ようこそ青空へ 深夜。日を跨いで間もない頃だろうか。何となく寝付けないダイキは神社の屋根の上に登り、夜空を眺めていた。
「綺麗だな…ここ最近天気が悪かったけど、今日は晴れてて良かった」
冬の夜はかなり冷えるものの、白衣の下にある程度着込んでいるため、寒さはだいぶ和らいでいる。
今は呼吸と共に流れ込む冷たさを噛みしめながら、眠気が訪れるまで屋根で寝そべるだけだ。
「…ん、もう良いかな」
数刻後、じんわりとした心地よさが瞼を押さえようとしているのを感じた。
そろそろ寝床に戻るかと体を起こす。
その時、小さな明かりが後ろを横切る気配を感じた。
不思議に思い、そちらの方に目を向けると、何やら奇妙な物がそこにいた。
「…蝶?」
そこにいたのは、白く光る一匹の蝶であった。その光は夜の暗がりを月のように優しく照らしてくれるような明るさだ。
だが、蝶が光るなど、これまでの人生の中で見たことがない。
目の前の光景にダイキはただただ呆気に取られていた。
(一体どこから…?)
そう思いながら、何となく指を一本出してみる。
すると、その蝶が吸い寄せられるように止まった。羽を小さく動かし、休憩をしているようだ。
決して眩しくない、温かさすら感じるような光だ。その光に照らされれば、どんな悩みや苦しみも晴らしてくれるだろう。そんな風にまで感じた。
少しして、蝶は再び飛び始めた。
どこへ行くかは本人次第、とでも言うようにフワフワと宙を舞いながら夜空を渡っていく。
その様子を眺めながら、ダイキはある言葉を発した。
なぜその言葉が浮かんだのかは分からない。ただ何となく、そう伝えたいと感じたからだ。
「…こっちも、案外楽しいよ」
言葉の意味を知ってか知らずか。蝶はただ、フワリフワリと夜風に乗ってどこかへと行ってしまった。
~終~