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    みつ蘭だけどみつ+蘭かもしれない

    六破羅結成ちょい前くらいのイメージではあります

    その日の俺はとにかく暇だった。特段用事もないし、イヴサンローランの新作が出る月日でもない。おまけにいつも隣にいる弟の竜胆は、イベントがあるとか何とか言って早くから家を出て行ってしまった。

    何時もだったらこんな日は一日中家のベッドで寝て過ごすのだが、今日はどうしようもなく外に出たい気分だった。

    ん~何か犬、見てェな。渋谷の犬とか。

    そうと決めた時の俺の行動は速い。ハンガーラックの一番手前にある服を取り、櫛で髪を梳かす。喧嘩の時は長ェ髪が邪魔だからキッチリと三つ編みにするが今日はオフだ。なので俺のキューティクルを世界に存分に見せつけてやろうじゃないか。

    手早く身支度を整え、タクシーを捕まえて颯爽と行き先を伝える。 

    「お客さん、行先は?」
    「あ~…渋谷の犬ンとこ」
    「はい、承知致しました」

    流石俺、一言で全てが伝わるカリスマ運転手を捕まえてしまったようだ。問題なく目的地へ辿り着けば、今日も犬の周りに人が群がっていた。

    「んー今日もポチは片耳が下がってんなァ、ご機嫌斜めか?」

    俺がそう呟けば、タクシーのおっさんが「ハチですよ」と言っていた。

    そのままタクシーから降りて犬の方へと近づく。分かっていた事ではあるが人が多く、心なしか犬も悲しそうな顔をしていた。

    さて、用も済んだし家に帰って寝るか。そう思った俺の視界に見覚えのある紫色が目に入った。

    最後に見た記憶よりも少し雰囲気が変わっているが、銀色の髪に剃り込みの入った眉毛、そして低い背丈の割に妙な威圧感。

    「ン、東卍の三ツ谷じゃん」

    思ったときにはもう口から出ていた。そうすれば彼方も俺から溢れ出るカリスマオーラに気づいたらしく、パチリと視線がかち合った。

    「あ!灰谷きょうだ…今日は弟いねェの?」
    「何?俺だけじゃ不満?」
    「いやそもそもお前と待ち合わせてるワケじゃねーし!」

    デカい声でそう答えた三ツ谷は年相応の雰囲気を醸し出していた。その様子を見て、隊長じゃない三ツ谷、竜胆にちょっと似てンなァと今は横にいない弟のことを少し思い出してしまう。 

    「はは、じゃあ誰待ってんの?」
    「…それオマエに教えて何か得あんの?」
    「冷たいなァ」

    何コイツ、年上に対する態度がなってねーんだけど。東卍ってどんなキョーイクしてんの?

    ポチも見たしさっさと帰ろうと俺が踵を返そうとしたその時、三ツ谷の方からプルル…と着信音が聞こえてきた。

    「ハイ、…何?大寿に突然呼ばれた?あー…ウン、それはまあ…仕方無いな。分かった、じゃあまた今度」

    そう言って三ツ谷は携帯をパカリと閉めた。少し考え込むような仕草をしている三ツ谷の様子を伺えば、またもや視線がかち合う。暫し無言で見つめ合っていると、今度は三ツ谷の方から口を開いた。

    「…お前今日暇なの?」
    「それお前に教えて何か得あんのぉ?」

    鸚鵡返しに繰り返せば、三ツ谷は大きなため息を吐いて呆れた顔を見せた。俺ヒトのこういう顔大好きなんだよね~と無意識に口角が上がってしまう。すると、止むを得ずといった様子で三ツ谷が言葉を零した。

    「さっきのは、俺が悪かった」
    「うん、…で?」
    「…今日、暇だったらちょっと付き合ってくんねェ?」
    「へぇ、そんなに俺と遊びたいんだ♡」
    「あーもうめんどいからそういう事でいいワ…」

