カタリシスのアジトは、今日も静謐に包まれていた。
白い廊下をわずかに満たすのは、薬品と消毒液の匂い。そして空気を切り取るような冷たさ。
そこを、ひとりの男が音もなく歩いていた。
「……相変わらず静かだね。まるで、死者の祈りが続いてるみたい。」
誰に聞かせるでもない囁きは、天井の明かりにかき消された。
ディールは気ままな足取りのまま、ある部屋の扉を開ける。そこにいたのは、小さな少女。
黒いうさぎのぬいぐるみを抱きしめ、紫のリボンを揺らすその姿──るりだった。
「こんにちは、ルリ。……タルトも、元気そうだね。」
「……でぃーるくん。こんにちは。タルトも、げんき、だよ。」
るりは変わらない調子で淡く返す。紫の瞳が、ぬいぐるみ越しにディールを見つめていた。
1916