コール、コール、コール 電話が鳴る
ウルフウッドの暮らしに影がさす時、それは必ず訪れる。
ウルフウッドがひとりの時を見計らうように電話が鳴る。
聞きなれたコール音がたわんだように、多方向から強烈な圧力をかけ無理やり歪ませたように聞こえたらそれが合図だ。
鳴り響く歪なコール音は今すぐ逃げ出したいような、逆に音の元に走りたくなるような焦燥感をウルフウッドに与えた。
始めは無視しようと頑張るのだが、どうにも我慢できなくて受話器を取る。
そんなことの繰り返しだ。
この電話について誰かに話したことがない。話したかった相手とは電話を取った後、必ず会えなくなるためだ。
ウルフウッドはしがないサラリーマンだ。主に大きな工場や病院向けの薬品を取り扱っている、いわゆるBtoBの企業である。それなりのシェアを占めているため業界の人であれば社名を知っている人も多いだろう。それ以外にも、これは社にとってみれば大変不本意なことであろうがブラック企業ということでも有名であった。
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