Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    sogomujohi

    @sogomujohi

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 48

    sogomujohi

    ☆quiet follow

    七つの大罪・怠惰のミンミンの昔話。
    (七夕伝説・西遊記などをベースに書いてます)

    牛の天女 とある夫婦が、結婚してから仕事をしないでずっとちちくりあっていた。新婚生活が楽しくて仕方がないのはわかるのだが、妻は 機織はたおり機に埃を溜め、夫は牛舎に何日も足を踏み入れていない。
     何頭もいる牛の中で、大きくて乳の出の良い牛がいた。こまめに絞ってくれる者も来ず、子牛も早くに引き離されてしまっていたので、張って熱を持ち痛む乳を抱えて不安そうに主人の寝屋を見つめるばかりだ。
     やがて牛は病気になってしまった。自分の命が残り少ないと悟った時、牛は恨みを持つどころか、主人への純粋な思いだけを抱いていた。

     私を大切にしてくれた、心優しいご主人様。私はもう、あなたの役に立てない。だからせめて、祈らせて欲しい。

     どうか、幸せに。今が幸せならば、もっと幸せになって。

     牛は長く最期の息を吐き、そっと目を閉じた。



    「今年の七夕のご馳走はどうしようかね」

     静かな湖畔で椅子に座りながら、老女が独りごちた。三歳の女の子が、石ころで絵を描くのをやめて顔を上げた。

    「おばあさま、たなばたってなに?」
    「七夕はね、織姫と彦星が、年に一度会える日なんだよ」

     老女が優しい声で七夕神話を語るうち、女の子の笑顔がだんだん凍り付いていく。

    「ミンミン……どうしたの?具合でも悪いの?」

     老女が心配そうに声をかける。ミンミンと呼ばれた女の子は無言で首を振り、また石ころを手に取った。

    (思い出した……私は、彦星様の牛だった……)

     彦星の大きくて掌の皮が厚い手が背を叩き、毛並みを整えてくれた。張った胸を丁寧に扱い、乳を絞ってくれた。優しく笑顔で語りかけ、顔を撫でてくれた。
     一つ一つの些細な思い出が次々と頭を支配し、その日ミンミンは熱を出した。寝床で前世の主人を思って、一粒涙を流した。



     ミンミンは非常に頭が良かった。家が裕福なことが幸いし、女だてらに学びに行くことを許された。文字を覚えれば貪るように本を読み、知識を漁り、吸収した。さまざまな宗教学にも手を出した。
     全ては、主人であった彦星を救いたい一心だった。

    (私が死んだせいで天帝様の怒りを買い、奥様と離れ離れになってしまった……)

     ミンミンは優しい娘だったので、どうにもならないような事態にも責任を感じていた。
     やがて、女性という立場では十分な範囲を学び尽くした。しかし、ミンミンが納得する解決法は見つからなかった。

    (もう、これしか可能性がない)

     ミンミンは、その晩ソッと家を出た。
     前世の記憶があるミンミンは、天界に行って織姫と彦星を許して欲しいと直訴することを決意した。人をやめ、天女になることを目指したのだ。



     ひっそりと立ちそびえる山に入り、そこで寛いでいた仙人に頭を下げた。仙人は、人間の女性が弟子入り志願をしてきたことに大変驚いていたが、ミンミンの中身を見て前世の記憶や目的を知り、哀れに思って受け入れた。
     そこからは座学も武術もひたすら勉強した。だが、ミンミンはとても楽しくてたまらなかった。目的の為とはいえ、勉強することが嬉しかった。趕屍かんしの術(死体を操る技)だけはどう頑張っても落第ギリギリだったものの、道士を経て無事に仙女となった。
     やがて師匠の口伝てで天界での働き口を得て、ミンミンはようやく天女となった。
     師匠が天女の証である美しい羽衣をミンミンに渡す。

    「可愛い弟子よ。天界へ行ってお前の望みを叶えられると良いな」

     師匠がミンミンに笑いかけるとミンミンは目を輝かせて、深々と頭を下げた。



     ミンミンはまず下働きから始まった。誰もが嫌がる 弼馬温ひつばおん(天界の馬の世話係。かつて孫悟空が嫌々やっていた天界最下層の役職)の役職は、元々牛だったミンミンからすれば何も苦ではない仕事だった。よく手入れし馬にも懐かれていることを評価され、役職がまた上がる。だが賢く勤勉なミンミンはどんなに仕事が多く難しくなっていっても、やり甲斐を感じてさらに勉強をする。
     とうとう、嫦娥じょうがという月の女神の側近になることができた。ここで仕事をやりきり、さらに上の地位へ登って天帝と口を利けるほどになれば、直訴が叶う。

    (一体いつまでかかるかわからないけど……)

     それでもミンミンはやり遂げようと努力した。上手くいけば天の川に配属されて、彦星と再会できるかもしれない。

     その後、後任の 弼馬温ひつばおんが仕事をサボったり、蟠桃園ばんとうえんを金の猿が荒らして大暴れしたり、天界だけでなく仏まで巻き込んで大事件が起き続けた。その喧騒の中でも、ミンミンは丁寧に着実に信頼を得ていった。


     そうして騒ぎが収まり一ヶ月が過ぎた頃。

     酔っ払った 天蓬元帥てんぽうげんすいが嫦娥の寝屋へ侵入しようとしてきた。この男は日頃から嫦娥にちょっかいをかけていて要注意人物だった。やはり天の川の群を率いる元帥だけある。扉の前でミンミンが相手をしたが赤子の手を捻るように躱されてしまった。結果的に、嫦娥は寸でのところで自力で逃げ、 天蓬元帥てんぽうげんすいは天帝によって捕らえられた。
     問題はミンミンだった。天帝は 天蓬元帥てんぽうげんすいを鞭打ちの末天界から追放するだけでは怒りが収まらず、侵入を許してしまったミンミンまでもを追放すると決定してしまった。
     ミンミンは泣きながら這いつくばり、申し開きをさせて欲しいと請うも、あれよあれよと引き摺り出されてしまった。
     雲の上から突き落とされる瞬間、天女の羽衣がするりとミンミンから離れようとする。ミンミンは咄嗟にそれを掴み、羽衣ごと地に堕ちていった。



