「じゃあ創、仕事行ってくるから」
今日も友也くんは仕事だ。
ぼくはその間、国の基準で定められた広さの檻の中で過ごすことになっている。
「はい。あの…気を付けてくださいね友也くん。最近近所の方の視線が厳しいので」
「気にしなくていいよ創。あんな奴らほっとけばいいんだよ」
さも気にしていないような友也くんだけど、ぼくは知っている。
毎週のように家に押しかけてくる近隣住民が、ぼくの存在を快く思っていないということを。
「ほんとうに…気を付けてくださいね?」
「ああ、分かったよ」
そう言い残すと、友也くんは部屋を後にしてしまった。
備え付けのテーブルには、ラップに包まれた野菜炒めが置いてあった。
毎回ぼくのためにおいしいごはんを作ってくれる友也くんには、本当に頭が上がらない。
「たまにはぼくが作ってあげたいなぁ…」
野菜炒めを完食し、ぼくは檻の外を見た。
こんな姿になってしまったぼくは、外出の自由なんて当然許されていない。
所詮危険生物扱いのぼくは、法という名の理不尽な網に囚われている。
けれど、人の形を留めていない歪な腕でも、ぼくは頑張れるなら頑張りたい。少しでも友也くんの助けになりたかったのだ。
「檻…開いてる」
友也くん、慌てて閉め忘れちゃったのかな?
飼い主の不在時に檻から出るのは不法だけど、ちょうどいい。
なにせ、料理を作りたいだけなのだから。
扉が空いていることを確認すると、ぼくは伸びきった足を引きずりながら自室を抜け出した。
そのままリビングの、台所の冷蔵庫の中身を確認する。
最初は切り落としたいぐらいだったこの腕だけど、頑張って訓練したから今では料理だって作れちゃいます。
「…あれ、キャベツが切れてる…」
時間はまだ朝方。友也くんだってしばらく帰ってこないはず。
大丈夫、ちょっと出かけるだけ。
この体も、長袖を着れば誤魔化せるはずです。
夏場にはちょっと不自然な格好かもしれませんが…。
「わぁ、久しぶりの外……」
がちゃり、とドアを押し開けると、外界の空気。
けれど10年も吸っていなかった外の匂いは、とても異質で。
ぼくはおかしくなってしまったんでしょうか。