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    sosakukoikoi

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    sosakukoikoi

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    出演:ディール、グレン、るり
    口調とか細かい辻褄合わせはご都合で

    カタリシスのアジトは、今日も静謐に包まれていた。

    白い廊下をわずかに満たすのは、薬品と消毒液の匂い。そして空気を切り取るような冷たさ。

    そこを、ひとりの男が音もなく歩いていた。

    「……相変わらず静かだね。まるで、死者の祈りが続いてるみたい。」

    誰に聞かせるでもない囁きは、天井の明かりにかき消された。
    ディールは気ままな足取りのまま、ある部屋の扉を開ける。そこにいたのは、小さな少女。

    黒いうさぎのぬいぐるみを抱きしめ、紫のリボンを揺らすその姿──るりだった。

    「こんにちは、ルリ。……タルトも、元気そうだね。」

    「……でぃーるくん。こんにちは。タルトも、げんき、だよ。」

    るりは変わらない調子で淡く返す。紫の瞳が、ぬいぐるみ越しにディールを見つめていた。

    「ねえ、ルリ。グレンは居ないみたいだし──ちょっとだけ遊ぼうか?」

    そう言って、ディールは彼女の隣に腰を下ろす。
    上機嫌に微笑みながら、視線を真っ直ぐに重ねた。

    「ルリは、この場所が好きかい?」

    「……?すき。ぐれんさまも、じぇいくんも、いるから。」

    「うん……本当に、キミはいい子だね。」

    やわらかく微笑みながら、ディールは何気ない手つきでるりの髪のカールを指先で遊ぶ。
    その動きに悪意はないが、明確な下心もない。ただ、興味を持った猫がじゃれているような、それだけの仕草。

    「……ねえルリ、もっと違う世界にも、興味はない?」

    「……?」

    「たとえば、もう少し騒がしくて、楽しい場所。キミみたいな子がいれば、きっと世界がもっと綺麗に見えると思わないかい?」

    るりは小さく首をかしげるだけだった。彼の言葉の真意に気づいていないようだ。

    そのとき。

    ──コツ、コツ、と小気味よい足音が廊下に響く。
    ドアが開き、薬の香りと共に現れたのは、カタリシスのボス。
    少年の姿をしたグレンだった。

    「……よその組織のボスが、勝手に我が家で勧誘を始めるとは。君は相変わらずだね。」

    その声に、ディールの肩がわずかに揺れる。
    けれど振り返ったその顔には、困ったような、しかしまるで悪びれない笑みが浮かんでいた。

    「えぇ、誤解だよグレン。ね、ルリ?」

    「……?でぃーるくん、なにが?」

    「ほら、ね。」

    困ったように笑いながらも、どこか得意げなその声音。
    まるで“見せたかったものをちゃんと見せられた”子供のよう。

    グレンはため息すらつかず、目元にわずかな笑みを浮かべるだけだった。

    「……まあいい。ちょうど君に見せたいものがあってね。部屋を移そう。」

    「うん、それは楽しみだ。」

    るりに別れを告げて、ふたりはアジトの奥へと歩みを進める。



    グレンの私室は、いつもながら整然としていた。

    書棚には無数の論文と処方記録、棚には色とりどりの薬瓶と標本。そして空気には、薬品と乾いた紙と鉄の匂いが静かに混じり合っていた。

    「これが新薬だよ。」

    グレンは琥珀色の液体が入った瓶をディールに差し出した。

    「幻覚誘導と神経伝達遮断を合わせた混合型。まだヒトへの投与は試していないが……興味があるなら。」

    「あるよ。すごく、ね。」

    瓶を受け取ったディールのオッドアイが、わずかにきらめきを帯びる。
    まるで、誕生日に新しい玩具を手にした子供のように。

    ──その無垢な輝きに、グレンは一拍だけ目を細めた。

    「使い方は、間違えないように。過剰投与すれば、幻覚と感情制御の崩壊が同時に起きる。」

    一瞬の沈黙のあと、落ち着いた調子でまるで小さな子供を咎めるような声で告げられる。

    「……ライアン。」

    名前を呼ばれたディールは、囁きに応えるように笑う。

    「わかってるって。失敗なんてしない。──たぶんね。」

    「君のその悪癖は……治る見込みが薄いようだ。」

    グレンはそう言って肩を竦め、わずかに口元を緩めた。
    止める気はない。そのことをディールもよく知っている。

    「でも、楽しいよ?」

    「そうだろうね。」

    言葉は冷たく、しかし口元にはうっすらと笑み。

    ディールは薬瓶を懐にしまうと、背を向けて歩き出す。

    「じゃあ、また報告に来るよ。反応が面白ければ、ね。」

    「あぁ…。楽しみにしているよ。」

    背を向けたディールは、手をひらひらと振るだけで応えた。
    その背中には情も温もりもなく、ただ愉悦の影が滲んでいた。

    グレンもまた、それ以上何も言わず、扉が閉まる音に静かに耳を傾けた。

    ──二人の間にあるのは。

    温度のない絆が、互いを結びつけていた。

    そしてその均衡が崩れる日を、きっとどこかで──静かに楽しみにしている。
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