    めんどいという言葉は聞かなかったことにして、俺は特別に三ツ谷に付き合ってやることにした。

    「んで、何すんの?」
    「服を見に行きたくてさァ、一応人の意見も聞きたいじゃん?」
    「へー…」
    「オイあからさまに興味無くしてんじゃ無ェよ」
    「だって服とか何でも良くね?」

    俺の服は大体竜胆が選んでるからなァ…
    自分で買うにしても実店舗行かないでネットで買うし、そもそも俺何着ても似合っちゃうんだよね。

    「まあお前、何でも着こなせそうだしな」
    「よく分かってんじゃん♡」
    「喋らなければ完璧だよな、ほんと」
    「…お前さァ、年上にはもっと敬意払えー?」
    「歳上ねェ…」

    そう言って三ツ谷は小馬鹿にしたように鼻で笑ってくる。コイツまじでムカつく…もっかい奇襲かけてやろうかな。そんなことを考えている間にどうやらお目当ての店に到着したようだった。

    スタスタと迷いのない歩みで三ツ谷が手に取ったのは白のボアジャケットだった。少し大きめのサイズのそれをゆるりと羽織った三ツ谷は何だか羊みたいで、思わず笑みがこぼれてしまう。すると三ツ谷が少し眉を寄せて問いかけてきた。

    「…そんな似合ってない?」
    「いや、竜胆もオーバーサイズ着て周りを威嚇してるなって思って」
    「威嚇…」
    「何かさ、デカい服着るとシルエットもデカくなるって言っててさァ」
    「あー…」

    三ツ谷が分かったような分かってないような顔をして適当な相槌を打ってくる。まあ笑いはしたけど似合ってない訳では無いので優しい俺はフォローを入れてやった。

    「でもソレ三ツ谷に似合ってるよ、羊みたいで」
    「それ喜んでいいのか分かんねェよ…」

    俺の発言を受けて三ツ谷は少しだけ考えたようだったが、結局ジャケットを購入して店をあとにした。

    ____


    「んで、この後はどーすんの?」
    「ジャケットが目当てだったからなァ…あ!」

    突然三ツ谷が大きな声を上げ、キラキラとした目でこちらの方を見つめてくる。

    「最近開店したカフェの内装に俺の好きなデザイナーが関わっててさ、一緒に行こうぜ」
    「…まあいいけど」

    勢いに気圧されながらも二つ返事で了承すれば、三ツ谷は無邪気な顔で喜んでいた。肩肘を張っていない三ツ谷は本当に少しだけ、弟に似ていて甘やかしたくなる気持ちが生まれてくる。

    てくてくと歩を進めれば、三ツ谷が申し訳なさそうに口を開いた。

    「何かずっと歩きっぱなしで悪ィな」
    「…別に、歩くの嫌いじゃないし」
    「フーン、それは結構意外かも」

    歩くのは結構好きだ。そりゃベッドで寝たりするのが一番だけど、肩で風を切るって言うの?俺の存在を見せつけてる感じがめっちゃ好きなんだよね。

    目的のカフェへと辿り着けば、まあ大方予想通りではあるが、そこそこの行列が出来ていた。

    「うわ、流石に混んでんな」
    「んーまあこんなモンだろ」

    開店したばっかだし。そう言えば、三ツ谷は俺が文句を言わないことが意外だったのか、デケェ目がまん丸になっていた。

    「何その顔」
    「あ、いや…混んでんなら帰るとか言いそうなイメージだったからさ」
    「マジでお前の中の俺どんなイメージになってんの?」
    「高飛車なナルシスト」

