しみる その日の俺は、完全に酒に呑まれていた。同僚の愚痴に付き合わされ大いに盛り上がり、気づけば仕事でもないのに先生宅の玄関にへたり込んでいたと、先ほど聞かされた。
まだ朦朧とした頭で、汁椀に上る湯気を見つめている。
「ごめんね、定番のしじみじゃないけど」
台所から先生の声だけが届く。
「すみません……」
「気にしなくていいよ。俺もネタ貰えたと思っとくし」
「いやそれも……」
本来ならコンプラ違反。
「大変だよね、ものづくりとか言っても俺達のはただ字の羅列だしさ。君はよくやってると思うよ」
やっと顔だけのぞかせた彼は穏やかそうだったが、首元の赤い印を見つけてしまい、張本人の俺は消え入る思いであった。