Gift【ギフト】
現代。日本。
平凡な高校生である俺にとっては、この平和な国での暮らしは真綿で首を絞められるようで、逆に息が詰まった。
朝食のトーストをかじり、テレビから垂れ流されるニュースに耳を傾ける。
『昨日の深夜、民家が燃えていると通報があり……警察は火に関係するギフトを持ったアプライヤーの犯行とみて調査を進めています』
「またぁ? 最近多いね、嫌だわ」
食卓の向かいに座ったお袋が大きくため息をつく。
「でもさ、アプライヤーっていいよな。カッコ良くね」
「なに言ってんの。カッコ良くたって悪かったって、犯罪に使ったらただの犯罪者だよ」
平凡平和が一番、と、俺のアプライヤーへの憧れをばっさり切り捨て、お袋は食事を急かすように睨んできた。
朝食を詰め込み、遅刻しないように走ったせいで痛む腹を庇いながら、教室に入る。
進級したばかりでクラスの空気に馴染めているとは言い難いが、幼なじみの竹倉……通称竹やんが同じクラスだったのは運が良かった。自分の机の横に鞄をかけて竹やんの席に向かう。
「竹やん、おはよ。なに読んでんの」
「ち、『超能力の覚醒方法』……って本」
竹やんは昔からオカルティックなものが好きだった。特殊な趣味と、内気でどもり気味な喋り方のせいで、よくからかわれている。
「超能力といえばさぁ、最近アプライヤーの犯罪多いじゃん。ちょっとカッケェよな。俺もギフト持ってたらなー」
「そ、そう、だね」
ギフトとは、自然現象に基づいた特殊能力。
と、専門家は説明しているが、細かい定義は難しすぎて、一般人には到底理解できそうもない。
遺伝的な要素が絡むのかどうかすら不明だが、生まれつきギフトを持っている人間はアプライヤーと呼ばれる。そして残念ながら、俺も竹やんもアプライヤーではない。
「と、隣のクラスに、転校してきた、黒沼さん。アプライヤーって、うわさだよ」
黒沼さん、と名前が上がって、思わず背筋が伸びた。
「黒沼って、黒沼スイさん? でも本人は否定してんだろ」
「うん。で、でも僕見たんだよね。彼女が戸締まりされた教室を、鍵も持たずに開けるとこ」
「へぇ〜」
アプライヤーだとしても、そうでなくとも、俺は彼女に惹かれていた。話したことはないが、廊下ですれ違う度、あの暗く澱んだ目に自分が映されるのを妄想してドキドキする。
「……今度直接きいてみる?」
俺の提案に、竹やんはキョトンとした表情を見せた。
「まださ、俺らがギフト持ってないって決まった訳じゃないじゃん。気づいてないだけかもしれないし。黒沼さんがギフト持ちなら俺らにギフトがあるかどうか分かるかもしれないぜ」
「そ、そうかなぁ」
理由はなんでもよかった。黒沼さんと共通の話題さえあれば、近づくチャンスになるのだから。