類その日の俺はとにかく暇だった。特段用事もないし、イヴサンローランの新作が出る月日でもない。おまけにいつも隣にいる弟の竜胆は、イベントがあるとか何とか言って早くから家を出て行ってしまった。
何時もだったらこんな日は一日中家のベッドで寝て過ごすのだが、今日はどうしようもなく外に出たい気分だった。
ん~何か犬、見てェな。渋谷の犬とか。
そうと決めた時の俺の行動は速い。ハンガーラックの一番手前にある服を取り、櫛で髪を梳かす。喧嘩の時は長ェ髪が邪魔だからキッチリと三つ編みにするが今日はオフだ。なので俺のキューティクルを世界に存分に見せつけてやろうじゃないか。
手早く身支度を整え、タクシーを捕まえて颯爽と行き先を伝える。
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