の商品で転売って話もないんだけどさ。その入り口でレンガードらしき人を見たって話が掲示板で話題になってる」
その言葉に全員の視線がこちらを向く。
それはまぁ……時々行ってますが?
「遠目で見ただけだけど扶桑なのにいつもの格好だった、から始まって、『レンガード様にどんな和服が似合うか』論争が起こって派閥が出来て……後はまぁいつもの通り?」
「……何でそうなるのかさっぱりわからん」
私の装備とか服なんて何でも良くないか?
「ホムラは掲示板見ないしねw それ、優勢は?」
「狩衣派がやや多いかな。羽織袴派と大体二分してる感じ? 変わったとこだと十二単派とかいるけど」
「絶対無理だな」
そういうのは女子に着せてください。狩衣とかも似合うかわからないのでパスで。
「和服でしか。あてちは和ロリ作りたいでし!」
菊姫らしいその言葉に、そう言えばと思い出すものがある。ストレージに入れっぱなしだったはず……あ、あったあった。
「菊姫、これをやろう。扶桑土産だ」
「反物!? 可愛い柄でし! いいんでしか!?」
「ああ。前に呉服屋で気が向いて色々買いあさったんだ。忘れてたが、他にもあるぞ」
矢羽根や麻の葉、市松模様といった伝統柄に、華やかな花模様、無地もある。物珍しくてつい衝動買いした何本もの反物を、柄物から藍染めまで色々出すと、どれにしようか菊姫が真剣に悩む。
そのやり取りを見ていたペテロが藍染めの反物を指さした。
「ホムラ、それどこで買ったの? 私も濃紺のが欲しいんだけど」
「江都の呉服屋だぞ」
「どこの店? 呉服屋覗いたけどそういう反物あんまり見かけなかったんだよね」
どこと言われると……人伝に紹介された呉服問屋の直営店? そう言われてみれば、店の表にはほとんど商品が並んでいない、一見さんお断り感のある店だったかもしれない。
「また変な店を見つけてるしw」
「いや、紹介だし普通の店だと思うが。反物欲しいなら好きなのを譲るぞ? 濃紺もある」
「あ、余分あったら僕も譲って欲しい。扶桑の有力者から紹介して貰う店のどこが普通かは審議案件だけどね」
お茶漬も便乗して手を挙げ、男向けの色柄の反物を手に取った。
シンやレオも好みの色の反物を広げて眺めている。
「オレ作務衣が欲しい!」
「レオはいつもの服で十分和服っぽいでし」
「良い色だな。ホムラは何か和服作ったのか?」
「寝間着を含めていくつか買ったり作って貰ったりしたが……こういうのとか」
シュッと装備チェンジして、紺青の着流しを着てみせる。扶桑の街歩きにいいかなと思って作った奴だ。白糸が僅かに織り込まれていて、帯は黒。
「似合う……と言えば似合う。けど何か若干遊び人ぽいw」
「髪が原因かな? それとも顔?」
そう、銀髪と着流しが似合うような似合わないような微妙な感じなのだ。何でだろう?
「まぁ気にするな。どうせ街着だし」
皆の意見は気にせず、せっかく和服に着替えたのでストレージから秘蔵のお菓子とお茶を出す。
お茶は扶桑で買った良い緑茶で、茶菓子は扶桑で見つけたレシピで作った――バリン、と。うん、美味しい。
「煎餅w」
お手製の醤油煎餅をバリバリと囓るとペテロが笑いを堪えるような顔をした。
美味いぞ。食べるか?
「狩衣派も羽織袴派も、これ見たら泣くね」
「現実を見せてあげたいでし」
「案外新たな扉を開くかもしんねぇぞ」
「わはははは、一枚くれ!」
この後、皆それぞれ気に入った反物で浴衣や和装を作り、いつか扶桑に行ったら着て歩こうという話になった。
先の楽しみが増えたのは良いのだが。
「あ、ホムラは煎餅の食べ歩きも禁止で」
「何故!?」
「当然でし」
「仕方ないねw」
「諦めろ」
「わははははは!」
解せないんですが!?