     朝霧がヒタヒタと着物を濡らす。
     あれから一ヶ月?半年?一年……もっと経ったのだろうか?手に持ったままの羽衣は相変わらず天に帰ろうとして上へ上へとグイグイ浮かぶ。ミンミンの手から逃げようとしているが、細く白い指は意地でも羽衣を離さなかった。
     どこにも行く宛がなく、足を運んでいた。ここがどこだかわからなかったが、ふと潮の匂いがしてきた。どうやら近くに海があるようだ。
     ツテを使って天界へ行ったのに堕天してしまったとなれば、面目を潰してしまった師匠の元へなど到底帰ることはできなかった。天界と地上の時間の流れは違うので、あれから何百年も経ってしまい、家族の元へも帰れない。
     初めてわかった。あれだけの努力も、こうなってしまってはまるで意味がない。培った知識も何も役に立たなかった。ミンミンはただ、親のように大好きだった彦星を助けたかっただけなのに、酷く遠くまで来てしまったようだ。
     ハッと足を止めた。一寸先は霧で見えなかったのだが、崖の淵まで来ていた。遥か下に、荒々しく高い波が岩肌に当たって砕ける。ミンミンは心臓をバクバクと鳴らしていたが、やがてフッと冷静になった。

     行くところがないのなら、行く先は一つ。

     ずっと離さなかった羽衣を首にぐるぐると巻き付けた。羽衣は相変わらず天へ向かって上るので、ミンミンの細い首はすぐにギュッと締め付けられた。息が詰まり、血が沸騰するようにドクドクと耳の奥で響く。そのまま一歩、崖の先へと足を伸ばした。
     冷たい海面に叩きつけられ、体が深く深く沈む。首を絞める羽衣はまだ力強く引っ張り、だんだん海面に体が上がり始めた。

    (もっと重く)

     ミンミンがそう感じると体の一部が石に変化へんげし、沈む速度が上がる。

    (もっと、もっと重く)

     天女は不死身だ。オマケに水面を歩けるし水中で息ができてしまう。ならば首を絞めながら沈んでしまえばいつかは死ねないだろうかと、いつもの聡明さはどこへやら、半ばやけくそでこのような行動に出てしまった。
     首が伸びてしまうのではないかと言うほど上下ともに引っ張られ、どんどん深い海の底へ沈む。強く瞑った瞼から、見えない涙が流れ出た。

    (ご主人様……不出来な私で、ごめんなさい)

     一際強く無念を抱き、やがてミンミンは意識を手放した。



    「マツリ様、見てくれんかね⁉︎」
    「いっつもみたいに沖で漁をしとったら、こんなもんが網にかかったんよ!」
    「ぶち怖かったわぁ…岩みたいに重かったんよ」
    「こりゃあ人魚ゆーんかいね?じゃけぇ、牛みたいな角がついとるけど……」

     なんだか随分寝ていた気がする。相変わらず首は締め付けられていて、羽衣がまだそばにあったのだと一安心した。だが、周りには人だかりができていた。ミンミンが見たことがない民族で、皆一様に不気味がって遠巻きに見ている。
     と、目の前に高下駄を履いた白い足が現れた。おずおずと見上げると、陶器のように白い肌と、金の髪に青い目をした、鼻の高い少女が仁王立ちしている。

    「貴女ね、何の妖怪か知らないけど、村人を怖がらせたらダメですわよ!このマツリ様が許しませんわ!」

     ふんす、という音が聞こえそうなほど胸を張っている。ミンミンはポカンと見つめた後、久方ぶりの太陽に目が眩んでまた突っ伏してしまった。

    「ああっ!ちょっと、ちゃんと聞きなさいよ!……しょうがないですわね。社に運びますわ。手伝ってくださいませ!」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🇴💒💘💕☺☺💴👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    noa_noah_noa

    CAN’T MAKE夏の初め、フォロワーさん達とマルチ中に「⚖️にキスしてほしくて溺れたフリをする🌱」の話で盛り上がり、私なりに書いてみた結果、惨敗しました。
    もし覚えていたらこっそり読んでください。もう夏が終わってしまいますが。

    ※フォロワーさんとのやり取りで出てきた台詞を引用・加筆して使用しております。

    ※水場でふざけるのは大変危険です。よいこは絶対にやらないでください。
    通り雨通り雨


     キスがほしい。
     恋人からのキスが欲しい。

     突如脳内を駆け巡った欲望は多忙の恋人と規則的な己の休暇を無断で申請させた。恋人に事後報告をすると、当然こっぴどく叱られた。けれども、その休暇を利用して稲妻旅行をしようと誘えば満更でもなさそうに首を縦に振ったので胸を撫で下ろした。まず、第一段階完了。

     稲妻までの道中、セノはいつものように気に入りのカードを見比べては新たなデッキを構築したかと思えば、『召喚王』を鞄から取り出してすっかり癖がついてしまっているページを開き、この場面の主人公の台詞がかっこいいと俺に教えてくれた。もう何百回も見ている光景だというのに瞳を爛々と輝かせる恋人はいつ見てもかわいい。手元の書物に視線を落としながら相槌を打っていると離島に着くのはあっという間だった。第二段階完了。
    2223