    何だそのイメージ、どこの誰だよ。俺の機嫌が良くなかったら一発殴って帰ってるとこだぞ。

    そんなしょうもない話をしていれば時間はすぐに過ぎ、店員のオネーさんが俺らを席に案内してくれた。

    俺らが案内された席は4人席。俺が奥に座れば三ツ谷はその隣に腰掛けてきた。ぽかんと三ツ谷を見つめていると、三ツ谷も三ツ谷でキョトンとした顔で俺の顔を見つめてきた。

    「何?」
    「いや普通前に座んね?」
    「え、隣に座った方が話しやすいじゃん」

    てかお前に普通を諭されんのウケんな、そう言いながらケラケラ笑う三ツ谷を見て、間違ってるのは俺の方なのではないかと思わされる。

    「あ、あとさァ、お前もしかして東卍解散したって知らねェ?」
    「え、何それ初耳なんだけど。えっじゃあもう只の三ツ谷ってこと?」
    「お前ほんっと自分以外にキョーミ無いのな」
    「あ?少しはあるわ」
    「例えば?」
    「…お前とか?」

    俺がそう言えば三ツ谷が虚をつかれたような顔をして、小さく声を零した。自分で聞いたくせに何驚いてんだコイツ。

    「…俺さァ、三ツ谷だから不意打ちで頭ぶん殴ったんだよ」
    「は?」
    「東卍の三ツ谷は警戒しなきゃいけねェと思ったから後ろからコンクリブロックで殴った。興味なかったら顔も名前も覚えねェだろ?」
    「何言ってんだお前」

    何言ってんだってそんまんまの意味だろ。興味無ェヤツの名前なんて普通覚えなくね?

    「だからァ、俺も自分以外に興味あるって話だよ」
    「へぇ、それは何よりだな」

    調子が戻った三ツ谷が目をニイっと細めて微笑む。そしてそのまま手を伸ばして俺の髪の毛に手を触れてきた。

    「俺もさァ、結構興味あるんだよな。このサラッサラの髪の毛とか」
    「そ、れは…毎週美容院に行ってるからだと思うけど」
    「毎週!?」

    東卍って距離感バグってんのな、思わず反応が遅れちまった。

    「んな驚くことか?三ツ谷だってその髪色だったら定期的に美容室行かなきゃだろ」

    竜胆も水色のカラーを維持するために足繁く病院に通っている。三ツ谷もハイトーンに近い髪色なので、それなりに手入れをする必要があるだろう。

    「ん-俺全部自分でやってるから美容院とかは行かねェかな」
    「何ソレおもしれーな」
    「面白いってなんだよ」
    「自分で染めるって発想無かったわ」

    案外器用なんだなと感心すれば、馬鹿にされたと感じたのかじとーっとした目でこちらを睨みつけてきた。

    「流石六本木住みは言う事が違ェなァ…」
    「オイオイ馬鹿にしてる訳じゃ無ェよ?」
    「へー…」

    直ぐ不機嫌になるとこも、ころころ表情が変わる様も弟に似ていて何だか揶揄いたくなってしまうが、此処は年上のヨユーってヤツを見せてやろう。

    「いやマジで三ツ谷スゲェなって思ったよ、美容師なれんじゃね?」
    「はは、サンキュな。でも俺もう夢あるから」

    そう言った三ツ谷の瞳は静かに燃えていて、まるで喧嘩の真っ最中のような熱気を感じた。

    「フーン…どんな夢?」
    「俺デザイナーになりたくてさ、今結構頑張ってんだよね」
    「デザイナー…」

    デザイナーってあれだろ、パリコレとかのアレ。ていうか夢なんて久々に聞いたかも、もしかしたら天竺の行き着く先も夢だったのかもしれねェけど、あれは俺らにとっては希望だったからなァ…

    「じゃあカリスマデザイナーになる可能性もあるってワケ?」
    「可能性じゃなくて俺は"なる"よ」
    「は、強気じゃん」

    そういう姿勢は嫌いじゃない。俺はカリスマが好きだからな。

    「三ツ谷ァ、カリスマデザイナーになったらさ、俺の髪真似していーよ」
    「は、何だソレ」
    「ツートンカラーな~」
    「逆にお前が俺の真似してもいいぜ?ウルフカットにしろよ」
    「へーその髪ウルフって言うんだ。何か似合わねェな」

