星のかけらを食うロボットの話 水で満たされたピッチャーとカラフルな英字に彩られた箱が机の上に乱暴に置かれた。
ガラガラと箱の中身が白いスープボウルの中に注がれる。いくつもの黒い石の塊がボウルの中で山盛りになる。
赤い機体はそれをスプーンですくって口に運んだ。ボリボリ、ゴリゴリと、石を食んでいるとしか云えない硬質な咀嚼音が響く。
ひとさじ、ふたさじ。三さじ目を頬張りながら赤い機体――チャージマンはピッチャーを呷り、中身をぐびりぐびりと半分ほども飲み干した。
この食事風景を眺めていた者たちがいる。同じくエネルギー補給を行っていたチャージマンの兄弟機、総勢七名である。
彼らのエネルギー補給はチャージマンとは違い、ロボットに必要なエネルギーが濃縮されたE缶を啜ればそれでおしまいだった。だから彼らにとって、大量の石炭と水を腹の中に詰め込むチャージマンの「食事」は一種異様な光景に……云ってしまえば、動物園のゾウが大量の干し草を食べるところを眺めるのに似ていた。
……と、さすがに七人の視線を集めて気づかずにいられる程鈍感な男ではなかったチャージマンが、ひとの食事風景を遠巻きに見ていた兄弟たちを睨み付けてきた。
「……なに見てやがる。見せモンじゃねえぞ」
この熱しやすく、頭の堅い男に因縁を付けられるとたまったもんじゃない。みんなはめいめい目を背けて知らんぷりするか、いやあ、はははなどと苦笑いでごまかそうとした。
ところが彼ら兄弟の中には、持論の正しさを信じ切るためなら仲間との諍いを厭わない男がいたのである。
「いやあ……大いに見世物だね。原始時代にタイムスリップしたみたいな補給風景だ」
基地の高い天井に張り付いていたグラビティーマンが、皮肉な笑みを顔に貼りつけて云い放った。理論派の彼は、ワイリー博士の「石炭燃料で動くロボットなら新エネルギーを使うより安く上がる」という気まぐれな設計思想を憎んですらいたのだ。
なにを、とチャージマンがいきり立つ。頭の煙突から鋭い音を立てて、勢いよく蒸気が噴出した。
「てめえ! やるかグラビティー!」
「煙上げるな、部屋中まっくろになる」
チャージマンが怒り出すと、これだからたまらない。兄弟たちはみんな手を焼かされてきた。屋外ならまだしも部屋の中で彼を怒らせると、煤混じりの煙がもうもうと立ち上って天井も壁も彼ら自身も汚れてしまうのだ。
しかしグラビティーマンは挑発をやめなかった。我慢がならないのは彼も同じだった。散々目の前でこんな改良の余地しかない補給風景を見せられて!
「きみがエネルギー補給するさまはいつ見ても原始的すぎて感動すら覚えるよ。きみ、前に博士からソーラーバッテリーに切り替えようって提案されたのに、蹴っちゃったんだろ? ジャイロと同じくきわめて感傷的な理由でさ。きみらの執着するアナクロニズムには驚かされるね、呆れるという意味で」
急に名前を出されたジャイロマンは反駁しようとしたが、しかしそれはしびれを切らしたような大声にかき消された。
「――ええいごちゃごちゃごちゃごちゃと! 訳のわからん横文字使うんじゃねえ」
「……話にならない」
チャージマンは前時代的な趣味を持つせいもあってか、いわゆる外来語が苦手だった。グラビティーマンは呆れたようにそっぽをむいてしまった。
「グラビティーはあんな意地悪云うけれどねチャージ。ボクはチャージの野趣あふれるエネルギー補給、気に入ってるんだよ」