神様の石 九井一は神様に成りそこねた。
九井一は胸に宝石を抱いて生れた。神様になる子供の証である。神様の子は十八になると、神様になる。両親はもちろん、取り上げた医師や看護師もろもろ涙を流し喜んだ。なにせ神様の子を授かったのだ。名誉なこと、光栄なことである。
両親はそれはそれは大事に九井を育て上げた。マンションから一軒家に移り住んだのも、九井に良かれと思ったからだ。相談された不動産屋もとびっきりの好物件を破格の値段で紹介した。九井がかすり傷ひとつでも負えばすぐさま病院に運ばれたし、医者は嫌な顔一つせず丁寧に治療をしてくれた。
神様が一般家庭の子供として生まれるのは、人の世を観察するためだと言われている。九井は大切に育てられてはいたが、けして特別扱いはされてはいなかった。特別扱いしてはならないと暗黙の了解があるためだ。建前であっても、そういうことになっている。成長した九井が市立の小学校に通うことになったのも、そのためだ。
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