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    リハビリのような、違うような?

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    現代パロ吸血鬼パロのキリユジ。吸血鬼キリトとしょたユージオの出会い。※血と怪我表現あり

    現代吸血鬼パロ――――ねぇ、

    ――――ねぇ、どうしたの?



     いつの間にか落ちていた意識の中で、ぽつりと何かが聞こえた。
     黒く塗りぶされた闇しかない世界で聞こえてきた音、いや正確には声だ。遠慮と戸惑いを隠しきれない問い掛けは、ふと風が吹けば掻き消えてしまいそうなとても小さな声だった。
     そんなものは無視しても良かった。

    (……何もしたくない。もう嫌だ)

     この世の全てがどうでもいい。
     そう思って俺は目を閉じたのだから。
     今だって何もかもが面倒に感じられた。せっかく閉じたものを開けるなんて面倒だ。他のことなんてわざわざ気にかける必要なんてない。

     なのに、どうしたことか。
     今置かれている状況からくる本能的な警戒心からか、はたまたこんな自分に声をかけてくるなんてどんなヤツだろうかと興味をそそられたのか。……少しだけならいいかと邪念が湧いた。
     少しだけ、ほんの瞬き程度の時間なら相手をしてもいいんじゃないか。別に減るもんじゃないし、時間なら今までだっていくらでもあったじゃないか。
     どうしてだったのか、理由はよく覚えていない。俺自身、その時の状況が状況だっただけに当時の記憶は曖昧だ。今思い返したところではっきりとは分からない。

     でも、どっちでも良かったんだ。結果的に俺はそちらを選んだのだから……。

     まだ眠っていたいと訴えてくる体に鞭打ち、今やあるようでない消えかけの気力を使って、重たい瞼をこじ開ける。ずっと闇の中にいたせいかぼやけて見えない視界が時間が経つにつれてはっきりとしてくると、そこには小さな子供がいた。
     くるりと丸い翡翠の瞳、ふわふわそうな亜麻色の髪の毛。するりとなめらかで柔らかそうな白い肌に、まだまだ成長途中で短い手と足。見るからに子供の少年が、目の前に立っていた。
    (…………)
     視界が良くなっても意識ははっきりとはしなかった。
     目を覚ましても道端に座り込んだまま動けない。意識を失う前から寄りかかっていた石レンガの壁は夜の空気に触れて冷たく、アルファルトの地面はこちらを拒絶するように硬い。つまり居心地はすこぶる悪い。それでも動けない程に体力がなかった。
     どことなく、だるさを感じる。
     眠気とは違うだるさに何故かだろうかと頭を回すと、納得がいった。
    (そういや……喉が渇いたから、腕噛んだまま放置してたんだよな)
     そりゃあダルいよな。出血したまま放置すれば、血が外に出てそのまま貧血になる。何かの足しになれば良かったのに、結局この様だ。
    (……これで死ねたら楽だったんだけど、な)
     頭を動かすのすら面倒で、ちらりと視線だけを横にやれば、だらりと力なく垂れ下がった腕が目に入る。服の上から噛み付いた腕は見るも無残で、ホラー映画のワンシーンみたいだなと自分のことながら他人行儀に思う。血は止まっているものの体へのダメージは大きい。
     吸血鬼である俺は一般的な人間達とは違って自然回復が早い方だ、とはいえ、万全の状態ではないからそうとも言い切れない。
    (だるい。眠い。あと…………)
     覚えがありすぎる疼きを感じて、無性に苛立ちを覚えた俺は舌を噛み切りたくなった。そうしたくてもそれを実行するだけの体力がない。そんな簡単なことすら満足にできない俺はただ行き場のない気持ちを噛みしめるだけだ。


    「あ、あのっ……えっと」

     ああ、いけない。忘れかけていた。
     俺はコイツに呼ばれて目を開けたんだった、とどうでもいい方向に逸れていたぬるい思考を働かせる。
     ぼんやりしているだけなんて、これじゃ、なんの為に目を開けたのか分からなくなってしまう。それならそれで、目を閉じればいいだけなんだが……一度決めたことを曲げるのは癪だし、負けた気がするから嫌だ。
    「あのっ、だいじょうぶ……ですか?」
     声をかけても返事が返ってこないことに不安を煽られたのか、少年が拙い言葉を続ける。怪我した俺を見て動揺したのだろう、言葉と共に瞳が揺らいでいる。
    (……大丈夫かと聞かれれば、大丈夫じゃないな)
     腕の怪我はまだ治ってないし、意識もぼんやりしている。万全の状態てばない。
     見た通りだよと、とりあえず返事をしようと口を開くが、掠れた息が溢れるだけで音にならない。駄目だ、声が出ない。
    (体力なさすぎだろ俺。まぁ今まで無視してきたせいだけど)
     自業自得だ。弁解の余地もない。
     動けず、ただヒューヒューと声にならない細い息を吐くだけの俺を心配そうに見つめてくる少年に、自分のせいだから気にしないでくれとも伝えられない。

    (そうか。この子供は俺を心配をして、声をかけてきたのか)
     小さいのにしっかりしてるな。道端に怪我人がいるなんて、俺だったら怖くて逃げているかもしれないな、と余計な考えが浮かんだ。こんなことならもっと人里離れた場所で倒れるんだった。まだ小さな子供には随分と衝撃的な光景を見せてしまった。ごめんな、と謝りたいのに声が出ないんじゃどうしようもなかった。……情けないな俺。
     やるせなさを感じながらも、じっと見つめていたせいがだろうか。少年のぴくりと大きく小さな肩が跳ねる。声をかけたけれど、反応があるとは思っていなかったのか、もしくは反応があってどう対応したらいいのか困っているのか。少年はどうしよう……と決められずに俯いてしまうと、視線を左右に揺している。
    (……いっそ、そのまま無かったことにしてくれてもいいんだぞ。お前は何も見なかった。ほら、他の誰かが助けてくれるかもしれないだろ?)
     そこまでして助けてくれようとしてくれなくていい。俺のことは気にしないでくれ、そう見つめながら訴えていると、ぱたと少年の動きが止まる。
    (お、これは諦めて帰る気になったか?)
     うんうん、それがいい。それなら良かったと安堵する俺とは正反対に、少年は何かを決心したように頷くと一歩前に歩み出た。
    (……え?)
     呆気にとられる俺が何も反応出来ないでいる内に少年――ユージオ――は俺のすぐ目の前まで近づいてきていた。


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