    そう言えばまた少し不機嫌な顔を見せる。だってお前ちっせェし何かふわふわしてるし羊みたいだもん。

    「…お前はお前で昔から長い髪ばっかじゃん」
    「昔から?2、3年前って昔に入んの?」
    「あ~今のナシ、短い髪も似合うんじゃねェのって話だよ」
    「まあ俺何でも似合うからいつかバッサリ切るかもな」
    「それはそれで勿体ない気もするけど…短髪のお前見たいなァ」

    長い髪が当たり前すぎて考えたことなかったけど短髪の俺も中々いいかもしれない。また機会があった時に考えよう。ぼーっとそんなことを考えていると、また三ツ谷が髪に手を触れてきた。

    「へ」
    「あ、悪ィ。やっぱキレーな髪だなって思って」

    キレーって言われて嫌な気はしねェけどコイツの触り方、何か変なんだよな。割れ物扱うみてェみたいにそっと触れてくんの、不良の癖に。

    「週一美容院って伊達じゃないんだな、マジ指通り良すぎ」
    「…そう」
    「てか俺このピアスもカッケェなって思ってたんだよね、やっぱ高いヤツ?」
    「っ、…わかんね、竜胆がくれたから」
    「ほんとお前ら仲良いよなー」

    髪を耳に掛けた後に指でピアスをなぞられて肩がぴくりと跳ねる。コイツの距離感まじでバグってる気がするけど、面と向かって言っても軽く受け流されそうで中々言い出せない。その間にも三ツ谷は俺の耳を指先で弄ってくる。

    「っあ、も、触んなって」
    「悪ィ、触られんの嫌だった?」
    「そこまでじゃねェけど…何かヤダ」

    三ツ谷の手首を掴んで制止すれば、怒られた犬の様にしゅんとした顔を見せる。その表情はトチった時に謝る竜胆に酷似してて…ってそんなとこまで寄せなくてもいいだろと深いため息をついてしまう。

    そんな俺の様子を見ていた三ツ谷が、それならばといった風に話しかけてくる。

    「…じゃあさ、お詫びに髪結わせてよ」
    「っ、それはお前がやりたいだけだろ!」
    「あ、バレた?」

    普通にバレるわ!でも髪を結わせてやらねェと後々面倒なことになると俺の第六感が警告してくる。渋々承諾してやれば、三ツ谷は楽しそうにバッグからヘアゴムと櫛を取り出した。

    フンフンと鼻歌を歌いながらすいすいと俺の髪を編んでいく様に、やっぱり器用だなと少し感心する。ものの数分で俺の髪を結んだ三ツ谷は大層満足そうにニッコリと微笑んでいた。

    「…満足?」
    「スゲー満足!あ、てかそろそろ出る?長々と付き合わせちゃって悪かったな」

    そう言って三ツ谷が席を立ち、俺もあとを着いていく。カフェを出ればもう日は沈んでいた。タクシーを捕まえて帰っても良かったのだが、気づいたら駅まで三ツ谷と一緒に歩いていた。

    三ツ谷と途中まで同じ電車に乗り、他愛もない会話をする。三ツ谷が電車を降りる時に「またな」と声を掛けてきた。また会うときは多分敵同士だけど。そう思いながらも俺の口角は自然と上がっていた。

    ____

    家に帰れば可愛い弟がソファに座ってテレビを見ていた。

    「ん、兄貴おかえり。珍しいね昼間出てるなんて」
    「あ~たまたまな」

    そう、今日は本当に偶々が重なった日だったのだ。そして帰宅した瞬間どっと眠気が襲ってきた俺は自室へと足を運ぶ。

    …と、その前に一つだけ忘れていたと弟に声を掛ける。

    「竜胆さァ、髪の毛ウルフにすれば?」
    「え?何で?俺の今の髪そんな似合ってない」


    あーその返し方、やっぱ少し三ツ谷に似てるかも。




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